ハウステンボスが家庭向けロボットに参入した。第一弾は”気になる家族をやさしく見守る”コミュニケーションロボット「TELLBO」(テルボ)だ。ロボスタでは既に実機レビューをお伝えしているが、4月16日、都内のエイチアイエス本社において、開発に協力したユカイ工学と共同で記者発表会が行われたので、今回はその様子をレポートする。発表会にはエイチアイエスの澤田社長も登壇し、家庭用ロボット事業に関する意気込みを語った。
クマとスマホが家族を繋ぐ 離れて暮らす大切な人との会話を促す見守りロボット「TELLBO(テルボ)」をハウステンボスが発表
ハウステンボスと言えば長崎にあるテーマパーク(アミューズメント施設)で知られているが、「変なホテル ハウステンボス」などホテルやレストランにも力を入れてきた。また、ハウステンボスなどの施設でお土産製品をはじめとして物販も行ってきた。今回はハウステンボス内のキャラクター、テディベアを応用した肌触りの良いクマのぬいぐるみに、「TELLBO」本体を内蔵して販売するカタチだ。
「TELLBO」にはSIMカードが内蔵されていて電源を入れるとすぐに使えるように配慮されている。また、スマホのアプリの設定は必要だが、それはぬいぐるみを使用する高齢者ではなく見守りたいと考える40〜50歳世代が管理するスマホ上ですべてが設定できるしくみだ。
「おもいやり」がキーワードの製品
ますばハウステンボスで取締役&CTOをつとめる富田氏が登壇し、この製品についての思いと、ロボットの市場について語った。
冨田氏
日本はロボット大国と言われていて、産業用ロボットで世界をリードしたきたが、将来予測をみると産業用ロボットの割合は20%程度だと見られています。コミュニケーションロボットなどのサービスロボットが台頭していかなければなりませんが、その点では将来を憂いています。
オリンピック/パラリンピックを控えて「おもいやり」や「オモテナシ」という言葉がクローズアップされていますが、おもいやりがなければオモテナシはできません。エイチアイエスは「LOVE PEACE TRAVEL」を掲げていて私のモチベーションになっていますが、変なホテルなどを手がけてきたハウステンボスは「LOVE PEACE TECHNOLOGY」が重要だと、私、個人的には考えています。
武富さんは、音響ビデオメーカーで素晴らしい仕事をした後、変なホテルのロボット、ちゅーりーちゃんをシャープと開発したりと知見が豊富です。また、ロボットは冷たい印象がありますが、ロボットに最も思いやりを込めて開発してきたのがユカイ工学の青木さんだと思っています。そのふたりを中心にしたチームワークで実現したプロダクトです。
澤田社長にはよく言われます。「冨田さんが操作できるんじゃなくて、誰でもが操作できるロボットでなければダメなんだよ」と。更に安心で可愛くなければダメなんだとも言われます。これらを含めて「おもいやり」がキーワードとなっている製品だと受け止めて頂ければうれしい
後期高齢者と家族が繋がるロボットに
続いて、TELBO開発の中心になった武富氏が登壇し、家庭用ロボットの第一弾として「TELLBO」にたどりついた経緯を語った。
武富氏は冒頭でNEDOによる市場予測を紹介、今後ロボット市場は拡大していき、2035年には産業用ロボットの市場規模をサービスロボットの市場が超えるだろうとした。
武富氏
既に国内では約273種類のサービスロボットが存在していて、コミュニケーションロボットは24種類が既に発売されています。私達はこれから参入する市場を絞り込むため、アンケート調査を行いました。その結果、後期高齢者と呼ばれる75歳以上の方に利用して頂ける製品を提供していきたいという結論に至りました。
内閣府の資料では、来年には日本の人口の約15%が、2065年には約25%が75歳以上になると予測されています。更にトータルの世帯数では12%にあたる610万世帯が独居の後期高齢者世帯になるとされています。また、更に「ロボットにはどんな機能が必要と思いますか」というアンケートを行った結果、見守りやコミュニケーションを助けるロボット、服薬などのお知らせ(リマインダー)機能を望む声が多く見られました。
こうした背景から、独居の高齢者が家族とコミュニケーションがとれるロボットを投入したいという思いに至り、「TELLBO」は簡単、安心、可愛い(癒し)をキーワードにした製品に仕上げました。
具体的な例は下記の通り。
簡単
Wi-FiではなくSIMカードでの通信を採用することでセットアップや通信トラブルを減らす
安心
会話メッセージ機能はもちろん、ドアセンサーによる見守り、リマインダーで日常の予定を知らせてくれる機能
可愛い(癒し)
ぬいぐるみ形状を筒状の本体に被せる方式でフワフワのロボットを実現
人を繋ぐロボット
ユカイ工学の青木氏が世の中に送り出したロボットは「BOCCO」(ボッコ)や「Qoobo」(クーボ)などが知られている。中でも「BOCCO」の機能を「TELLBO」は高齢者向けに応用した。子どもの見守りは「BOCCO」、高齢者の見守りは「TELLBO」と、市場の棲み分けも明確にしている。
青木氏
私達はコミュニケーションロボットをすべての家庭に届けようというビジョンを持っています。「BOCCO」は留守番をしている子どもと家族がコミュニケーションできるロボットとして2015年に発売しました。また、オプションでドアや鍵の開け閉めや室温を検知するセンサーなどを用意して、見守り機能を充実させました。「TELLBO」は「BOCCO」のプラットフォームを活用するカタチでスピーディに開発を進めてきました。
また、最近はBOCCOユーザーにも高齢者の方が増えてきました。リマインダーによる服薬時間の管理、冬場の乾燥、夏場の熱中症の管理などのニーズがあります。また、ケアマネージャとのコミュニケーションに使われる例も増えています
更に進化したロボットの開発と提供もめざしていく
最後に澤田社長が登壇し、今回のプロダクトが「変なホテル」の反省から生まれたことを明かした。
澤田氏
私達は「変なホテル」を開業した際、生産性の高い事業を目指してロボットの導入をはじめました。その中で導入したちゅーりーちゃん(各室に配置したコンパニオンロボット)が、知的ではなくてお客様からさまざまな要望をもらいました。そのロボットの改良版を考えたときに、家庭でも使えるロボットにしてはどうかと開発が始まりました。(TELLBOは家庭用ロボットで、変なホテルへの導入予定はない)
私がポイントにしたのは「肌触りが良い」ロボット。とても良い物ができあがったと思っています。今後はデザインや機能を拡張した製品も引き続き、開発していきたいと思っています。実は「呼んだら近くに来てくれるロボットが欲しい」と要望したのですが「無理難題を言うな」と叱られました(場内笑い)。
将来はいろいろなところでロボットが使われるようになっていくでしょう。また、AIと連携して複雑な会話にも回答できるものに進化していくだろうと考えています。高齢者が増えていきますので、安全で楽しい、家族とコミュニケーションがとれるような製品を追求していきます。
目標は2500台、高齢者用に特化した性能でブラッシュアップ
そのあと、質疑応答が行われ、初年度の目標の販売台数や、ちゅーりーちゃんが顧客の満足度を得られなかった理由などが問われた。
それに対して武富氏は、台数は初年度2500台、一次目標としてトータルで5000台を販売したいと回答した。また、ちゅーりーちゃん(ネット接続がないロボット)が評価されなかった点は「音声認識で求められている性能を満たせなかった」点が大きいとし、今ではスマートスピーカーなどの性能が上がり、クラウドで会話の性能が格段に向上していることをポイントとしてあげた。また、ちゅーりーちゃんの場合は、客室で呼びかけるためにユーザーとの距離が遠くて聴き取りが難しかったが、TELLBOではマイクの位置をしゃべるのに近い位置に配置したので聞き取り精度も向上している。更に音声認識には、子どもに適したものや高齢者に適したチューニングがあるとした上で、今回のTELLBOは高齢者向けにチューニングして用意したと説明した。
そうした上で更には「実は今回は音声認識で何かさせるという機能はあえて行っていません。高齢者側の操作は、あくまでもメッセージを聞くことで音声での録音が主体です。それによって、聞き取り不足によるトラブルや不満を抱えることがほとんどないと考えています」とした。
高齢者向けの配慮としては、前述のようにSIMカードが搭載されているので電源を入れるだけですぐに使えること。更に、BOCCOでは声のトーンやスピードを調整することで聞き取りやすさのカスタマイズができるが、TELLBOでは男の子と女の子の声をそれぞれ2種類用意したり、同じメッセージを二回繰り返してTELLBOにしゃべらせる設定ができるため、聞き逃しを防止するなどの配慮がされている。
ロボット事業の拡大と上場の予定
最後に澤田社長に対して、ロボット事業を柱として育てたい意向か、ハウステンボスの上場についても質問が及んだ。
澤田氏は「将来、(ロボット事業を)数百億か数千億円規模の市場に育てたい」と語り、「実はホーム用ロボットの開発をこれとは別に行っている。数ヶ月後に発表できると思う」と語った。また、ハウステンボスの株式上場については、株式上場の準備ははじまっていて、2〜3年内にはできるのではないか、カジノ構想などのいろいろな計画があるので上場による資金調達で対応していきたい、と語った。
ハウステンボス「TELLBO」公式ページ
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。