【神崎洋治のロボットの衝撃 vol.35】好みにピッタリなファッションやお酒を人工知能が提案するしくみ〜個人の感性を理解するパーソナルAI「SENSY」

カラフル・ボード株式会社は10月11日、慶應義塾が設立したベンチャーキャピタル「慶應イノベーション・イニシアティブ」から出資を受けることを発表し、カラフルボードの調達額総額が3億円となりました。
同社は慶應義塾大学発のAIベンチャー企業で、今後は新産業創出のために、同大学の研究成果をより活用したものになっていくとみられています。

カラフル・ボードは早期からAIシステムの開発に着手し、三越伊勢丹や大丸、スーツ販売大手のはるやま商事等と提携し、イベントや販促でAIを実践展開している会社です。
いったいどのようなAIシステムを構築し、実績を上げているのか、同社CEOの渡辺祐樹氏に聞きました。

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カラフル・ボード株式会社 代表取締役CEO 兼 SENSY人工知能研究所 代表 渡辺祐樹氏


パーソナルAIプラットフォーム「SENSY」

カラフル・ボードが開発している代表的なシステムはパーソナルAIプラットフォーム「SENSY」(センシー)です。ファッションやお酒などの分野を皮きりに実用化を進めています。センシーの最大の特長は、ユーザーひとりひとりの「感性」を人工知能が学習し、ユーザーにぴったり合った洋服や靴、コーディネートした組み合わせ等をレコメンド(推奨:提案)してくれることです。この技術は、慶應義塾大学、千葉大学と連携して開発し、米国で特許を出願中です。

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具体的な例をみてみましょう。
紹介するのはiPhoneアプリでプラットフォームの名称と同じく「SENSY」という名前のアプリです(App Storeからダウンロードできます)。

私がSENSYを起動した場合、まず「パーソナルAI」が好みのジャンルを聞いてきますので、3つ選択します。

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選択したジャンルをもとに、パーソナルAIがいくつかアイテムを薦めてきます。

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まずは、ネクタイ。
このデザインは好みでしょうか? 残念ながら私の好みではないので「いまいち」のボタンを押します。

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次にキャップ。
これも好みではないので「いまいち」。賢明な読者の皆さんはお気づきかと思いますが、このやりとりで既にパーソナルAIが私の好みの傾向を学習しているのです。

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だから、例えAIのレコメンドが的外れだったとしても、決してイライラせず、そのアイテムは「いまいち」だとパーソナルAIに伝えることでも、徐々に自分の感性に合ったアイテムを紹介してくれるようになるのです。こうしてAIは成長していくのだと思うと、このやりとりも苦になりません。
おっと、このブルゾンにはビビッときましたので「いいね」!

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この作業は言わばAIに自分の感性を学習させることなので、繰り返せば繰り返すほど、理論上、パーソナルAIが私の感性を理解し、好みに近いアイテムが紹介できるようになります。ビックデータの利点です。

頃合いを見計らって「コーデリクエスト」を行います。パーソナルAIに私の感性に合ったコーデを依頼するのです。こうして提案されたコーデがこれ。

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コーデのレコメンドはパーソナルAIが推奨スコアの高いものを表示していますが、次点などほかにスコアの高めのものをアイテムごとにリスト表示できるので、帽子や靴、パンツなど気に入らないものは変更します。もちろんこの変更作業もAIが私の好みを学習するためのデータとして活用されます。

気に入ったコーデが完成したら、一括注文してもいいし、気に入った帽子だけ、シャツだけを個別に注文することもできます。

ここまでは自社開発のスマートフォン用アプリの機能ですが、まもなく大手ショッピングサイト「夢展望」に新たな試みとして、「SENSY CLOSET」を導入します。




三越伊勢丹や大丸でワインの試飲イベント

2015年、三越伊勢丹とSENSYがコラボレーションし、イセタンメンズのバイヤーの知見や感性を学習した人工知能がオススメアイテムやコーディネートを提案するイベントが実施されました。ひとことで言うと、「あなたにぴったりなファッションやコーディネイトを人工知能がオススメしてくれる、イセタンメンズのバイヤーのオススメも加味してくれる」と言うもの。

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伊勢丹のファッション提案の例。来店した顧客に商品のリストを見せて好みのアイテムをタップして選択してもらうことでAIがそれぞれのセンスを学習し、感性にピッタリなファッション製品を提案する

そのときのプロモーション動画はこちら



更に、2016年9月、伊勢丹新宿本店でSENSYを活用した「AIソムリエ」によるワインの試飲イベントが開催されました。「あなたにぴったりなワイン」の提案を、ユーザーの味覚を理解したAIが行うものです。

神崎(編集部)

人工知能はどのように味覚を理解するのでしょうか。

渡辺(敬称略)

味覚は人によって千差万別です。同じワインなのに「あまく感じる」人と「酸っぱく感じる」人がいるくらいに。実は、プロのソムリエの方に飲んで頂いたとしても同じワインなのに甘いや辛い、酸っぱいという判断は異なることもよくあります。それほど味覚は微細な感覚なんですね。そこで、まずは来店したお客様にワインを試飲してもらい、どう感じたかを酸味、苦み(にがみ)、うまみ、甘さなど、5段階で評価をしてもらいます。このデータをもとにAIはお客様の味覚がどういった傾向なのかを分析します。

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神崎

味覚の好みがわかれば、最適なワインを薦められるわけですね。結果として、AIはお客様に最適なワインを勧めることができたのでしょうか?

渡辺

反応はよかったと思います。約500件を超えるお客様にトライアルしていただき、うち約2割近くの方に商品をご購入いただきました。これは伊勢丹様の想定を超えた購買率だったと評価していただきました。
また、ツイッター等のSNSでも反応は上々で「検討したこともなかった品種にめぐりあえた」「AIが薦めてくれた銘柄がマイワインになった」など、うれしいコメントもありました。

神崎

AIが自分の好みを理解して選んでくれるというのは面白そうだし、話題にもなりますね。伊勢丹のイベントは終了しましたが、これから読者が体験してみることはできますか?

渡辺

大丸東京店で「世界の酒とチーズフェスティバル」というイベントが、10月12日~18日まで開催されます。そこでAIソムリエを体験しながら試飲をして頂けます。
今回は、1000本のワインを対象に試飲して頂きながら、オススメのワインを提案します。

神崎

せ、1000種類は飲みきれませんね(笑)、仮に全て試飲できるとしても・・

渡辺

そうですよね(笑)。だからこそAIソムリエのレコメンドが重要だと思っています。お客様にはスマートフォンでこのイベント専用のウェブページにアクセスして頂き、試飲したワインの感想をレビュー評価して頂きます。AIは「そのワインを飲んでそう感じたなら、次はこれを飲んで見ては如何ですか?」と薦めます。こうしてお客様の評価データをもらうたびに、味覚がどのような傾向にあるのかのメカニズムを解析します。例えば、甘く感じる傾向があるとか、苦みには敏感に反応しないようだ、などの分析結果から好みを組み合わせていって、最適なワインをオススメします。

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神崎

この分析にディープラーニングが使われているんですね。

渡辺

はい。試飲とレビューの情報は多いほど、機械学習の精度が上がりますので、よりピッタリのワインをオススメできるようになります。
ちなみにワインの場合は「AIソムリエ」ですが、日本酒版の「AI利き酒師」もあります。




ダイレクトメールでは来店率と購入単価がアップ

神崎

伊勢丹と大丸の事例はお酒の試飲会でしたが、SENSYをダイレクトメール(DM)に活用した例がありますよね

渡辺

スーツなどの衣料品販売を展開しているはるやま商事様は6月に、お客様ひとりひとり個別のDMを作成して発送しました。12,000人に12,000通りのDMです。
DMにはお客様の購入履歴をもとに最もお勧めのファッション製品をAIが選定し、それを数点掲載しました。

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すべてのユーザーに対して異なる製品をオススメするDMを作成した。掲載する製品はAIが選択

神崎

顧客にとってみると、届いたDMに掲載されているファッション製品が自分好みにカスタマイズされているわけですね。その結果、成果はどうだったのでしょうか?

渡辺

従来のDMとSENSYを使ったDMを比べてみると、来店率はメンズで115% レディスで114%の向上が見られました。また、ひとりあたりの購入金額、顧客単価はメンズが130%、レディスは90%でした。特にメンズは30%アップと顕著に結果が出ました。

神崎

女性よりメンズの方が効果が顕著だったのはどういう理由が考えられるのでしょうか。顧客単価が上がったのはどういう理由でしょうか。

渡辺

男性には「買うべきものを明確に提示」されたことで、納得による「まとめ買い」の傾向が見られました。女性も来店率は高く、オススメの商品を見に来てくれたのですが、最後はやはり自分の好みで選択する傾向が強いということでしょう。
はるやま商事様はこの結果を高く評価してくださり、現在、SENSYを使った第二弾のDMの予定を進めています。

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感性のマップは顧客ごとに個別に作成

神崎

個人の感性をAIが理解して最適な製品をレコメンドする、そのしくみはどうなっているのでしょうか。全商品を何かの基準で分布させた大きなマップを作っておいて、それぞれ個人の好みをAIが解析した結果をマップにおいて、一定の範囲内に該当する商品を推薦する、という感じなんでしょうか。

渡辺

いいえ、ちがいます。AIはユーザーそれぞれの感性を理解してユーザーごとのマップを作ります。好みの範囲内で各商品が好きか嫌いか、どの位置にあるかを解析して、好みの商品をスコア順に候補として提案していきます。
例えば、ファッションで言えば、カラーにこだわる人とそうでない人がいますよね。「黒い服が好き」「白にこだわりがある」という人もいるし、一方で色にはあまりこだわりがなくて、柄やフォルムに強い興味を示す人もいます。カラーにこだわりがある人と柄にこだわりのある人をひとつのマトリックスの中に並べても有効なレコメンドはできないのです。それより、どういう視点を重要視したらその人の感性マップが作れるかを抽出することが重要です。
人によって異なる感性のマップをまず作り、そこにどの商品があてはまるかを推定しながら描いていく方が有効なレコメンドを行うことができると考えています。



ファッションの場合、製品写真だけで判別しているように思いがちですが、SENSYは商品の説明文でも解析を行い、共通項や好みの要素を見つけ出すしくみが加味されていると言います。この技術としくみは確かにとても強みになると感じました。

神崎

ディープラーニングを使っているとのことですが、ファッションの場合は、写真画像を解析して個人の好みを抽出していくんですね?

渡辺

ディープラーニングや機械学習は画像と言語を対象に解析しています。画像の解析では、シャツのデザインやカラー、フォルムや見た目の印象などですね。言語というのは商品の説明文を単語単位に解析します。ユーザーが好きだと判定した商品を並べたときに商品解説の中に似た単語、組み合わせがあれば、それも個人の嗜好に結びつく可能性があります。実際には無数の組み合わせがあり得るんですが、ビジュアルで捉えきれない要素も説明文を解析することで補完することができます。

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神崎

ECサイトの欠点は実際の店舗のように相談できる店員がいないことだとよく言われています。人工知能によるレコメンドは、その欠点を補う可能性を持っていますが、店員と比較するとどのような長所・短所があると考えていますか?

渡辺

店員はお客様の言葉や表情から細かいニュアンスをくみ取ることができます。薦めた商品を見たときの表情や反応するまでの間(ま)などですね。しかし、AIは「イエス」(好き)か「ノー」(いまいち)しか要素がないので、そこを読み取ることはまだできません。

神崎

なるほど。ロボットが店員になる日が来るとしたら、会話の細かいニュアンスや間を読むことができるようになるかもしれませんね。

渡辺

そう思いますが、いまのAIではまだできません。しかし、AIは膨大な製品の中からでも感性にぴったり合った製品を推薦でき、やりとりから学習したその人の好みや、今まで購入した履歴は正確に記憶しておくことができます。その点が利点ですね。

神崎

なるほど。私はお店に行ったときに、あまり商品知識のない店員に当たると「大丈夫かな」と考えちゃうことがあります。かといって店員を変えてもらうわけにもいかないから、むしろ機械学習で鍛え上げられたAIの方が信用できる、と感じる時代が来るかもしれないなと感じることがあります。

渡辺

そうですね。実は、人に相談するのが苦手という方や、ソムリエに相談するのが怖いと感じる人もいるんです。専門用語が怖い、こんなことも知らないのかと思われるのが恥ずかしい、といった思いです。しかし、AIであればそんな壁がない、というお客様の意見もあるようです。

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冒頭で紹介したファッション・アイテム向けのSENSYは大手ECサイト「夢展望」と提携して、「SENSY CLOSET」という機能の提供をまもなく開始します。
これにはコーディネイトの機能がありますが、コーデの対象はECサイトで販売している現行製品だけではなく、過去に購入した製品や「SENSY CLOSET」と提携している他のECサイトで販売したり購入した製品をもとにしたコーデも可能になります。
提携ECサイトは「夢展望」が最初なので、今後はほかにも提携サイトを増やすことで、コーデの幅をもっと拡げていく計画です。

「SENSY CLOSET」の特長についてはテザーサイトがオープンしているので詳しくはそちらを参照してください。

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人工知能が個人の感性を理解することで、自分好みの商品を次々に提案したり、今まで出会えなかったピッタリな製品とマッチングしてくれる、そんな時代がもうやってきています。

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神崎 洋治
神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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