IBM Watsonと連携したチャットボット「hitTO(ヒット)」の特長と具体例 ~ウェブ、スマホアプリ、LINE等に対応

「hitTOってなに?」
ユーザーがホームページの入力欄からそう質問すると、
「hitTO(ヒット)はユーザーと自然な対話ができるAIを活用した高機能なチャットボットを迅速かつ簡単に提供できるソリューションです」
という回答が画面に表示されました。

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株式会社ジェナが開発した、IBM Watson日本語版(以下、Watsonと表記)を活用したチャットボットサービス「hitTO」とのやりとりです。企業はhitTOを導入し、自社のホームページやスマートフォン・アプリ、LINEやSkypeなどの外部サービス、ロボットなど様々なプラットフォーム上で、自動化されたQ&Aサービスを構築することができます。

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「hitTO(ヒット)」のプレゼンテーションとデモを行う株式会社ジェナの代表取締役社長 手塚康夫氏




チャットボットとは

前回のプロローグで詳しく説明しましたがロボスタではソフトバンクの協力を得て、Watson連携の「ソリューションパッケージ」のプレゼンテーションとデモを見せてもらう機会を得ました。
今回はその際に説明を受けた、株式会社ジェナの「hitTO」を紹介します。

ジェナはモバイルに関するアプリ開発に長けた企業で、最近ではPepperやWatson、ビーコン等を積極的に活用したサービスやシステムを提供してきました。ロボスタでも、ビーコンと連動した東京モーターショー公式アプリPepperとWatson IoTが連携してサッカーの実況中継を行う様子ハイアットリージェンシー東京でPepperを使った東京観光スポット案内などを紹介してきました。

LINE、Facebook Messenger、SMSなどリアルタイムでコミュニケーション可能なツールを「チャット」と呼びます。チャットは人間と人間が文字を使って対話しますが、人間の質問にコンピュータが自動応答するシステムをチャットボットと呼びます。
企業が既に利用しているチャットボットのうち、最も一般的なプラットフォームは現時点ではウェブページです。ウェブページに質問欄を設置し、ユーザーがキーボードで質問や相談を入力すると、短時間で回答が返ってくるしくみです。

今後、大きく期待されているのは、LINEやFacebook Messengerなど、既にたくさんのユーザーがいるプラットフォームを利用したチャットボットです。ユーザーは日頃使っているIDで手軽に対話し始められるため、企業にとっては利用してもらいやすい、という利点があります。

LINEを企業が利用しているケースは既に多く見られ、新製品やキャンペーン、セールの情報などを配信し、スタンプなどの配信も行っていますが、これを拡張してユーザの質問をチャットボットが自動で回答できるようになれば、製品の購買、サービスや店舗の利用等に繋がると考えられています。


Watsonを活用したチャットボット「hitTO」

自動回答のシステム自体は従来からありました。しかし、限られた定型の質問に対してのみ回答できるというシステムがほとんどで、利用者にとっては満足な回答が返ってこないというのが声が多く、普及には至っていません。
Watsonは、米国のクイズ番組に出場し、人間のクイズ王たちを獲得賞金額で上回る快挙をなし遂げた「質疑応答システム」として知られるコグニティブ・コンピューティング・システムです。Watsonは機械学習によって、いろいろな質問に対してどの回答が適切かを学習することで正答率を上げていくことができます。

また、Watsonの特長のひとつが自然言語でスムーズな会話を実現することです。人に話しかけるような口調で問い合わせ、社内のあらゆる共有情報から選ばれた適切な回答が返ってくるようになれば、有能なアシスタントや支援ツールとして手軽に便利に利用できるようになるでしょう。

「hitTO」はWatsonとクラウド上で連携したチャットボットサービスで、昨年の10月にソリューションパッケージ第一弾としてソフトバンクが発表しました。現在たくさんの問い合わせが寄せられていると言います。

チャットボットを活用した質疑応答システムには大きく分けて社外向けと社内向けがあります。
社外向けは顧客等からの問い合わせに直接回答したり、接客などのコミュニケーションをしたりするものです。特に自社で提供するサービスや営業活動を効率化、自動化して24時間の顧客対応を実現したい企業は多く、その市場と需要は膨大ですが、慎重に検討すべき点もあります。AI関連技術を導入するとはいえ、顧客を相手にした対話においては、間違った回答や失礼な対応がクレームの原因にもなることです。その意味ではまずは社内用に導入してみて、精度を確認することが重要です。

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「hitTO」が想定する社内Q&Aツール活用シーン。まず社内業務効率化をはかる



■営業支援情報提供ツール
営業担当者が市場の情報、顧客やサービスに関する情報、新製品情報などを「hitTO」に問い合わせると、適切な回答を返すしくみを作ることで、効果的・効率的な営業活動を目指すことができます。

■社内ヘルプデスクでの活用
社員数が多い会社の場合、総務関連の質問、パソコンの設定やソフトの使い方、事務機器のトラブル等、社内での問い合わせ対応が相当数に上り、大きなコストを見込まなければなりません。これを自動化、半自動化することにより、コスト削減や業務の効率化をはかります。

■コールセンター支援
コールセンターを運営している場合、オペレーターが顧客と会話したお問い合わせ内容を入力すると適切な回答候補を提示して、オペレーターの対応時間の短縮が可能です。

■特定業務の機械化/ノウハウの伝承
社内FAQや、熟練度を要する特定業務を必要に応じて利用できるようにすることで、作業工数を削減するとともに、熟練社員の知識を若手に伝承することができます。






最大の特長は多彩なプラットフォームに対応できること

「hitTO」は社外向けに情報提供したり顧客応対したりするサービスとしても活用を想定しています。それには様々なプラットフォームが選択できることが大きな特長となっています。
標準ではウェブページでの質疑応答に対応していますが、ほかにもLINEでの顧客や代理店からの質問対応、Pepperなどのロボットと連携した店舗接客システム、スマートフォン用等の向けに作られた自社アプリと連携した質疑応答サービスなどに拡張することが可能です。

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ジェナはモバイルやスマートフォンとクラウドの連携システムの開発には定評があることもあり、様々なプラットフォームに対応できることが強み。各種APIが提供されるので自社で連携開発ができるほか、ジェナに開発を依頼することも可能

例えば、スマートフォン・アプリで「Pepperの販売について」を音声で聞いてみた例では・・

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「hitTO」では、このようにスマートフォン・アプリ用に別途開発を行うことで、テキストだけでなく音声を使ったQ&Aの自動化も視野に入れることもできます。




「hitTO」の標準機能

hitTOは標準でウェブページでのQ&Aサービスを提供します。
ここまで解説してきたようにQ&Aの流れはシンプルです。まず、ウェブページの入力欄にユーザーが質問を入力します。質問はインターネット等を経由してWatsonと連携したhitTOのクラウドに届き、最適な回答を返します。
そのとき、確信度の高いトップの回答をひとつ返すのか、上位ランキングから複数の回答候補を返すのか、「hitTO」ではその設定も簡単な操作で管理者が指定できます。
また回答はテキストや音声だけでなく、画像やURLで返すこともできます。
最後に回答に対する評価をフィードバックします。回答は正しかったのか、満足できる回答だったのか、正否の評価を受けて「hitTO」がWatsonと連携し、質問に対してより確度の高い回答を学んでいきます。

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「hitTO」のシステム構成イメージ。左のQ&A画面(Web)やスマホアプリ、Pepper、APIと連携してLINEやSkypeなどの外部サービスがユーザーのインタフェースとなり、中央のhitTO(Watsonと連携)がクラウドサービス、右の「システム管理者」がサービス提供を行う企業の担当者が受け持つ部分。「hitTO」(Watson)の学習データを作成したり、フィードバックしたりすることにより評価づけやトレーニング等を、インターネットを通して行う

手塚氏によれば「管理画面がわかりやすい点もhitTOの大きな特長のひとつ」と言います。例えば評価のフィードバックを適切に反映させることでWatsonは学習していますが、その操作は企業の担当者が日常的に行う作業です。そのためフィードバックのGUIは簡単で解りやすい画面が望ましいのです。

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hitTOのフィードバック管理の操作画面

なお、社外用に用いる場合、「hitTO」の回答をそのまま表示して返すのは前述のようにリスクを伴う場合があります。リスクを回避するため、スタッフが回答の内容が適切で妥当なものかを前もって確認する、ひと手間をかける仕様になっています。特に学習が進んで満足いく精度が得られるようになるまでは試験運用しながらフィードバックを反映していくのが賢明です。



学習させ、育成していくシステム

ここで重要なことは、「hitTO」をはじめとしてWatson連携のソリューションは機械学習によって成長していくということです。学習データの充実が質疑応答の精度に関わってきますが、初期の学習データでは何もできません。そこから様々な回答内容や、質問と回答の組み合わせ等を教育する必要があります。
それを”主体的に行う”のは現場であり、ジェナやソフトバンクではなく、サービス提供者であることを忘れてはいけません。
学習データは業務領域ごとに作成することが最適です。たくさんの情報を詰め込んだ学習データを作成することも可能ですが、別の業務で似たように質問があった場合、混同して回答の正確性が低下する可能性があるからです。
なお、学習データの作成と教育によって成長したhitTOは、プラットフォームがウェブでもスマートフォン・アプリやPepperであっても、ユーザーからの質問には同様の回答を返すことができるようになります。
導入までのだいたいの目安として、10営業日から「学習データ」の作成と教育を行い、20営業日よりチャットボットの公開を行う早期スケジュールを提案しています。公開後も学習データのブラッシュアップは必要です。

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料金体系は

気になる「hitTO」の料金ですが、2 段階に分けて構成されています。まずはトライアルパックとして2 ヶ月間、hitTO の環境を構築して試す料金が75 万円です(1 学習データ)。Q&Aシステム構築のための学習データ作成の支援や学習データの教育の支援など、初期導入支援は料金に含まれています(1学習データは1業務領域で作成するのが最適)。
トライアルパックで構築した「hitTO」の環境を継続して利用する本番運用は月額制で50 万円です(最大4学習データまで)。

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また、このほかに本番運用後の学習データ作成支援が1回20万円、学習データの教育支援が月額45万円などのオプションが用意されています。

導入するにはどのようなQ&Aを用意すれば良いのでしょうか。最後に「どのくらい学習すればいいの?」とhitTO自身に聞いてみました。

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hitTOの答えは「1個の回答に対して10個から20個の質問を学習させることを推奨しています」とのことでした。

次回はWatson連携のソリューションパッケージとして提供されている「テクノクラウド+」(NTTデータ先端技術)を紹介します。
お楽しみに。


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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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