サイバーダインとワークスアプリケーションズが業務資本提携を発表、「サイバニクス×AI」異次元の次世代IoTシステムとは

いま話題となっているキーワードの「IoT」の「T」は「Things」、モノを意味する。あらゆるモノにセンサーを付けて情報を蓄積するという考え方だが、実はそれでは不十分で、今後はこれに人間の生体情報も含めるべきだろう(山海氏)。

2017年5月15日(月)、CYBERDYNEとワークスアプリケーションズ(以下ワークス社)は業務・資本提携を発表した。サイバーダイン社がワークス社に10億円を出資し、日本政府が世界に先駆けた超スマート社会として推進する「Society 5.0」と「Connected Industries」の実現に向けて、これまでなかった異次元の次世代システムの共同開発を行うという。

CYBERDYNE株式会社代表取締役社長/CEO、筑波大学大学院教授、サイバニクス研究センター長 山海嘉之氏。

サイバーダイン社はロボットスーツ「HAL」をはじめとして、人とロボットと情報技術を融合したサイバニクス製品の研究・開発で知られる。センサー技術にも特化しており、医療用では血圧や心電図などの多彩な生体データ収集を行う技術を持つ。また、HALなどのロボットスーツ分野では脳・神経系への運動学習を促す技術や、脳が「歩きたい」と考えた生体電位信号をセンサーで受信してロボットスーツが動いたり、人の動きをサポートする「サイバニック随意制御システム」や「サイバニック自律制御システム」技術を持っている。

サイバーダイン社はロボットスーツ「HAL」や自律搬送システムや自律清掃システムなどを開発。生体情報や脳波などのセンサーや信号解析技術も研究している

同社は、服の上からでも心電図をはかることができる端末をすでに開発していることを紹介し、このような生体センサーデバイスを活用し、脳神経系・生理系情報を在宅でもオフィスでも工場でもどこでも、仕事をする人たちの労務管理や健康管理に活かすことが重要だとした。これらサイバニック端末からは多くデータが収集されるが、そのビッグデータを生態情報や環境情報を含めて、企業システムと連携させ、AI関連技術を使って分析や解析することで、働き方改革などに活用できるのではないかと考えている。

サイバーダインは世界初の手のひらサイズの「動脈硬化度・心電図バイタルセンサー」を開発

服の上から心電図を計測できる端末。スマホケースに組み込む等により、血栓形成を招く不整脈を早期発見したり、脳卒中の予防などが期待できる

一方のワークス社はERPパッケージで知られる企業で、1200超の企業グループでERPを稼働させているシェア第一位の実績を持つ。ERPパッケージとは解りやすく言えば、販売・人事・製造・物流・財務・会計、労務など、様々な業務システムを統合してデータを一元化し、経営の効率化やスピードアップに繋げるシステムだ。同社は、世界初をうたう人工知能型ビジネスアプリケーション「HUE」(ヒュー)も開発して導入している。

株式会社ワークスアプリケーションズ 代表取締役最高経営責任者 牧野正幸氏。

すなわち「サイバニクス×AI」で、従来の業務管理データ(ERP)に対して、サイバニック技術で得た人体からのセンサー情報を統合することによって、健康管理、労務管理、効率化等、働き方改革を実践しようという考えだ。



「サイバニクス×AI」とは?

山海氏は「ドイツのインダストリー4.0は産業界だけではなく、バイオ系・生理系を含めてどんどん大規模になっていっている。米国では同様に、IIC(Industrial Internet Consortium)がこれを進めようとしている。日本は、ドイツ主導でも米国主導でもなく、日本の最先端技術を早い段階で社会の中に実装していく「Society 5.0」と「Connected Industries」の実現に注力していて、我々もこれに貢献していきたい。いま話題となっているキーワードの「IoT」のTはThings、モノを意味、あらゆるモノにセンサーを付けて情報を蓄積するという考え方だが、実はそれでは不十分で今後は人間の情報も含めるべき」と語った。

(※クリックで拡大) ドイツのインダストリー4.0、米国のIIC。そして日本には先駆的な動きが求められる。日本の「Society5.0」は「Industry4.0」を包含する動きと、次の一手をうち続ける必要がある

牧野氏は「HRシステム(Human Resources system)を導入している日本企業の60%強が当社のシステムを使っていることから、当社は「働き方改革」の相談が最も集まっている企業だと自負している。労働生産性を変えたり、働き方を変えるというテーマにはセンシング処理技術が大切で、個々人の脈拍や呼吸などセンサーから得られる情報を蓄積・分析し、職場でも継続的に健康状態を把握したり、病気を早期発見することが可能になるのではないか」とした。

例えば、子育てを兼ねた在宅勤務の場合でも、アウトプット(成果)だけを見てパフォーマンスを測るのではなく、コンピュータの前にいるのかどうか、コンピュータで何をしているのかがわかるようになったり、その状況で社員が集中して業務できているのか、むしろ育児のために集中が頻繁に中断しているのではないか、それならば自宅でのテレワークよりも会社に保育室に設けて子どもと一緒に出社してもらった方が集中できるのではないか、などの経営判断にも繋がることを示唆した。

「日本で生体センシング技術で最も進んでいる会社がサイバーダイン社、だから業務連携すべきだと考えた」と続けた。




ヒトを軸にした考え方の改革が必要

開発に取り組む具体例では、例えば「職場や業務の中でデータ収集を継続して行うことによって不整脈の有無が検知できるか? 」ということ。それを分析することで、どういうタイミングで休憩をとれば有効か、ヒューマンエラーを抑える効果が期待できるか、仕事をしながらでも、病気の早期発見が可能になるのではないか、としている。
「職場に行かないとどうも体調がよくない、そろそろ(生体データが集計・分析できる)会社に行った方がいいかな」と感じられる社会、職場づくりはどうかと提案する。
生体データをIoTのひとつとして組み込むことで、工場でも「流れ作業に人間が合わせるのではなく、人間に機械が合わせるシステム作り」も考えられるようになる、近い将来、働く人たちも含めた「人を軸」にしたIoTの考え方が大切になるだろうとしめくくった。

【業務提携の内容】
以下の業務提携を両社で進めていくことに合意
(1) サイバニックシステム等から得られる生体情報・環境情報を生かした労務管理・生産管理等を目的とした次世代ERP/ソフトウェアの共同開発
(2) サイバニクス技術を利用した、社員の健康維持・向上、職場環境全般の改善のためのシステム及びデバイスの共同開発
(3) サイバニクス技術を利用した次世代型生産システムの共同開発
(4) その他、サイバニックシステム等向けのソフトウェアの共同開発
 

【Society 5.0とは】
「狩猟社会」「農耕社会」「工業社会」(Society 1.0、 2.0、 3.0)、 そして、 現在の「情報社会」(Society 4.0)に続く未来社会として政府によって掲げられた「超スマート社会」(5番目の社会)のコンセプト。 科学技術イノベーションが先導する新たな社会のイメージで、 AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)等が本格的に社会実装される。
第5期科学技術基本計画で日本が世界に先駆けて実現を目指すことが盛り込まれた。

【Connected Industries】
さまざまなつながりにより新たな付加価値が創出される産業社会。
1.人と機械・システムが対立するのではなく、 協調する新しいデジタル社会の実現、 2.協力と協働を通じた課題解決、 3.人間中心の考えを貫き、 デジタル技術の進展に即した人材育成の積極推進を3つの柱とする。 同コンセプトはドイツで開催されたIT国際見本市「CeBIT 2017」に合わせて日本政府から発表された。
※ プレスリリースより抜粋

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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