【神崎洋治のロボットの衝撃 vol.17】人工知能で高齢者をみまもる丸くて可愛い会話ロボット「Tapia」徹底研究!

「Tapia」(タピア) は身長24.5cmのテーブルトップ型コミュニケーションロボット。タマゴのように丸くて白い身体、クリッとした瞳が印象的な女の子(設定)です。会話をしたり、写真を撮ったり、楽曲を再生して楽しむことができます。が、彼女の最初の重要な任務は高齢者の方をしっかりと見守ることです。

現在開発中で、発売予定時期は2016年初夏。価格は未定ですが、10万円以下を目指しています(まもなく正式なリリースで公表される見込みです)。

急ピッチで開発が進められている Tapia ですが、開発中の実機デモを見る機会を得ましたので、今回はその様子を紹介します。また、Tapiaが重視している販売市場、ハードウェアの特徴、ソフトウェア技術等も解説します。更にコミュニケーションロボットの存在意義について興味深い話も紹介したいと思います。

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人工知能技術も導入するコミュニケーションロボット「Tapia」




高齢者をみまもるパーソナルロボット

Tapiaを開発しているのは株式会社MJI。日本の企業です。創業者の代表取締役トニー・シュウ氏は台湾出身ですが、20年以上前から日本で生活をしています。

丸くて可愛いと評判の「Tapia」は当初、ひとり暮らしの高齢者をみまもるロボットとして市場投入されます。

Tapiaが見守るのは高齢者の暮らしそのもの、健康やスケジュール、ライフスタイルです。万が一、異常を検知したら、別の場所に住む家族や介護施設のスタッフのスマートフォンにメール等で通知します。

その役目を全うするために、Tapiaはまず高齢者が暮らす一日の生活のリズムを自律的に学習します。起床、服薬、外出、帰宅、就寝などの時間を管理し、それが予定より大きく変化するとメール等で通知します。朝いつもの時間に起きてこない、外出したまましばらく帰って来ない、このところ夜更かしが続いている等です。通知を受けた家族はスマートフォンを使ってTapiaのカメラ機能で高齢者の方の様子を確認したり、ビデオ通話で安否を確認することができます。

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喜んでニコニコしたり、悲しいときは眼にいっぱい涙をためたり、モニタに表示する大きな瞳で感情を表現する。目の下の色が水色のときは相手の声を聞く準備ができている状態、話しているときは黄色、危険を通知するときは赤色に変わる




Tapiaのハードウェア

Tapiaの一番の特徴は、白くて丸いデザイン。これを採用した理由について、トニー氏は「日本から学んだフィロソフィのひとつが「和」。カドが立たない和を丸いボディデザインで表現した」と言います。また、手足があるロボットや人間に近いデザインは警戒心を持たれることもあるため、当初は高齢者や介護向けとして普及させるため、可愛いタマゴ型のデザインを採用しました。

また、コミュニケーションロボットは表情が重要と考え、モニタ画面に大きな目を表示して、豊かな表情を作りだしています。コミュニケーションロボットとして先行している「Pepper」(ソフトバンクロボティクス)や、テーブルトップ型として注目されている「Sota」(ヴイストン) はいずれも顔の表情は固定で、仕草や発話で感情を表現します。その点では Tapia は異なるアプローチということになります。

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モニタはタッチパネル式で、発話のほかに用途に応じて指で画面操作することができる

Tapiaは固定式で自律移動はできません。しかし、上体を傾けたり方向を変えることで、顔の位置や方向を変えることができます。上体は見上げたりうつむいたりする垂直方向に30度、左右方向には175度の変更が可能です。顔に広角カメラが装備されていてセキュリティカメラの役割を果たしますが、スマートフォンなどからリモートで遠隔操作して上体の向きを変え、見たい場所を写すことができます。万が一、高齢者が部屋の隅などで具合悪そうにしていても遠隔操作でみつけることができるかもしれません。

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Tapiaは垂直方向に30度、左右に175度 回転して、顔の向きを変えたり視界を変更することができる

通信機能は、Wi-Fiに対応するほか、3G/LTE通信に対応しています(Micro SIMスロットを1基装備)。これは高齢者の家庭ではWi-Fi環境がない場合が多いことや、外出先などの広範囲で利用できることを考慮したものです。格安SIMの普及によって、3G/LTEの通信環境の月額利用料金が安くなっているので、比較的気軽に導入できそうです。

インタフェースとしてはMicro USB端子と、Micro SDスロットを装備しています。Micro SDカードから写真や音楽データを読み込んで表示したり再生することができます。

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Tapiaの背中のカバーをはずすと3つのインタフェースが見える。Micro SIM、Micro SD、Micro USBが各1基、装備されている

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Tapiaの充電ベース。この上にボディを置くと充電が行われる。通常はリビングに置いたこの充電ベースの上にTapiaを乗せておき、就寝前にTapiaだけを持って移動して音楽を聴く、などの利用方法が想定される


人工知能関連の利用も視野に、Tapiaのソフトウェア技術

TapiaのOSは「Android OS」を採用しています。ただし、一般のスマートフォンやタブレット用に開発されたAndroidアプリのインストールはできないように制御されています。Tapiaにはカメラも搭載され、個人情報のやりとりが発生しますので、Tapia用に開発され、プライバシー情報が安全に管理されたアプリのみ、インストールが許可される予定です。

ロボットの動作や制御、クラウドデータベースとのインタフェースはMJIの自社開発のものを搭載し、画像認識、音声認識、音声合成(発話)の各エンジンは信頼性の高いソフトウェアをライセンス契約して採用しています。

また、最近はロボットに人工知能関連のソフトウェアが搭載されるニュースをよく耳にしますが、Tapiaも例外ではありません。そのひとつとして、スケジュールの管理や生活のリズムを学習していく機能に人工知能の技術が使われています。更に、ディープラーニングを使った画像認識も開発中です。コップやテーブル等、ロボットがモノを認識したり、ロボットの目の前にいる人の顔認証や性別を解析したり、家族を判別する場合等に利用します。Tapiaは家族の顔を覚えるだけでなく、家族構成や関係性も理解するようになると言います。

ディープラーニングの活用例として、例えばある製品をTapiaに見せるとその製品のフォルムや特徴を識別します。その情報をもとにインターネットを検索し、ホームページに掲載されている製品写真と照合、製品名を理解し、再度ウェブ検索して一番安く販売しているオンラインショップを表示する、といった機能も想定されています(開発予定)。

なお、4月20日、同社は音声認識機能に株式会社フュートレックの音声認識技術「vGate」を採用したことを発表しています。詳細は以下のニュースを併せてご覧ください。

「家庭向けコミュニケーションロボット「タピア」に最高水準の音声認識技術が搭載」
https://robotstart.info/2016/04/20/news-tapia_fuetrek.html



Tapiaのデモの流れ

早速、デモンストレーションを見せてもらうことにしました。デモが始まる前、女性のスタッフがTapia をくすぐります。Tapiaはクスクスと笑って反応して、まるで子供のようです。デモが始まり、女性が「Tapia!」と呼びかけると、Tapiaが声の方向を向いて顔認識をします。Tapiaには本体下部に6つのマイクが装備されていて、各マイクに聞こえた声のわずかな時間差から、声の方向を検知して顔の向きを変えます。顔認証モードに入り、Tapiaの目を表示していたモニタはリアルタイム表示のカメラ映像に切り替わり、認識した顔の部分に四角い枠が表示されます。以前に会ったことがある人なら、顔の識別を行って名前を呼んでくれます。

Tapia「こんにちは、××さん (女性の名前)」

Staff「こんにちは、タピア。自己紹介をして」

Tapia「私は巷(ちまた)で可愛いと評判のTapiaです。たくさん ”かわいい” と言ってくださいね、どうぞよろしく」

Staff「かわいいね。タピア、写真を撮って」

このようにTapiaとの基本的なやり取りは会話によって進められます。これは高齢者にとって会話による操作が最も簡単なインタフェース、という観点からです。Tapiaが撮った写真は撮影してすぐ顔であるモニターに表示され、「保存しますか」と聞いてくるので「はい」と答えれば写真は保存されます。Tapiaに「写真を見せて!」と言うと、タッチパネル式のモニターに先ほど撮った写真を表示します。スマートフォンのようにモニターを指でフリックすることで、過去に撮影した写真をめくるように表示していくことができます。

スタッフが楽曲のタイトルを言って「再生して」と話しかけると、Tapiaは指定されたタイトルの音楽再生を始めます。現在はデモ用としてTapiaに保存した楽曲を再生していますが、将来的には楽曲配信会社とユーザが月額契約することによってクラウドから楽曲を受信して再生できるようにする予定です。なお、再生音量の上下も音声で指示することができます。

スマートホームの連携機能も視野に入れています。

スタッフが「電気をつけて」とTapiaに言うと、IoT対応の照明用のベースユニットと連動して証明のスイッチをオン、点灯します。照明機器の場合は、照明用のベースユニットがIoT対応のものであれば、電球製品はIoT対応のものでなくても構いません。また、エアコン等と連動して室温の調整もできるようになるとしています。

開発中のため、こちらから自由に話しかけた言葉に対してスイスイとTapiaが回答できるわけではありませんが、少しTapiaとの会話を楽しんでいると、突然Tapiaから「一番いけないのは”自分なんかダメだ”と思い込むことですよ」とアドバイスをもらいました。心に刺さりますね(笑)。どんなに原稿の締切に追われても、アイディアが出てこなくても「自分はきっとできる」と信じて明日からも頑張ります!!



B to B展開も予定

MJIは「2015 国際ロボット展」に Tapia を展示しました。すると、多くの来場者から「受付に使いたい」「観光案内に利用できないか」等の要望をもらったと言います。

こうした声を受けて、B to Bでの使用も視野に入れ、英語と中国語での会話に年内にも対応する予定で開発を進めています。観光客向けに案内所に設置したり、ホテルの客室内に設置して周囲の観光名所やお食事処を解説するコンシェルジュのような活用方法も考えられています。

実は、B to Bの利用に適した「Tapia Type02」(タピア タイプツー)も開発されています。Type02はタマゴ型ではなく通称パイプ型。顔のモニタ部はTapiaと同様ですが、モーター等の駆動部がなく、スリム化されています。ビジネス用途にはType02で市場開拓をしていく予定です。

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展示ブースで公開された「Tapia Type02」(左)。Tapiaと比較して小さくて省スペースな通称パイプ型。駆動部分はない。

Tapiaに関する今後の予定として、まずはライフスタイルを学習することを最優先にして、6月の発売に向けて開発が進められています。そして発売後のアップデートで、会話機能の雑談に趣味や趣向の話題を取り入れたり、IoTやスマートハウスとの連携等の強化をしていく計画です。

また、アプリ開発者がTapia用のロボアプリを開発するためのSDKやツールを提供していく予定もあり(時期は未定)。その際にできるだけ簡単な操作で技術者がアプリを開発できるUIのツールを提供したいとしています。



「孤独」は人に悪い影響を与える

最後に「コミュニケーションロボットの存在意義」についてトニー氏にたずねたところ、こういう答えが返ってきました。

「私は先日、ハーバード大学が75年間もかけて行った研究”Harvard Study of Adult Development”の結果に関する講演をビデオ動画で見ました。その研究は、1938年からスタートし、75年間に渡り、724人もの人生を調査し、”幸せで健康な人生” について分析したものでした。

そこで出されたひとつの結論は、”人生で何が最も幸せか”と言えば、決して ”お金” ではなく、”ほかの人との関係やコミュニケーション” だと言うこと。「良い人間関係」は人に幸せをもたらしますが、「孤独」は健康と精神面の両方で悪影響を及ぼし、寿命を縮めるという結果が出ていました。

私もこの意見には賛成です。日本ではまだあまり「孤独」による悪影響は重要視されていません。自然会話によってロボットとコミュニケーションをはかったり、あるいは、ロボットから声を掛けられることで会話が生まれることの重要性を考える必要があります。

また、ロボットはその人がどんな趣味を持ち、どんなニュースや情報が好きなのかを理解してくれています。ロボットがその人の生活習慣を理解すると、ロボット同士がコミュニケーションすることで、ロボットを通じて同じ趣味を持つ人や他の家族と繋がることができるようになるかもしれません。ロボットがきっかけで人と人のコミュニケーションが生まれる社会になると素晴らしいと思いませんか」(トニー氏)

集団生活を基本とする社会性のしくみから見れば「孤独は良くない」ことが周知されていますが、健康面や精神面で悪影響を及ぼすことは具体的にはまだあまり知られていません。一方、介護の現場では、会話がないと認知症が進行する要因になるという見解もあります。コミュニケーションロボットの黎明期だからこそ、「孤独」や「孤独感」が生み出す問題を改めて考えてみる時期なのかもしれません。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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