ロボットやドローンのAI高速化へ、NVIDIAが20倍高速のロボティクス専用AIコンピュータ「Jetson Xavier」を発表!

NVIDIAはロボットやドローン、小型端末、カメラ等に搭載できる組込型のAIコンピュータボード「Jetson」シリーズの最新製品「Jetson Xavier」(ジェットソン・エグゼビア)を発表した。「Jetson」シリーズとしては「TX1」「TX2」に続く3代目の製品となり、「Jetson Xavier」はTX2と比較して、約20倍の高速性で約1/10の消費電力となる。開発キットの価格は1299ドル(US)。
この製品のリリースによって、ロボットやドローン、監視カメラシステム、デリバリーロボット、スマートスピーカー、エッジコンピュータなどで、カメラやセンサーを使った情報認識や解析、推論、計算処理などの高速性能が格段にアップする可能性がある。

「Jetson Xavier」。Tensorコア内蔵「Volta」アーキテクチャのGPUを搭載(従来機種のTX2はPascalアーキテクチャ)。CUDAコア数は512。CPUは8コアARM v8.2対応64bitを搭載する。本体サイズは100×87×16mm。TX1とTX2は50×87mmなのでサイズは大きくなる


「Jetson Xavier」は20倍高速化

NVIDIAは本日、日本およびAPAC地域の報道関係者向けのオンライン・ブリーフィングで新製品となる「Jetson Xavier」を解説した。
「Jetson Xavier」の最大の特徴は、高速なGPUを搭載し、開発ツールが完備されていること。AI技術と呼ばれているディープラーニング等の機械学習を行ったシステムをロボットやドローンなどの端末側(エッジ側)で利用するのに最適だ。ロボットやドローンなどに組み込んで、カメラの画像情報の解析や認識したり、センサーからの情報分析、計算、推論等の処理が高速に行えるようになる。
NVIDIAは「Jetson Xavier」の性能について次のように語っている。

90億個を超えるトランジスターを搭載し、30TOPS (毎秒30兆回) を上回る演算を処理します。強力なワークステーションをしのぐ処理能力を備えながら、その消費電力は電球の3分の1程度です。

また、監視カメラや画像解析等のシステムでは、映像データが大容量ためクラウドに送るだけで時間がかかるという課題を抱えている。特にレスポンスが重要なシステムではすべての映像をクラウドに送るのは非効率で、ある程度の処理は端末側で行うことが求められている。端末に「Jetson Xavier」のようなAIエッジコンピューティングボードを組み込むとそれらの処理の高速化が期待できる。こうした背景から、ロボット、スマートシティ、工場、農業、医療など、幅広い分野でAIコンピュータボードの導入が進められている。

NVIDIAが掲げた、「Jetson」シリーズの活用分野

また、音声の解析と処理が端末側でもできるので、スマートスピーカーなどのデバイスに搭載すれば、すべての音声をクラウドで処理する必要がなくなる、といった使い方も期待できるだろう。

トヨタ自動車の生活支援ロボット「HSR」にも「Jetson」シリーズ搭載モデルがある


NVIDIAが成長する理由

プレスブリーフィングでは、NVIDIA スマートマシン事業のシニアプロダクトマネージャー Jesse Clayton(ジェシー・クレイトン)氏がNVIDIAが選ばれている理由を次のように語った。


NVIDIA を選ぶのには3つ理由があります。
1つ目は、研究者たちは常にAI関連技術を研究していて、その進化とトレンドは移り変わっています。その変化に対応できる柔軟性が高く、汎用的に利用できるプラットフォームが必要だということです。
2つ目は、高速だけでなく複雑にもなっていることです。3年半で360倍も複雑化されていて、その複雑化に対応できているのはGPUであり、他のアーキテクチャでは対応仕切れていません。
3つ目はアプリケーションはスケーラブルで拡張性があるからです。多くの市場で、今は膨大なアプリケーションに対しての需要があり、それを満たして行くためのGPU開発環境が必要です。
NVIDIAとGPUのAIプラットフォームはこれらを満たしています。

「Jetson Xavier」と従来製品「Jetson TX2」の性能比較表

従来製品「TX2」はクレジットカード・サイズだったので、「Jetson Xavier」は形状は異なるものになっている。開発キットの価格は1299USドル


ロボット開発期間を短縮するプラットフォーム「ISAAC」

Jetson XavierはNVIDIAが開発し、今年3月の「GTC 2018」で発表されたロボット開発プラットフォーム「ISAAC」(アイザック)にも最適だ。
Clayton氏は製造業ではロボットの導入が進んでいるように言われているものの、その自動化は全体のたった10%に過ぎないと言う。ロボットは設計・開発するのにコストがかかる。テストするのも難しく、設置するのにも時間とコストがかかる。そこでAI技術を使ってどうすればロボティクス開発を効率的にできるかを考えたと言う。
NVIDIAはロボットなどの自律型デバイスの開発のトレーニングや機械学習には、実践とCGを活用したシミュレーションとトレーニングの繰り返しによって、大幅に開発期間を短縮できる、と提唱している。そのプラットフォームが「ISAAC」だ。

ロボットの開発は、シミュレーションとトレーニングによる機械学習によって、短期間で効率的に行えるようになる、とNVIDIAは提唱する

NVIDIAは自動運転用のプラットフォーム「DRIVE」シリーズも開発し、トヨタやアウディ、ボルボ、メルセデスなどの自動車メーカーと提携している。そこでも膨大な車両走行のデータが必要になるが、実走行では賄いきれないため、CGによる仮想空間で擬似的に車両走行させることでAIをトレーニングしているのが実状だ。同様の効率性をロボットや自律システムの開発現場でも実現させようとしている。(関連記事「トヨタAI研究所「Toyota Research Institute」が開発する2モードの自動運転ソフトウェア!AWSや開発環境も公開」)

ISAACで開発の効率化が期待される開発現場の例

NVIDIAのプレスリリースでは「ISAAC」について次のように解説している。


Isaac ロボティクス ソフトウェア
NVIDIA は、Jetson Xavier のシミュレーション、トレーニング、検証、展開に役立つツールボックスを提供します。このロボティクス ソフトウェアには以下が含まれます。

· Isaac SDK
徹底して加速化されたライブラリを使って、ロボティクス用アルゴリズム。ソフトウェアとランタイム フレームワークを開発できる、一連の API とツール。
· Isaac IMX
NVIDIA が開発した一連のロボティクス用アルゴリズム ソフトウェアである Isaac インテリジェントマシン アクセラレーション アプリケーション。
· Isaac Sim
開発者が Jetson Xavier を使って自律動作マシンのトレーニングや HIL(hardware-in-the-loop) テストを実施できる、きわめて現実に近い仮想シミュレーション環境。

ロボスタでは「ISAAC」については「GTC 2018」での発表を関連記事「【GTC 2018】NVIDIAのロボット開発環境「ISAAC」(アイザック)とは? ロボット活用と開発の未来をAIが変える 〜SDKも発表〜」で記載している。


「Jetson」シリーズの活用事例

昨年日本で開催された「GTC Japan 2017」では、「Jetson」シリーズを活用したシステムとして、小松製作所の工事現場で車両や人を自動認識して安全と情報を管理するシステム(スマートコンストラクション)を紹介した。また、現場の「Jetson」搭載のSkyCatch製エッジコンピュータがドローンが撮影したカメラ画像を解析して点群データに変換、地形データを作成して可視化するシステムも展示紹介されていた。

小松製作所が展示したGPUとディープラーニングを活用した「スマートコンストラクション」のカメラ分析システム

小松製作所が展示したシステムの詳細は関連記事「コマツがAIコンピュータ「NVIDIA JETSON」を導入し、安全性や効率性の向上する具体策 エッジコンピュータ/ビジョン/AI監視技術」を参照のこと。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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