LGもBYDもヒューマノイド開発へ なぜ家電・自動車メーカーが相次いで『人型ロボット』を作るのか

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ヒューマノイド開発競争に、新たなプレイヤーが相次いで参入している。

韓国LGグループはNVIDIAとの連携を拡大し、次世代の二足歩行型ヒューマノイドの開発を進めている。一方、中国EV大手のBYDも、自社開発のヒューマノイドを8月に公開する計画を複数の中国メディアに明らかにしている。

ヒューマノイドといえば、Figureや1X、Unitreeなどロボット企業の名前が思い浮かぶ。しかし最近はTeslaやHyundai Motor Groupなど、自動車メーカーの存在感も急速に高まっている。そこにLGのような巨大家電メーカーも加わってきた。

なぜ自動車メーカーや家電メーカーが、相次いでヒューマノイドに向かっているのか。
背景を追っていくと、AIの進化だけではない、製造業ならではの強みが見えてくる。

■LGがNVIDIAと次世代ヒューマノイドを開発

LGグループとNVIDIAは連携を拡大し、ロボティクス、AIファクトリー、次世代モビリティなどの分野で協力を進めている。

注目されるのが、NVIDIAのロボット向け基盤モデル「Isaac GR00T」などを活用した次世代の二足歩行型ヒューマノイドの開発だ。報道によれば、2027年第1四半期の公開を計画している。

LGといえば、日本ではテレビや冷蔵庫、洗濯機などの家電メーカーというイメージが強い。しかし、LGは突然ロボットに参入したわけではない。「CES 2026」では家庭用AIロボット「LG CLOiD」(この時点では車輪型)を公開した。

LGがCES 2026で公開した家庭用AIロボット「LG CLOiD」。2本のアームと5本指のハンドを備え、家事の支援を想定している。下半身は車輪型(画像:LG Electronics)

CLOiDは2本の多関節アームと5本指のハンドを備え、冷蔵庫から食品を取り出したり、料理や洗濯を手伝ったりすることを想定した家庭用ロボットだ。移動には二足歩行ではなく車輪を採用している。

LGが掲げるコンセプトは「Zero Labor Home」。AIやロボティクス、スマート家電を連携させ、日常の家事に費やす時間を減らすことを目指している。

CLOiDはLGのスマートホームプラットフォーム「ThinQ」と連携し、家電やセンサー、AIサービスと協調して動作する。つまり、ロボット単体を売るのではなく、家全体をAIとロボットで自動化しようとしている。

さらにLGは、ロボットの重要部品であるアクチュエータの事業化も進めている。同社によれば、年間4,500万台以上のモーターを生産してきた技術を活用し、ロボット向けアクチュエータの量産体制構築を進めているという。

家電、モーター、バッテリー、センサー、カメラ、スマートホーム、そして大量生産のための工場。考えてみればLGは、ロボットを作るための技術や環境をすでにかなり持っている。
そこにNVIDIAのAIが加わる。

NVIDIAのJensen Huang CEO(左)とLGグループの具光謨(Koo Kwang-mo)会長。8月13日にNVIDIA本社でMOUを締結し、ロボティクス、AIファクトリー、モビリティの3分野で協力を拡大する。ふたりが手にしているのは二足歩行型のヒューマノイドのフィギュア(ミニチュア)。両社が開発するヒューマノイドの構想を象徴するもの(画像:LG Group)

■NVIDIAとLGが構築する「AI Factory」

NVIDIAとLGグループは2026年6月、フィジカルAI、ロボティクス、自動運転などの開発を加速する「AI Factory」の構築を発表した。

ここでは、NVIDIA Isaac SimやIsaac Labによるロボットのシミュレーションや学習、Isaac GR00TなどのロボットAI、CosmosによるフィジカルAI向けデータ生成などを組み合わせる。

AIモデルの開発から、シミュレーション、ロボットの学習、実機への展開、さらには工場のデジタルツインまでをひとつの流れとしてつなげようという構想だ。

LGは自社の工場でロボットを学習・検証できるだけでなく、最終的には家庭という巨大な市場も持っている。

「家電メーカーが突然ヒューマノイドを作り始めた」というより、LGが長年蓄積してきたハードウェアと製造技術に、フィジカルAIという新しい頭脳が加わった、と考えた方が自然だろう。

■中国EV大手BYDにもヒューマノイド開発の動き

同じような動きは自動車業界でも加速している。

中国EV大手のBYDについても、自社開発のヒューマノイドを準備していると中国メディアなどが相次いで報じている。BYD自身による正式な製品発表はまだ確認できないが、BYDは複数の中国メディアに対し、8月にヒューマノイドを公開する計画を認めている。

中国の自動車メディア「CNEVPost」は7月28日、BYDが同社に対して、8月に鄭州の体験施設「迪空間(Di Space)」でヒューマノイドを公開する計画を認めたと報じた。同メディアによれば、迪空間の公式WeChatアカウントも7月25日にヒューマノイドを予告するティザーを公開している。


Di Spaceが一時公開した情報をもとにした中国メディアの報道では、「小迪(Xiao Di)」と呼ばれるサービス型ヒューマノイドで、身長約1.61m、重量約58.5kg、全身31自由度とされている。ただし、8月17日の執筆時点では、BYDの公式サイトなどで実機の写真や詳細な仕様を確認することはできない。ネット上には「Xiao Di」とする画像や仕様も数多く出回っているが、BYDの公式発表として確認できない情報も含まれているため、現段階では「公開が予告・報道されているヒューマノイド」として見ておくのがよさそうだ。

実際、中国のSNSなどでは「BYDが2026年に自社工場へ2万台のヒューマノイドを導入する」といった情報も拡散されたが、BYDはこれを事実ではないと否定している。

とはいえ、BYDがヒューマノイドに関心を持つこと自体は不思議ではない。
BYDはEVメーカーであると同時に、バッテリー、モーター、パワーエレクトロニクス、半導体などを幅広く手掛ける、垂直統合度の高い製造企業だからだ。

ヒューマノイドとEVには多くの共通技術がある。モーター、バッテリー、電力制御、センサー、コンピュータ、AI。そして、それらを低コストで大量生産する技術だ。

■Tesla、Hyundaiもヒューマノイドを量産へ

自動車メーカーとヒューマノイドという組み合わせの代表格はTeslaだ。Teslaは汎用二足歩行ヒューマノイド「Optimus」を開発している。同社は2026年1月の決算資料で、Optimus Gen 3を初めて量産を前提に設計したモデルと位置付け、2026年末までの生産開始に向けて準備を進めていることを明らかにした。将来的には年間100万台規模の生産能力を目指している。

Hyundai Motor Groupも、傘下のBoston Dynamicsを通じてヒューマノイド「Atlas」の量産に踏み出した。

Boston DynamicsはCES 2026で製品版Atlasを発表し、すでに製造を開始している。2026年中にはHyundaiとGoogle DeepMindへの導入が予定されている。
Hyundai自身は、Atlasを2028年から部品のシーケンシング工程へ導入し、2030年には部品組立へ拡大するロードマップを公表している。また米国に年間3万台規模のロボット生産能力を持つ施設を設ける予定だ。

さらにHyundai MobisはAtlas向けアクチュエータの供給でBoston Dynamicsと協力する。Hyundai Motor Groupは今後数年間で数万台規模のロボットを生産・導入する計画を掲げている。

Hyundaiが「CES 2026」で公開したヒューマノイド「Atlas」(写真は最新のデザイン)

こうして並べると、ひとつの大きな流れが見えてくる。

  • Tesla → Optimus

  • Hyundai Motor Group → Boston Dynamics / Atlas

  • BYD → 自社開発ヒューマノイド

  • LG → NVIDIAと次世代ヒューマノイド

ヒューマノイド競争は、もはやロボット専業企業だけの競争ではない。

■ヒューマノイドの本当の参入障壁は「量産」か

ヒューマノイドの動画を見ると、どうしても「何ができるのか」に目が行く。歩ける。走れる。荷物を運べる。洗濯物を畳める。もちろん、それらは重要だ。しかし研究室で1台のロボットを動かすことと、同じ品質のロボットを1万台、10万台と生産し、故障すれば修理し、交換部品を供給し続けることはまったく異なる。

ここまで来ると、自動車や家電メーカーが長年培ってきた能力が大きな武器になる。
調達、品質管理、サプライチェーン、量産設計、コストダウン、保守サービス。これらはAIモデルの性能とは別の、製造業が長年蓄積してきたノウハウだ。

さらに自動車メーカーには、自社工場というロボットを働かせる場所がある。LGには工場に加えて、家庭という巨大な市場と家電のエコシステムがある。自社の現場にロボットを投入し、実世界のデータを集め、AIを学習させ、改良し、量産する。そのサイクルを自社グループ内で回せる企業は強い。

これはフィジカルAIの時代に、製造業が持つ大きなアドバンテージになるだろう。

■NVIDIAは「ロボットメーカーを増やす」会社に

そして、この動きを別の角度から見るとNVIDIAの戦略も見えてくる。
NVIDIA自身がTeslaやFigureのようにヒューマノイドを製造して販売するわけではない。
その代わり、Isaac、GR00T、Cosmos、Omniverseなどを提供し、世界中のメーカーがフィジカルAIやロボットを開発するための基盤を構築している。

LGとの協業は、その象徴的な事例のひとつと言える。
PC時代、多くのメーカーがNVIDIAのGPUを搭載したコンピュータを作った。そして生成AI時代には、多くの企業がNVIDIAのGPUを使ってAIを開発している。
フィジカルAIの時代には、その先に「多くの製造企業がNVIDIAの基盤を使ってロボットを作る」という世界をNVIDIAは描いているのだろう。

自動車メーカーがロボットを作り、家電メーカーもロボットを作る。
そう考えると、これからのヒューマノイド競争で注目すべきなのは、「どのロボットが一番器用に動くか」だけではない。AIという「頭脳」が共通基盤化していくほど、優れた「身体」を安く、壊れにくく、大量に作る能力が、より大きな競争力になる可能性がある。
AIが急速に進化しているからこそ、改めて「ものづくり」の力が問われる。

LGやBYD、自動車メーカー各社の動きを見ていると、ヒューマノイドをめぐる競争は、すでに次の段階へ入り始めているように感じる。

※神崎編集長のコラムは、ロボスタメンバーズのメールマガジン(無料会員/プレミアム会員向け)で毎週配信しています。ロボットやAIなどの最新ニュースを取り上げながら、業界の動向や注目すべきポイントを独自の視点で解説しています。


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《神崎 洋治》

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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