「機械学習の自動化」と「AIの民主化」を目指すDataRobot(データロボット)社は5月31日、都内で「DataRobot × パナソニック トークセッション ~日本の製造業におけるAI利活用の最前線~」を開催し、その様子を報道関係者に公開した。
ゲストスピーカーとしてパナソニックの井上昭彦氏が登壇し、DataRobotのチーフデータサイエンティストであるシバタアキラ氏と対談を行った。井上氏は画像認識や対話プラットフォームの研究責任者であり、全社AI強化の戦略担当者を歴任してきた人物だ。井上氏は「AIを導入をしたのはいいけれど、AIが思ったように成長してくれない、どんな学習モデルを作ればいいか解らない、と言った壁にぶつかったとき、DataRobotのシステムは有効に働いてくれると思います」と語った。
DataRobot社のシステムと特徴については関連記事「【デモ動画】AI機械学習の設定やチューニングは自動化の時代へ!データロボットの流れとしくみをデモで公開「AI-Driven Enterprise Package」」を参照。
冒頭でDataRobot社のゼネラルマネージャーの原沢滋氏が登壇し、「データロボットジャパンは、昨年の1月にオフィスを構えた当時は4名ではじめましたが、現時点では20名近くになり、日本国内を含めて、ワールドワイドでのビジネスも順調に推移しています。3月に発表した「AI-Driven Enterprise Package」(通称 AI民主化パッケージ)については、まだ導入実績はないものの問合わせは数多く頂いています。パナソニックの井上さんとは日本にオフィスを構える前から、どうやってAIを業務に取り込んでいくか、AIがどのように会社の中で推進していくべきか等の相談を頂き、DataRobotのシステムを採用して頂いています」と説明した。
5年で千人、パナソニックはAI関連の人材育成に注力
井上氏によると、パナソニックは「AIは技術戦略の根幹のひとつ」と掲げ、「従来の大量生産の形態を変えて、イノベーションを起こすためにAIを活用している」と言う。井上氏自身はデジタルカメラのルミックスシリーズにおける顔検出などに携わり、ルールベースの機械学習を使って顔を認識判定する技術等に関わってきた。現在はAIの推進役として戦略企画部で「AIソリューションセンター」(現在100名体制)の統括も行っている。2016年にAI推進室がスタートし、その時の目標として「5年後に1,000人のAI技術者の育成と創出」を目指していて、それを引き継いだ「AIソリューションセンター」では2017年度の段階で300人の育成が完了していると言う。毎年100〜200人の受講者で育成していく見込みだ。
このトークセッションで印象に残った点として、井上氏は「ディープラーニングが登場したときに”これはすごい技術だ”と感じた。しかし、AIを業務でうまく導入・活用することはとても難しい。私達のようなAI推進のメンバーがすべての現場をフォローすることはできないので、各現場で自力で回し、上手に使いこなしていくべきで、それができるメンバーを育成していくことが重要だ。その育成を支援することができるツールがDataRobotだと思っている」と語った。
また、「現場では、熟練した人の勘や経験の方を重視する傾向があり、AIが出した答えや最適解は信じてもらえない。DataRobotはそんな状況を論理的なものに変えて、AIを信用してもらうように変えていくためのツールだ」と話した。これは奇しくも、前回の発表会のゲストである大阪ガスの情報通信部ビジネスアナリシスセンター所長の河本薫氏のコメントと符合する内容だった。
DataRobotをどのように活用しているか
DataRobotを活用している業務内容としては、工場で使われている機器の故障予測、店舗での需要予測や来店客の行動分析、監視カメラ業務でどこを確認したら良いかを指示する業務などにおいて、AIシステムの機械学習の分野でDataRobotを活用していると言う。また研究部門では「マテリアル・インフォマティックス」分野でどの材料を使うべきか、効率的に使うにはどうすべきか、といった提案をAIを使って行ったりもしている、と事例をあげた。
また、DataRobotを活用する分野は「画像認識」系のAIではなく、データアナリティクス系の分野が多いと解説したが、それはDataRobotが画像認識系AIのチューニングやサポートに向かないということではなく、画像認識系の業務に関しては既にパナソニック側に見識やノウハウが蓄積されているため、DataRobotを使わなくてもAI関連のブラッシュアップやチューニングが自社で可能、ということだった。
Datarobotを活用することで製品化に繋がった事例を聞きたがったが、その質問に対して井上氏は「現状ではまだDataRobotを活用してパナソニックでは事業化・商品化まで達成に繋がったものはまだありません。ただ、DataRobotの活用方法としては、私達は”最初にあたりを付ける”と呼んでいますが、数100種類もあるパラメーターの中から、どれが有効になりそうか、効きそうかのアタリをつけるのにDataRobotはとても有効だと感じています」と回答した。
この作業を従来の方法でデータサイエンティストが行う場合は、いくつものパラメータを試す、いわゆるトライ&エラーを繰り返して、効きそうなものを導き出していく手順が必要となる。これには手間と時間がかかる。現在は、DataRobotでそのパラメータの候補をいくつか設定して帰宅し、翌朝出社するとDataRobotによる処理が完了していて、効きそうなパラメータの候補がリストされている。その結果がデータサイエンスと同等か、それよりも良いパラメータであるとして、評価を高めているということだ。また、現在のパナソニックの状況としては「とりあえずAIを使ってみたけれど、学習フェーズで思ったように成果が出ずに、AIは難しい、という壁にぶつかるケースが多い」ようだ。そんなときにDataRobotが導くアドバイスに従ってパラメータを設定することでAIが成長する道筋が見えてくると言うことだろう。
これが軌道に乗れば、DataRobotがパラメータの自動検出を行ってくれるため、いわゆるデータサイエンティストとしての専門家の業務が軽減し、あるいはデータサイエンティストがいなくても、AIの最適化やチューニングが可能になっていくと見られる。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。