【IoT業界探訪Vol.25】ローソンの考える未来のコンビニの姿とオープンイノベーション
1万5千に迫る店舗を運営、管理する巨大コンビニチェーン「ローソン」。
前回はその実験店舗「ローソンオープンイノベーションラボ」で、将来店舗に導入される技術を検証していることをお伝えした。
しかし、一口に『将来店舗に導入される技術』といっても、その領域は恐ろしく広大だ。
そこで今回は
・どのような技術領域に注力するのかを考える上で必要な「未来のコンビニ」の姿
・広大な技術領域をカバーするためにオープンな開発体制を作っていこうとしている組織「ローソンオープンイノベーションセンター」の運営姿勢
について、同部署マネージャー※の谷田詔一さんにお話を聞いてみた。
(当時。現在は三菱商事シリコンバレー支店に勤務)
なお、オープンイノベーションセンターで開発中の様々なサービスは10月16日~19日に開催されるCEATECの特別エリアにて「IoTタウン2018」として展示する予定なので、ぜひ体験してみてほしい。
ローソンが目指す『未来のコンビニ』とは
コンビニエンスストアは、高度な流通システムや店舗オペレーションに支えられた、日本が誇るサービスだ。
だが、IoT化などの新規テクノロジーを組み込むことによって、さらに上のレベルのサービスを提供できる余地があることも十分想像できる。
しかし、日頃コンビニでいきとどいたサービスを享受していると、「さらに上のレベルのサービス」と言われてもなかなか思いつくのが難しいのではないだろうか。
谷田さんは、そのヒントの一つは私達が普段よく使うECサイトにあるという。
ECサイトから学ぶ実店舗のICT化
ECサイトでは、ブラウザを通してあらゆるデータを取得、活用している。
ページに至るまでの動線、ユーザーの各ページでの滞在時間、脱落時間、決済データ、レビュー。どのようなセールスプロモーションが効果を上げているのか。それらのデータは全て定量的に計測することができる。
計測されたデータは各種のビッグデータと結びつけられ、最適なUI設計やマーケティングプランの提案、サプライチェーンの最適化にも利用される。
このサイクルが当たり前のようにまわっているのがECの世界だ。
それに対して、現状の実店舗ではレジでの購入データなどしか取得できておらず、ユーザーの購買に至るまでの行動は殆ど把握できていないという。
そこで、現状把握しきれていない、実店舗の中で起こっている出来事をできるだけデータ化し、新たなサービス提案に活かす。さらに、新たなサービスを実施した際に取得したデータを分析し、サービス品質の向上のためにフィードバックしていく。そのサイクルをコンビニに持ち込みたいのだ。
コンビニに求められる役割とサービス、その発展形とは
「ECサイトで利用されている評価サイクルと、各種IoT機器を組み合わせた店舗」、と言われてAmazonが運営するハイテク店舗Amazon Goのようなものか、と思った読者は多いだろう。そこで実際、その質問をぶつけてみたところ明確な方向性の違いを説かれた。
たしかにAmazon Goで採用されている各種の技術はローソンが抱える多くの経営課題を解消するのに役立つことは間違いない。
しかし、そのときの目的は『お客様の満足度を高める』方向性にあるべきだと谷田さんは語る。
これは、Amazonがユーザーをないがしろにしている、という意味ではない。
「ユーザーが効率的に欲しいものを手に入れる」ために洗練されたAmazon Goの買い物体験とは違う方向性でユーザーの満足度を追求するということだ。
日用品の販売だけにとどまらず、必須な行政手続きから、一番くじなどのエンタメまで様々なサービスを提供するコンビニ。現在では、住まいを選ぶ際の普遍的な条件にまで至っており、その存在は単なる『小売店』の枠では捉えられない。
そこに求められる社会的役割を考えると、コンビニの『買い物体験』はAmazon Goとは異なるものになるであろうことは自ずとわかってくるだろう。
谷田さんは、テクノロジーの力によって削減されたスタッフの労力を接客などのサービス強化に向けることで、『コンビニならではの買い物体験』を充実させたいと強く主張している。
街や生活に密着し、「ユーザーが楽しくつつがなく生活する」ために発達したコンビニの幅広いサービス。
そこにIoTやAIを使った検証サイクルを導入することで、単なる小売店舗を超えた新たなサービスが生まれるのが楽しみだ。
しかし、そのための技術分野はローソンだけでカバーするにはあまりにも広い。
そこで、社内外をとわず様々な知見や技術を集結させるため、実験店舗オープンイノベーションラボや開発を主導していくオープンイノベーションセンターを設立したのだという。
次章では、オープンイノベーションセンターがどのように運営されているのかについて聞いてみよう
技術と知見を集めるために
現在オープンイノベーションという言葉はある種のバズワードとなっており、大手企業の中では、数多くの取り組みがなされている。
しかし、その多くがうまくいっているとは言えない。
案件のミスマッチに始まり、大手側とのスピード感の違い、リソース配分など、様々な理由でプロジェクトが閉塞状況に陥っている。
ローソンオープンイノベーションラボを運営するオープンイノベーションセンターは2017年5月に開設された。
時期的に先駆者とは言い難いが、それだけに、多くのオープンイノベーションプログラムから得られた知見が活かされているように感じた。
ローソンの考えるオープンイノベーションへの取り組み方の特徴を幾つか紹介してみよう。
専従社員によるスピーディな運営
一つ目の特徴はオープンイノベーションセンターを専従社員が運営しているということだ。
多くのオープンイノベーションプログラムがあるが、専従社員によるクイックな意思判断や、横槍のない速やかなプロジェクト推進ができているものは数少ない。
ローソンのような大手企業であれば、オープンイノベーションプログラムに参画する企業のモチベーションは非常に高いだろう。
しかし、担当者が他の業務を抱えていてリソースを割けなかったり、稟議が難しい組織構造になっていたならば、参画者を惹き付け続けることは難しくなってしまう。
早いサイクルでプロジェクトの実現性を検証し、改善を続けて店舗に実装していくことを目的とするオープンイノベーションセンターとしては、スピード感を第一にした組織の形は必然と言えるだろう。
社内一致した協力体制の構築
二つ目の特徴は社内リソースの活用だ。
ローソンオープンイノベーションラボで検証する技術は店頭で利用されるものが多く、現場からの協力無しではプロジェクトの実施が難しい。
『組織の立ち上げ初期は面倒なことばかり持ち込む組織だと煙たがられていた』と率直に語る谷田さん。
しかし、そんな状況であっても、オープンイノベーションセンターは自身が持つ仮説に対してユースケースやファクトを積み上げ、丁寧に検証しつづけることで徐々に信頼されるようになっていったと言う。
いまとなっては、マーケティング担当や、実施する店舗サイドなど、多くの部署の協力を得ることができており、彼らから上がってきたアイデアなども検討に上がってきていると言う。
情報開示による新たな仲間集め
三つ目の特徴がオープンに情報を開示していくことだという。
積極的にメディアに対して情報を投下し、ニュースとして取り扱われることは、オープンイノベーションプロジェクトに参画している企業にとっては大きなメリットとなる。
実際、「オープンイノベーションセンター ローソン」で検索するだけで数多くの記事が閲覧できることから、その積極的な広報活動が見て取れるだろう。
それだけでなく、谷田さんをはじめとしたプロジェクトメンバーは様々な業界向けのイベントなどで講演をすることなどでも事例の周知を図っている。
マスメディアだけでなく、業界内でのプレゼンスの向上、クロウトからの評価の向上が狙いだろう。
このような地道な努力によって、オープンイノベーションセンターの知名度も上がり、参画希望者が増えていくというサイクルだ。
谷田さんが語っていたときに何回も口にしていたのが「選ばれる実力」というキーワードだった。
国内コンビニ業界大手であるローソンはオープンイノベーションプログラムへの参画を考えている企業としては、申し分ない協業先だろう。
しかしそのブランド力だけでプロジェクトを成功に結びつけることはできないのだ。
では、オープンイノベーションプロジェクトの成功要因とはなんだろうか。
「良いマッチング先を探すためのリサーチ」や「選抜スキーム」など、外部に求めることは容易だ。
しかし、最後に必要なのは、『有望な芽に対して実を結ぶまでケアし続けられる体制づくり』なのではないだろうか。
そのために
「関わってくれようとしている外部のステークホルダーにきちんと報いることができる会社であること。」
「社内のステークホルダーときちんと向き合い、協力してもらえる部署であること。」
を徹底していたローソンイノベーションセンター。
オープンイノベーションプロジェクトを成功させるために、まず自社の体制、自分の部署のあり方を徹底的に見直すという姿勢に、強い信頼感を抱くことができた。