ジョンソン・エンド・ジョンソン、整形外科関連製品を扱うロボット倉庫を公開 ノルウェー製「オートストア」を導入

ヘルスケア関連製品最大手のジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 メディカル カンパニー(http://www.jnj.co.jp/index.html)は、11月12日、ヤマトグループ羽田クロノゲート内にある物流拠点に導入した最新ロボット倉庫をメディア向けに初公開した。ジョンソン・エンド・ジョンソンはグローバル経営戦略の一つとして「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」の推進に取り組んでいる。ロボット倉庫導入はその一環で、「D&I」のさらなる推進を目的として、整形外科関連製品を扱う物流拠点の一つに自動ストレージ・ピッキングシステムを導入した。

医療機器の倉庫作業では正確かつ迅速な作業が求められている。ジョンソン・エンド・ジョンソンでは整形外科領域における手術用の製品・関連部品として数万種類を揃えている。従来は注文に合わせて手作業でピックアップしていたが、羽田ディストリビューションセンターでの取り扱い点数が年々増加していること、物流業界が人手不足で高齢化していることから、ロボット倉庫によるピックアップ作業を導入した。従来の従業員に求められていた体力や専門知識などの厳しい条件を緩和し、業務ハードルを下げる。操作画面には単純な英語表記を用い、作業従事者についてもより広範な背景人材を求めることができるとしている。


ヤマトグループによる総合物流ターミナル「羽田クロノゲート」内に導入された


「AutoStore(オートストア)」を導入

27m×24mの区画内を61台の箱型ロボットが走り回る

導入されたロボット倉庫は、ノルウェー・Jakob Hatteland Computer社製の「AutoStore(オートストア)」。Swisslog(スイスログ)社を代理店として導入した。倉庫上面の縦横に並ぶ「グリッド」と呼ばれるアルミ製のレール上を、61台の自走箱型ロボットが動きまわり、指定された製品を吊り上げてピックアップする。

今回、ジョンソン・エンド・ジョンソンが導入したオートストアのグリッドエリアは27m×24mの648平米。このなかを15,000箱の「ビン」と呼ばれる高さ22cmの灰色のコンテナ容器を16段、高さでは床面から3.9m積み上げたシステム構成となっている。実際の商品は「ビン」の中に保管されている。ピッキングするように指定された商品が入った「ビン」をグリッド上を移動するロボットが吊り上げて、作業員が作業を行う「ポート」へ供給するしくみだ。


オートストアの仕組みの模式図

オートストアの特徴として、システムを動かせば動かすほど、高頻度に出荷される商品が上のほうに、低頻度な商品は下のほうに回ることで、徐々に効率化されるようになっている。


動かすほど効率化される

システム全体は、免震構造の建物内部に、さらに鉄骨を追加して耐震構造としたという。


耐震構造を強化

人間の作業員は、8つある「ポート」で作業を行う。「ポート」では、必要な製品・部品は作業員の手元まで届けられるので、従来のピッキング作業のように、棚のあいだを歩きまわって必要な製品を探す必要はない。


オートストアの「ポート」での人によるピッキング作業

具体的にはバーコードのつけられた出荷指示書と画面、そしてプロジェクタを使った光投影によってピックアップすべき製品・部品を指定されるので、それを取り上げ、出荷指示書と製品のバーコードを読み取って、正しいピッキングが行われたことを最終確認し、次の物流工程に流すという手順だ。なお「ポート」は動線を配慮して倉庫の中央部に設けたとのこと。

ジョンソン・エンド・ジョンソンは国内5箇所(羽田、札幌、神戸、新砂、福岡)の物流拠点を運用しており、うち4拠点が整形外科製品を扱っている。ロボット倉庫の導入はジョンソン・エンド・ジョンソングループとしては世界で初めて。自動倉庫導入によって、専門知識や作業経験量に依存せず、正確で迅速なピッキングが行えるようになったとしている。


実際のピッキング作業の様子

ピックアップする商品。青い光が当たっている部分の商品をピックアップする


「サポートジャケット」も試用中

サポートジャケット

また、ロボット倉庫導入とあわせて、高重量物を扱う作業員の身体負荷を軽減するワークウェア「サポートジャケット(https://www.upr-net.co.jp/suit/kind/supportjacket/)」の導入も予定している。「サポートジャケット」はユーピーアール製のアシストスーツで腰の負担を軽減する。ロボット倉庫の前後にある、納品された商品の開梱や梱包された製品の運搬に試用する。


背骨型の構造、幅広ベルト、腰から膝へのパワーベルトで負担を軽減

「Bb+」と呼ばれる背骨型の構造による姿勢矯正が第一の特徴。第2に腰を安定保護するために幅広のベルトで背骨と背筋腹筋を包み込んで腹圧を保ち、作業時の腰の負担を軽減する。第3に腰から膝にかけてはパワーベルトを装備し、前屈や起き上がりを補助し、疲れを軽減する。現段階では試験導入で、11月に運用試験を開始し、導入は12月以降を予定している。




整形外科分野は高齢者人口が増えるに従って市場拡大中

ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 メディカル カンパニー デビューシンセス事業本部 バイスプレジデント 岩屋孝彦氏

会見でははじめに、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 メディカル カンパニー デビューシンセス事業本部 バイスプレジデントの岩屋孝彦氏が、羽田ディストリビューションセンターの概要と整形外科領域の物流の特徴について解説した。

ジョンソン・エンド・ジョンソンは130年の歴史を誇る世界最大級のヘルスケアカンパニー。事業別売上比率は、医療用医薬品が47%、医療機器・コンタクトレンズ、眼科治療が35%、消費者向け健康関連製品が18%となっている。2017年の売り上げは701億ドル(日本円で8兆円弱)。34年間連続で営業利益が成長しており、56年連続増配している。イノベーションに対する投資も積極的に行なっており、毎年1兆円程度を研究開発に回しており、売り上げの25%は直近5年間に発売した新製品となっている。


ジョンソン・エンド・ジョンソンは日本国内でも1961年以来の歴史をもつ

経営戦略としては「Our Credo(我が信条、https://www.jnj.co.jp/group/credo/index.html)」を掲げている。患者や顧客への責任などを果たすというものだ。岩屋氏はバンドエイドや使い捨てコンタクトレンズ、縫合糸や冠動脈ステントなどの開発の歴史を示し、「患者が健康を取り戻すために何ができるかと考えて事業を進めている」と述べた。


「患者が健康を取り戻すために何ができるか」

日本の医療では、外科、循環器、整形外科領域の3つに注力している。整形外科は高齢者人口が増えるに従って市場拡大を続けており、ジョンソンエンドジョンソンでも重要な領域と考えているという。

人間の身体は骨一つとっても大きさも形もまちまちだ。様々なサイズの骨に対して治療を行う材料も多種類になる。「一人一人のバリエーションだけでなく、体格の違いも考えると、無数の製品を揃えなければならない」という。


人の身体は多様であり、そのための治療材料も多種多様

海外から空輸されてきた製品を、正しく日本のマーケットに出荷するための中枢センターが羽田ディストリビューションセンターだ。これまでは人がピッキングしていたが、ロボット倉庫を使うことでより正確になる。岩屋氏は「医療機器を適切な製品を的確に患者に届けるというなかで、もっとも熟練が必要だったピッキングを自動化することで、正確性をさらに高める。さらに人材確保についてもより容易になると考えている」と述べた。


適切な製品を的確に出荷することがロボット倉庫導入のねらい


ロボット・テクノロジー・人による継続的なプロセス改善と「D&I」実現を目指す

ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループ 日本カスタマーロジスティクスサービス シニアディレクター 荒川朋子氏

続けて、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループ 日本カスタマーロジスティクスサービス シニアディレクター 荒川朋子氏がダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進と展開について解説した。

ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)はジョンソンエンドジョンソンの経営戦略「Our Credo」の一つ。多様性を尊重することで、一人ひとりが能力を最大限に発揮するという考え方だという。社員一人ひとりの事業に配慮して最大限の能力を発揮することを目指して、「国際女性デー」には女性のキャリアについて話し合ったり、「父の日ワークショップ」では育児に関する悩みを話し合う機会を設けるなどしていると紹介した。また医療業界における働き方改革にも取り組もうとしているという。

今回のロボット倉庫導入も、物流現場へのダイバーシティ&インクルージョンという活動の一環。今後の人手不足が懸念されるなか、多様な人材に活躍の場を提供することを目指し、シンプルなプロセス、柔軟な勤務体制、負荷の軽減を目指す。


多様な人材の活躍の場を目指す

そして「ロボット・テクノロジー・人によるD&Iの実現」を目指す。ロボット倉庫を使うことで経験の多寡に関わらず作業が可能になり、国籍を問わず人の採用が可能になると考えているという。荒川氏は「今後も継続的なプロセス改善を通して、これを実現していく」と述べた。


ロボット・テクノロジー・人によるD&Iの実現


ピッキング効率は1.5倍、容積効率化は約4倍

オートストア稼働状況確認用モニター。ロボットの動きをリアルタイムに見ることができる

従来は人が棚のあいだを歩き回ってピッキングしていたが、「オートストア」導入によって、従来の棚に比べるとピッキング効率は1.5倍、保管スペースベースでは約3.8倍、高密度に保管できるようになった。現在、数万点のSKU(Stock Keeping Unit、物流における最小管理単位)を扱っている。


容積効率化は約4倍になった

導入にあたって他社製の自動倉庫も検討したが、「オートストア」は一度に全部が止まるということが他のシステムに比べて少ないと判断して導入したという。

実際の作業の様子

なお、入荷した製品をオートストアのそれぞれの「ビン」に仕分けして投入する作業や、オートストアを使って出荷作業をしたあとの工程などは手で行なっており、まだ自動化されていない。そのような工程でサポートジャケットを使って軽労化していくという。サポートジャケットの着用体験も行わた。腕や腰ではなく、屈伸運動で持ち上げることを意識すると、より効果的だという。短時間では効果はあまり実感できなかったが、長時間・長期間着用すると違いが出てくるのかもしれない。

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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