【IoT業界探訪vol.15】ハードウェアエンジニア0人からの挑戦。-紛失防止タグのMAMORIOさんに聞いてみた(その2)-

非常に小さな筐体で「紛失のない世界」を実現しようとする挑戦的なプロダクト、MAMORIO。
前回のインタビューでは「ZERO UI」「Go Flexinple!」といった、MAMORIOをかたちづくる上で必須ともいえる設計思想を聞くことができた。
しかし、紛失防止タグのような新しい製品分野のハードウェアを開発するなかで、この哲学をつかむまでに様々な試行錯誤があったはずだ。
今回はMAMORIO COOの泉水亮介さんに「制作のきっかけ」と、プロジェクトの初期のストーリーについてきいてみた。




MAMORIO開発のきっかけ

編集部

前回は、MAMORIOの仕様や、設計思想についてお話しいただきました。
今回は、その根本となる、開発のきっかけをお聞きできますか。
MAMORIOを発売したのが2015年、クラウドファンディングを始めたのも2014年の9月。海外ではすでに落とし物防止のタグなどが発売されていた時期だと思います。
その中であえてハードウェアを新規で作った理由を教えてください。



2014年時点での紛失防止タグ(tracker)の数々。

泉水氏

もともと弊社は「落とし物ドットコム」というポータルサイトの運営をしていました。落とした物をソーシャルメディアの力を借りて探したり、落とし物をした際の対処法などを共有するサービスです。
しかし、今はいろんなものがインターネットにつながる時代です。違う方法で解決できるんじゃないか、と思ったのが開発のきっかけですね。
そのタイミングで、Bluetoothのチップが普及してきて、現実的な値段でサービスを実現できるデバイスが実現できるようになった。という形ですね。
とはいえ、ポータルサイト運営を主業務にしていたので、ハードウェア出身者がいません。
なので、「『なくす』をなくす」世界を作ろうとハードウェアに手を出そうと思ったときに、最初に考えたのは、既存のものを販売する、という手段でした。


編集部

たしかに、「『なくす』をなくす」、を現実社会で実現しようと思ったらリアルなデバイスをサービスに取り込みたくなりますね。では、なぜ既存のデバイスは採用されなかったんですか?


泉水氏

主に機能面の問題です。当時から海外のBluetoothカードやタグはあったんですが、サイズが大きかったり、安定性が低かったりと問題がありました。このままでは、日本でなじまないプロジェクトになってしまうだろうと。私たちは日本での利用シーンにマッチした製品、サービスを作りたかったので、一からハードウェアを起こしました。


2014年時点で発売していたTILEとPEBBLE BEEの比較動画よりキャプチャ。どちらも大きく、厚いため、「財布の中に入れる。」「ペットの首輪につける」といった使い方は難しそうだ。

編集部

とはいっても、先ほどおっしゃっていたようにハードウェアエンジニアがいなかった状況で、開発するのは難しかったんじゃないですか?


泉水氏

たしかに開発は難航しましたね。クラウドファンディングをした時点で、まだ設計はできていませんでしたからね。
ただ、当時のクラウドファンディングは今と違って、「先行販売をする場所」ではなかったんです。僕らも、プロジェクトを公開したものの、MAMORIOを完成できるという確信はあったわけではなかった。
でも、プロジェクトに賛同してくれた出資者の方が、僕らに足りないピース、ハードウェアの設計などにアドバイスしてくれたんです。



目標金額の倍以上を集めたことから、注目度の高さがうかがい知れる。しかし、資金以上に重要な「一緒に商品をプロジェクトを育ててくれるイノベーター層とのつながり」が得られたことが一番大きいだろう。

編集部

確かに最近はクラウドファンディングは制作者側にはプロモーションをするための場所、消費者側は早得割引狙いになってきていますが、もともとは、「プロジェクトに対して賛意や出資を集める場所」でしたね。とはいえ、お金だけではなく、技術的な貢献もしてくれたとは、当時からクラウドファンディングを利用していたイノベーター層の方々の志の高さは素晴らしいですね。


泉水氏

そうですね。「モノがほしいから」、ではなくて、「このプロジェクトを実現してほしいから」、と言ってわざわざ会社に集まってくれて、設計に対するアドバイスや支援をしてくれた。
だからハードウェアエンジニアのいない会社でもなんとかモノを作れたんです。これはほかの製品にはない期待感の高さのあらわれなんじゃないかと思います。「プロジェクトを実現したい」という、共通の強い思いが出資者と我々にあったという事だと。
黎明期に比べて、現在のクラウドファンディングは、規模も大きくなっていて、国内でも数千万単位の調達をしている製品が多々あります。
ただ、もしかすると、数千万円の資金があったとしても、初期のクラウドファンディングに集ってくれた支援者の形の協力の方がなかったらMAMORIOは実現できていなかったかもしれません。



今や5000人近いメンバーを誇るコミュニティ、IoT LTのオーガナイザー菅原さんもPVに出演している。こういった関係から生まれるイノベーター層との濃密なコミュニケーションは、その後のプロジェクトの成長に大いに関係しただろう。

編集部

なるほど、それでついに量産にこぎつけられたわけですね。


泉水氏

いえ、そう簡単にはいきませんでしたね。
例えば、2000個ほど試作品を作ったんですが、設計上1年もつはずの電池が数日しか持たず、すべて廃棄。なんてこともありました。
ハードウェアはチップ同士の相性や、ファームウェアのバージョンなどによっても大きな影響がありますし、なにより、実験室で試作を1個作るのと、量産品を安定して作るのは全く別次元の問題がありますからね。



編集部

それは凄まじいエピソードですね。ただ、プロダクトを量産するうえで必要なハードル、耐久試験や流通のことまで考えられる人材はとても珍しいですからね。他のハードウェアスタートアップの人も陥りがちなところかもしれません。


泉水氏

当初からデザイン自体は決まっていたので、よいODMメーカーさんに量産を踏まえたよい設計をしてもらえるまでは大変でした。ただ、前回お話ししたように仕様を作る中で、先入観を持たずに理想を追い求めることができたのは、ハードウェア開発者不在という状況で色々と試行錯誤したからかもしれません。



利用シーンを踏まえたサイズに加えて、「お守り」をデザインソースとしたMAMORIOの外装は高い評価を受け2016年度グッドデザイン賞を受賞。
<プロダクトデザイン:株式会社テント 治田将之、青木亮作/アプリデザイン:神谷郁>

編集部

そのような苦難の果てとはいえ、「ZERO UI」や「Flexinple」といった設計思想にまで行きつくことができたのなら、ハードウェア開発者の不在も、ある意味では、正解だったのかもしれませんね。


ハードウェア開発開始の初期衝動から、何とか量産化にこぎつけるまでに苦労は多いと思うが、ここまでドラマティックなプロジェクトも珍しいだろう。
しかし、ハードウェアは量産したものがユーザーの手に届くまでに多くのハードルがある。
MAMORIOも他のハードウェアスタートアップと同様、初期は苦難も多かったという。
そんな中、どのようなタイミングで転機が訪れたのか。また、今後の道筋については次回以降に話してもらおう。

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梅田 正人
梅田 正人

大手電機メーカーで生産技術系エンジニアとして勤務後、メディアアーティストのもとでアシスタントワークを続け、プロダクトデザイナーとして独立。その後、アビダルマ株式会社にてデザイナー、コミュニティマネージャー、コンサルタントとして勤務。 ソフトバンクロボティクスでのPepper事業立ち上げ時からコミュニティマネジメント業務のサポートに携わる。今後は活動の範囲をIoT分野にも広げていくにあたりロボットスタートの業務にも合流する。

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