【羽田卓生のロボットビジネス入門vol.3】ロボットビジネスに参入するには?
当連載 「羽田卓生のロボットビジネス入門 」のVol1、2と、 コラムでロボットのB向け(ビジネス・法人向け)市場について解説をしてきた。
この2回は、コミュニケーションロボットをすでに運用している企業のための内容だったが、今回はもっと入門編ということで、「ロボットビジネスに参入するには?」をご説明したい。
きっと、日本中に経営層から「うちの会社もロボットで何かしたいから考えてよ。」と言われた方がごまんといることだろう。そんな方々にお役に立てれば何よりである。
「ロボット」の言葉の定義から考える
まずは、ロボットという言葉の定義からを考えたい。
「え、そんな初歩から説明するのか?」と思われそうですが、『ロボット』という言葉は、人によって解釈の差異が大きい。まずは、この言葉の定義をすることで、「弊社におけるロボットはこういうことです」と言えることになる。
筆者における「ロボット」の定義を説明したい。
ベースは10年前に公表された、経済産業省「ロボット政策研究会」の中間報告書にある。この中で、ロボットの定義について、「『センサ』、『知能・制御系』及び『駆動系』の3つの要素技術があるものを『ロボット』と広く定義することとする。」となっている。
広義の「ロボット」という言葉は、「駆動」ではなく、「出力」とする定義もある。
すなわち、スマートフォンやPCなどディスプレイに表現されるAI的なプログラムも、「ロボット」となるのだ。今回は、「駆動」とし、AIを含まない「ロボット」を「ロボット」の定義としたい。
・センサー(Input)
・知能・制御(Algorithm)
・駆動(Actuation)もしくは、出力(Output)
この定義で言うと、ロボホンやPepperみたいな「人型ロボット」だけでなく、ドローンも、自動運転自動車、ロボット掃除機もすべてロボットとなる。
どんな役割でロボットビジネスに参入するか?
ロボットを作るだけが、ロボットビジネスではない。
ロボットを売るのもロボットビジネスビジネスだし、ロボット向けのアプリを作ることも、修理することだってロボットビジネスだ。代表的なものをまとめると以下の通りになる。
1. 企画(Planning)
2. 要素技術(Elemental technology)
3. 製造(Manufacturing)
4. 運用(Operation)
5. 保守(Maintenance)
6. 販売(Sales)
7. コンテンツ・アプリ(Contents・Applications)
8. アプリプラットフォーム(Application platform)
1. 企画
まずは、企画。ロボットビジネスで何をするかを企画する役割。
どんなロボットビジネスへの参入をしたとしても、この部分は必ずと自社で何らか実施する必要がある。ここがすべての要。
この部分を、アウトソースまたは協業できそうな企業は、下記のような企業だ。
http://www.pwc.com/jp/ja/japan-service/robotics.html#introduction-support
ロボティクス事業参入を検討する企業へのコンサルティングサービスなど、幅広く、ロボットビジネスのコンサルティング業務を行っている。
・トーマツ ベンチャーサポート
http://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/tvs/tvs.html
今回のロボットブームからではなく、第二次ロボットブームより活動をされている。
・ロボットスタート
http://robotstart.co.jp/about.html
ロボット専門メディア「ロボスタ」を軸に、幅広い情報を元に企画立案のサポートを実施。
・DMM.make ROBOTS
http://robots.dmm.com/index_vendor.html
販売の役割のイメージが大きいが、それだけでなく、ロボット開発ベンダーとともに、新しいロボットを協業して、世に送り出すというモデル。
・電通ロボット推進センター
http://www.dentsu.co.jp/business/contents/d-robo.html
コミュニケーション用ロボットの開発支援およびコンサルティングを行うことをうたっている。
一番重要で、一番難しい企画部分。この部分をどうするかがすべてと言っていい。
2. 要素技術
ロボットを構築するいろんな要素技術。この一つの要素だけで参入することもできるし、ロボットの要素技術の専業会社もすでに出現している。
この項目のすべて列挙するのは難しいので、代表的な要素技術をいくつか。
・外装
・サーボモーターなど駆動部品
・音声認識
・音声合成
・画像認識
・各種通信技術
・ロボット制御技術
・各種センサー
・バッテリー
3. 製造
製造は、大きく2つに分けることができる。
・量産
まずは、試作をして、そこでまずは、評価をしてから、量産。それぞれで別の会社に頼むこともある。
ロボットの製造、製造支援に特化した企業は代表的には下記のような会社がある。
富士ソフトのパルミーや、AKAのmususioの製造委託の件が発表されている。
https://vaio.com/magazine/new_business/vol1.html
https://vaio.com/magazine/new_business/vol1.html
・ヴイストン
村田製作所チアリーディング部や、Kirobo、Mirataの事例が公開されている。
https://www.vstone.co.jp/entrusted_development/index.html
・イクシスリサーチ
橋梁検査ロボットなどの事例が公開。
http://ixs.co.jp/ordermade/index.html
・アールティ
NTTドコモ向けの納入事例などがある。
4. 運用
ロボットを運用して、何らかの業務やイベントを実施するのがこの項目。こちらもいろんな企業が、他の業務と合わせてこちらを行っているケースがある。
運用を行うことを業務として出しているのがこちらの企業だ。
Pepper、NAO、ドローンの運用委託を業務内容として記載されている。
http://www.hitachi-systems.com/ind/robotics/
・ロボットゆうえんち
自治体のイベント向けに各種ホビーロボットの運用を行っている。
http://www.robotyuenchi.com/event.html
・ロボドル
上記のロボットゆうえんちや、博報堂、ココロ、佐川電子、アスラテックが加盟しているロボットの派遣ビジネス。
このほかにも、多くのシステムインテグレーターが、ロボットへの運用業務に乗り出してきている。
5. 保守
ロボットは動かせば、壊れることは年頭において運用しなければならない。ロボットの保守を行なうのもロボットビジネスの一つだ。
とあるロボットは、売った金額より、直した金額のほうが大きいという話もある。
http://www.hitachi-systems.com/news/2016/20160301.html
上記のプレスリリースの通り、故障時の予備機配送・交換などの運用・保守業務までを一貫してサポートする「ロボティクスサポートサービス」の提供を行っている。
ロボットメーカーや製造部分の企業、日立システムズのように運用業務を行う企業がこの保守を行っているケースが大半。
6. 販売
文字通り、ロボットを販売すること。直近では、本体販売だけでなく、基本パックや保守パックなどをセットにしたケースがあり、単純な物販にならないケースも増えて来ている。
販売を行っている企業は、DMM.make ROBOTS、家電量販店やロボット専門店、通信会社のキャリアショップ(ソフトバンクのPepper事例)などがある。
Amazonでも販売が行われており、ここ数年で販売チャネルが急に増えた印象だ。
7. コンテンツ・アプリ
ロボットが広がれば、当然広がるのがこの分野。携帯電話、スマートフォンが広がったことで、この分野だけで、上場した企業は数多くある。
ロボットの広がりとともに、この分野が注目されることは間違いない。
その中での注目企業はこれらの企業。
http://www.yoshimoto.co.jp/yrl/
「ロボットUXをデザインする」をスローガンに、ロボットアプリ開発を行う企業。
・ヘッドウォータース
http://www.headwaters.co.jp/news/
Pepper向けのアプリベンダーは、数多くあるが、この企業は、ロボットアプリ開発を中核にし、直近では、1.9億円の第三者割当増資を行っている。
8. アプリプラットフォーム
ロボット向けアプリの配信プラットフォームのことになる。iPhoneでの、App Storeと同じと考えていただければいい。ロボット向けアプリが広がれば、この分野も広がる。
ここを握ることが一つのロボットビジネスの覇権になることは間違いない。
この分野は現状は各ロボットメーカーが構築していることが多いが、その中で横串的なアプローチをしているのが、以下の2つのプラットフォームだ。
http://www.ntt.co.jp/news2016/1602/160216c.html
・ロボットスタート「ロボットライブラリ」
この分野の発展にも目が離せない。
重要なことはやらないことを決めること
8つの参入点をご紹介したが、もっと細かく分類できるし、ほかにも分類方法はあるはず。そこを各社の独自の戦略で分類し、評価をすることは重要。
ただ、間違いなく言えるのは、すべての項目をやるのはこれからのロボットビジネスでは不可能であること。
産業用ロボットメーカーは、7アプリ・コンテンツ、8アプリPFの分野は、ないこともあるが、1-6の項目をほぼすべて自社で完結している。
一方、直近での最大規模のロボットビジネス参入事例である、ソフトバンクロボティクスのPepperのケースでも、すべてを自社で行わずに、各項目でアライアンスやオープン化を図っている。
ちなみに、わたくしが所属するアスラテックのケースでは、「2. 要素技術」の中の、制御技術だけに、絞って事業展開している。
そこから、1企画に、当てはまるロボットコンサルと、3 製造の開発支援を行っている。ただし、それらも、中核である制御技術のビジネスにつなげるために行っている。
どんな企業にもチャンスがある
まずは、ロボットの定義を明確に持つこと。その上で、ロボットビジネスの中で、どんな役割を持つか? 持たないか? を考察していく。
もちろん、ロボットのジャンルも、それを活用する業界も重要。これから、一気に成長すると思われるロボットビジネスゆえに、必ずしや参入するポイントが見つかるはず。
そのためには、小さな一歩目からスタートすることも必要だ。
まずは「ロボットを買って使ってみる」。 そんな気楽な一歩目があってもいいのではないだろうか。
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羽田 卓生1998年にソフトバンク入社後、メディアビジネスや通信ビジネスに主に従事。2013年のアスラテックの立ち上げ時より同社に参画。現在、事業開発部門の責任者を務める。任意団体ロボットパイオニアフォーラムジャパン代表幹事。