「AIだけでは机を1ミリも動かせない」 山際議員が語るAIロボティクス時代、日本の勝ち筋 デロイト「ロボティクス・フィジカルAI戦略最前線フォーラム」【後編】

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「AIだけでは机を1ミリも動かせない」 山際議員が語るAIロボティクス時代、日本の勝ち筋 デロイト「ロボティクス・フィジカルAI戦略最前線フォーラム」【後編】
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デロイト トーマツは2026年7月22日、「ロボティクス・フィジカルAI戦略最前線フォーラム」を東京都内で開催した。

同フォーラムには、赤澤亮正経済産業大臣、松本尚デジタル大臣、小林茂樹文部科学副大臣をはじめ、ロボット議員連盟会長の山際大志郎衆議院議員、同事務局長の山田太郎参議院議員らが登壇。政府が10年ぶりに策定した「AIロボティクス戦略」を軸に、日本がフィジカルAI時代にどのような勝ち筋を描き、社会実装を進めるべきかを議論した。(関連記事「2040年にAIロボット1000万台へ 政府が描く「AIロボティクス戦略」の全貌 デロイト「ロボティクス・フィジカルAI戦略最前線フォーラム」前編」)

本記事では、生成AIによって「ものづくりの時代が再び訪れた」と語り、日本の大企業の意思決定の遅さにも強い危機感を示した山際氏の講演を中心に紹介する。

■AI・ロボットの潮は「満ちている」 競争は再びハードへ

山際氏は「失われた30年」は、日本が強かったハードウェアから、ソフトウェアへ価値が移った30年だったと振り返る。しかし生成AIの登場で、競争は再びGPUや半導体、ロボットといった『ハード』へ戻りつつあると指摘した。

ロボット議員連盟会長の山際大志郎衆議院議員。自民党経済産業部会のロボティクス戦略プロジェクトチーム座長も務める

山際氏は冒頭、AIやロボットへの期待は、これまでにも何度も高まっては後退するという歴史を繰り返してきたと振り返った。
現在の盛り上がりも一過性のブームなのか、それとも社会や産業を大きく変える転換点なのかを見極める必要がある。そのうえで山際氏は、現在は潮が引いている時期ではなく、明らかに「満ちている」局面だとの認識を示した。
日本は、この流れを今度こそ確実に産業競争力へと結びつけなければならないという。

背景にあるのが、生成AIを中心とした技術競争の変化だ。
当初、生成AIの競争は、より高性能なAIモデルを開発するソフトウェアの競争として始まった。しかしAIをさらに賢くするためには、膨大な計算を実行する計算資源が必要になる。

そのため競争の焦点は、AIモデルだけでなく、GPUをはじめとする半導体、最先端のロジックチップ、データセンターなどの物理的な基盤へと移りつつある。

山際氏は、約30年前まで日本が半導体やものづくりで世界をリードしていたことに触れ、その後の30年間は、価値を生み出す中心がハードウェアからソフトウェアへと移った時代だったと説明した。

一方、現在はAIを動かす半導体や計算資源が国家や企業の競争力を左右するようになり、ハードウェアを作る力の重要性が再び高まっていると指摘した。

■「AIだけでは机を1ミリも動かせない」現実世界を変えるフィジカルAI

半導体とともに山際氏が重視したのが、AIとロボットの融合だ。生成AIは、質問に答えたり、文章や画像を生成したりできる。しかし、AIがコンピューターの中に存在するだけでは、現実世界の物体を動かすことはできない。

山際氏は、その違いを「AIだけでは机を1ミリも動かせない」「ロボットという身体を得た瞬間、AIは現実世界を動かす存在になる」と語った。

AIがロボットという身体を持つことで、初めて工場や物流倉庫、病院、店舗、家庭などの現場で、実際の作業を行えるようになる。

AIが認識し、考え、ロボットが現実世界で行動する。生成AIがロボットと結びつくことによって、AIは情報を扱う技術から、産業や社会を物理的に動かす技術へと変わる。

これは、ものづくり、部品、センサー、モーター、制御、製造設備などを長年蓄積してきた日本にとって大きな機会になるというのが山際氏の見方だ。

「ものを作れるかどうか」が再び世界の競争を左右する時代が訪れつつあり、日本には、この競争に参加できる技術と産業基盤が残されていると強調した。

■シリコンバレーで感じた「AI×ヒューマノイド」への転換

山際氏は、政治家になる前は獣医師として活動していた。その後、経済政策に携わるなかで、20年以上にわたりシリコンバレーを継続的に訪問し、世界の技術トレンドを確認してきたという。

2012年から2013年ごろには、ディープラーニングそのものの研究開発に多くの資金が集まっていた。
その後、競争はAI自体の開発から、「AIを何に使うのか」という段階へ移った。
2014年ごろにはAIと自動運転の組み合わせが注目を集め、山際氏自身もGoogleが開発していた自動運転車に乗車した経験を紹介した。

当初は限られた場所を走る小型の実験車両だったが、その後は大量のセンサーと走行データを活用した開発へ進み、現在ではGoogleの自動運転開発プロジェクトから分社したWaymoが、米国で自動運転タクシーを商用展開している。

AIの活用領域は、自動運転から金融、医療、ヘルスケアなどへ広がり続けた。

そして生成AIの登場後、2023年にシリコンバレーを訪れた際には、現地の関心が「AI×ヒューマノイド」に一気に集中していたという。

山際氏は、この変化を見て、日本が急いで行動しなければ、世界の競争から再び取り残されるとの危機感を強めたと語った。

■生成AIの登場を受け「ロボット議員連盟」を再興

こうした世界の変化を受け、山際氏は山田太郎参議院議員らと相談し、ロボット議員連盟を再始動させた。

ロボット議員連盟の活動は今回初めて始まったものではないという。山際氏は、初期の議員連盟を、東京大学大学院で宇宙工学を学んだ小野晋也元衆議院議員らとともに進めたことにも言及した。当時は高度なAIが存在せず、ロボットの動作を一つひとつプログラムする必要があったが、ロボット技術の振興や高専ロボコンなどの人材育成を後押ししてきたという。山際氏は、現在の発展はこうした長年の積み重ねの上にあると強調した。

それでもロボット技術の振興や人材育成に取り組み、その積み重ねが現在の技術基盤につながっていると説明した。

山際氏は2014年、経済産業副大臣を務めていた当時にも、AIと自動運転の進展を踏まえ、新たなロボット政策が必要だと経済産業省へ働きかけたという。その後、政府は2015年に「ロボット新戦略」を策定した。

しかし、それから10年以上が経過し、生成AIやフィジカルAIの登場によって、ロボットを取り巻く環境は大きく変わった。そこでロボット議員連盟を再興し、新しい時代に対応した国家戦略の策定を政府へ求めたと説明した。

■人口減少の日本だからこそロボットが必要になる

山際氏は、日本でAIロボティクスを推進すべきもう一つの理由として、人口減少と人手不足を挙げた。

人口が増え、労働力が余っている国では、ロボットの導入が雇用を奪うとの反発を受ける可能性がある。しかし日本では、製造、物流、建設、医療、介護、サービス、インフラ保守など、多くの現場で働き手が不足している。

生成AIとロボットの技術が進化したことに加え、日本社会自身がロボットを必要としている。技術と社会課題が重なった今こそ、AIロボティクスを推進すべき時期だと訴えた。

■「政治は道筋、行政は仕組み、産業界は実装」

講演の後半では、AIロボティクスを社会実装するための役割分担について語った。
山際氏は、その関係を「政治は道筋を、行政は仕組みを、産業界は実装を」と表現した。

政治の役割は、世界の技術や産業の流れを読み、日本がどの方向へ進むのかを示すことである。

行政は、その方向性を実現するために、予算、規制、制度、国際調整などの環境を整備する。

ロボットを技術的に動かすことができても、既存の法律や制度がロボットの利用を想定していなければ、実際の社会では使えない場合がある。導入を促進する補助制度や、運用ルールの整備も必要になる。

しかし、政治が戦略を示し、行政が制度を整えても、それだけでは産業は生まれない。

ロボットを開発し、製造し、現場に導入し、継続的なビジネスとして成立させる主体は民間企業である。

山際氏は、AIロボティクス政策の最終的な主役は産業界だと強調した。

■「日本の民間企業は遅い」大企業の意思決定に強い危機感

山際氏はここで、「正直に言って、日本の民間は遅い。本当に遅い。大企業になればなるほど遅い」と、強い言葉で危機感を示した。

現在、新しいAIやロボット事業へ積極的に挑戦しているのはスタートアップが中心だ。一方、スタートアップには、ロボットを量産するための設備、サプライチェーン、品質管理など、ものづくりの蓄積が不足している。

日本の大企業は、長年培ってきた技術、製造設備、人材、部品調達網を持っているが、組織が大きいため意思決定が遅い。スタートアップのスピードと、大企業の製造力をどう結びつけるかが、日本の勝敗を分けると訴えた。

山際氏は、日本だけですべての技術や資金を用意する必要はなく、海外企業とも積極的に連携すべきだとした。一方で、国内で守るべき技術や企業もあるため、海外との連携と経済安全保障のバランスを取ることは、政治と行政の役割になるとの考えを示した。

■「成功するまでやり続ける」スタートアップのはしごは外さない

山際氏は、スタートアップに対して、失敗を恐れず、挑戦を続けてほしいと呼びかけた。

AIロボティクスは、短期間で確実に成果が出る分野ではない。技術開発や製造、現場導入を繰り返しながら、長期的に産業を育てる必要がある。

その例として、山際氏は半導体政策を挙げた。

日本の半導体産業を再建する政策を始めた際には、「成功するはずがない」「過去の失敗を繰り返すのではないか」といった批判も多かったという。

それでも日本が再び成長するためには、挑戦する以外に道はないと判断した。

山際氏は、失敗したとしても、成功するまで取り組みを続ければ、最終的には成功になるとの考えを示した。

AIロボティクス戦略についても、途中で方針を変えたり、支援を打ち切ったりするのではなく、「やり切るまでやめない」と強調した。

スタートアップに対しては、政治が途中ではしごを外すことはないので、安心して挑戦してほしいと語る一方、世界を変えるには、それだけの情熱と覚悟も必要だと訴えた。

■日本が世界から必要とされる国になるために

山際氏は最後に、現在のAI・ロボットへの期待は突然生まれたものではなく、政治、行政、研究機関、産業界が長年取り組んできた積み重ねによって、日本は大きく飛躍できる段階まで来たと述べた。

AIロボティクスの機会をつかめるかどうかは、政治や行政だけでなく、製品やサービスを生み出す産業界の行動にかかっている。

日本発のロボットやAIサービスを世界中の人々に使ってもらい、日本が存在することで人類の生活が良くなったと感じてもらえる国を目指したいと語り、AIロボティクスを通じて日本が世界に貢献する未来への期待を示し、講演を締めくくった。

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2026年、日本政府はAIロボティクスを新たな成長分野として位置付け、「AIロボティクス戦略」を策定しました。この戦略の策定を政治の側から後押ししたのがロボット議員連盟であり、2026年6月には新たな提言をまとめ、官房長官へ手交しています。

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《神崎 洋治》

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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