ロボット業界の人たちは「とにかく熱い」 —— ロボットパイオニアフォーラムが令和初開催!
5月23日(木)19時より、東京・赤坂のThe HexagonにてロボットパイオニアフォーラムR001が開催された。
元号が令和になってから初めての開催となる「ロボットパイオニアフォーラム」は、ロボット業界関係者が集まりロボットの未来を語り合うイベント。前回開催されたのは約1年半前で、過去11回に渡り、「ロボット × VC」「ロボット × AI」「コミュニケーションロボット大集合」など様々なテーマで開催されてきた。幹事社を務めるのは、ロボット制御システム「V-sido OS」を開発するアスラテック株式会社、上半身ヒューマノイド型17軸ロボット「シューラスセブンティーン」を開発する株式会社アールティ、ロボスタの運営やコンサルティング事業等を行なうロボットスタート株式会社の3社。協賛にTBSテレビが加わり、令和初回となるロボットパイオニアフォーラムを盛り上げた。
今回の記事では、「平成から令和へ。ロボット新時代の幕開けを語る。」をテーマに開催され、注目のロボットスタートアップのキーマンたちが登壇した本イベントのレポートをお届けしていく。
AIを売りにしても料理が売れるわけではない
まず登壇したのはコネクテッドロボティクス 取締役COOの佐藤泰樹氏。佐藤氏は、ロボットを活用した店舗で店長を務めるなど、現場にロボットを実装するといった立場で業務を行なってきた。
コネクテッドロボティクスは現在たこ焼きロボットを始めとした調理ロボットを展開している。
佐藤氏は「僕らはロボットが見たいから飲食店に行くわけではなく、美味しいものを作るという本来の目的からズレてはいけない」と語った。「勘違いされていることが多いのですが、AIが調理しているからロボットを見に来る人はいますが、食べないお客様が多いです」と佐藤氏。おいしいたこ焼きを作るという本来の目的を忘れてはいけないと述べた。
また、ロボットを導入する際に見落としやすいのは「スタッフが使いやすく掃除がしやすいこと」と「ロボットが調子が悪い時にサポートができるようにしないといけない」ということだと述べた。「自分たちが提供する技術以外のところでもメンテナンスをしておく必要がある。現場で納品しながら開発をするといったこともしてきた。AIを売りにしても料理が売れるわけではない。本質はおいしいたこ焼きを作ること。そこに向き合って料理をすることが大事」と語った。またハードウェアを作りすぎないことも大切で、自分たちが何をやる会社なのかを常に意識し、「ロボットアームを選ばない”調理ロボットOS”を作る」ことと「画像認識を利用した調理判定をする」という2点を軸にしていると語った。最後に「採用も募集中で、開発に協力してくれるパートナーも探している」と述べ、セッションを締めくくった。
“エアリズム”も畳めた遠隔ロボット家事サービス「ugo」
続いて、Mira Robotics 代表取締役の松井健氏が登壇。まず「遠隔操作ロボットは数多く作られている」と語り、遠隔操作ロボットの分類を紹介した。
「音声・映像のやりとりができ移動ができるロボットはあるが、私たちがフォーカスしているのは音声・映像・移動に加えて作業もできるロボット。人とロボットのハイブリッドな融合です」と語り、今年はじめに発表した遠隔家事サービス「ugo(ユーゴー)」を紹介した。
Mira Roboticsは、ロボットの専用のコントローラーを作り、サービス提供に必要なセキュリティなどを開発し、オペレーターとマッチングするプラットフォームの展開を目指す。まずは宅内の家事から、特に洗濯物を干し、取り込み、畳むといった家事の中でも洗濯を重点的に訓練しているといい、「折りたたみロボットでも難しいとされた”エアリズム”も畳むことができます」と話し、その様子を動画で紹介した。私たちが開発しているのは「人と同じように移動ができ、直感的に人が操作できるもの。ロボットハンドはロボット自身が自分で交換できるようになっています。作業に合わせてハンドを使います。身長は180cmまで伸び、下に下がることもできるので、床の邪魔なものをどかしたり、洗濯物をたたんだりすることもできる」と述べた。今後は、まず人が遠隔操作することで作業をするためのデータを蓄積し、その後それらの作業をコマンドとして蓄積。さらにそのコマンドを実行するタイミングを学習し「最終的にはプロセスを自動化したい」と述べた。
減少する労働力をロボットで補完
続いては、エクサウィザーズ 取締役の粟生万琴氏。エクサウィザーズは3年前に創業したいわゆるAIスタートアップだ。「私たちが考える社会課題は、人口減少と高齢化社会」と述べ、「課題ドリブンで様々なAIの開発を行なってきた」とこれまでの実績を紹介した。
現在も工場などでは液体量を計測するといった作業が発生しているが、「それは本当に人でないといけないのか」と考え、この単純作業をロボットで置き換えることを目指し、開発。結果粘着度の高い液体を「一発で100ccだけ抽出する」といったことができるようになった。学習用のモーションを約100種類用意して開発を行なった。
ロボットアームはデンソーウェーブの協働ロボット「COBOTTA」を採用。安全柵がいらないので、オフィスの中やラインの中に入れることができる点が良いと語った。
粟生氏は「減少する労働力をロボットで簡易に補完可能な世界」を目指していると述べ、「日本企業は地方に工場進出をするが、地方から労働人口が減少している。新設の工場にもこれまではパートさんも来てくれていたが、今は人が集まらない」と人手不足の課題を指摘。新設の工場はAIとロボットをはじめから導入する前提で展開すべきだとした。最後に粟生氏は「産業用ロボットがバラバラに成長している。官民一緒になって、日本が抱える課題に取り組んでいけたらと思います」と業界全体で課題に取り組む必要性を訴えた。
ロボットに関わる人は、とにかく「熱い」
TBSテレビでビジュアルデザインセンターに所属する長沼氏は「TBSとロボットと」というテーマで登壇。テレビ局でもロボットが採用され始めていることを紹介した。実際に日本テレビで「マツコロイド」が出演するテレビ番組が放映されてきたり、アンドロイドアナウンサーのアオイエリカが入社したり、テレビ朝日で黒柳徹子さん型のアンドロイド「totto」を開発するなど、テレビ×ロボットが話題になることも増えてきた。
一方でTBSではロボットは道具というよりも「役者さん」だと考え、ロボット開発やソフトウェア開発に+αの要素を加えるロボットの総合演出という立場で、Pepperを活用する企業にシナリオを提供するなどお手伝いをしてきたという。開始当初の2016年は順調だったが、のちにロボットビジネスの難しさに気づいたと述べた。
長沼氏は「ビジネスは難しいけれども、ロボット業界の皆様は、みんな熱い。本当に熱いと感じた」といい、ロボット業界の熱い方々を支援するために「赤坂な組」という取り組みを始めたことを紹介した。「各分野の専門家の方に集まってもらって。専門知識を広めていってもらったり、交流してもらうことで、研究者が支援できるのではないか。ロボットを愛する、ロボットビジネスを信じる人を中心に応援していきたい」と述べた。
知識で粋な未来を創造する 未来ラボ 赤坂な組
触れ合って感動を与える次世代ロボット「LOVOT」
最後に登壇したのはGROOVE X代表取締役の林要氏。GROOVE Xは言わずと知れた、次世代の家族型ロボット「LOVOT」を開発するロボットスタートアップだ。
まず「LOVOTと触れ合って頂いた方はどれくらいいらっしゃいますか?」と質問をした林氏。半分近い人の手が挙がった会場をみて「さすが、すごいですねこのクラスターは…」と感想を漏らした。
そんなLOVOTだが、「動画をみると可愛いで終わってしまうのが問題」だと語り、「実際に触れ合うと想像以上の感動がある」と述べた。体験者の99%が想像以上もしくは想像通りと回答をしているようで、「これまでの家庭用ロボットでは想像を下回ることが多かった中で、想像を下回ったと回答するのは1%しかいない」と体験者から好感触を得ていることを紹介した。
2018年12月にLOVOTの発表会を行なったGROOVE Xだが、「取材に来られる記者の方を80名程度と想定していたところ130名に来て頂いた」と予想以上の注目度だったことを紹介。LOVOTは大きな話題になり「これまでに800媒体以上に取り上げて頂きました。広告換算価値で言うと12億円ほど」だと語った。また海外の反応については、「CESにも持っていったがビックリするくらい受けがよかった。”CESの顔”といった形で紹介して頂きもした。頑張って作るとアメリカの方々も応援してくれる」と述べた。
また海外の事例として、「施設に入ってから一言も喋っていなかった男性が、LOVOTを見てから喋るようになった」と紹介。そしてLOVOTは子供にも良い影響を与えると述べた林氏。「子供達にとってこのLOVOTは2歳児くらい。子供達は小さい子供を抱っこして面倒見てあげたいが、親御さんは怖くて任せられない。そこでLOVOT。結局誰かの面倒を見てリワードがあると、人は優しくなれる。それをどれくらい小さい頃に覚えられるかが大事」だ語り、犬と同じようにLOVOTにも情操教育としての効果があることがわかってきていると紹介した。最後に思わぬ効果だったのが、「想定以上に女性のウケが良いこと」と紹介し、「LOVOTを持っているとモテそうだということです。独身の男性は購入をご検討頂けたらと思います」と会場を和ませ、セッションを締めくくった。
LOVOT | ロボスタ
ライトニングトーク
その後は2分間×5名によるライトニングトークが行なわれた。
2013年から5年ほどPepperに関わってきたヘッドウォータースの渡部知香氏。渡部さんは、Pepperの公式アプリなどを含めて、数多くのPepperアプリ開発に携わってきた。Sotaが居酒屋の席でコミュニケーション役として活躍する「飲みニケーションロボット」や、居酒屋にAlexaを導入するなど、多数のメディアで取り上げられるような先進的な取り組みも行なってきた渡部さん。LTの最後には、ヘッドウォータースは主催の1社として関わっているイベント「VoiceUI Show」を紹介した。
続いてライトニングトークに登壇したのは木村裕人氏。「ロボット”ロビ”をロボットクリエイターの高橋智隆さんと作ってきました」とこれまでの経歴を紹介すると、「そして今回高橋智隆さんと一緒に新しい会社を立ち上げました」と木村さんが代表を務める新会社・Marine Xを紹介した。
木村さんは「これからは水上モビリティの自動運行化を目指しています。現在すでに一号艇を作っています」と紹介し、「開発協力社を求めていますので、ぜひお声がけ下さい」と来場者に呼びかけた。
続いて登壇したのはXela Robotics株式会社 マーケティング・マネージャーの趙秀(ちょう しゅう)さん。Xela Roboticsのロボットハンドやグリッパーなど、新たな触覚センサを開発する同社のテクノロジーを紹介。ロボットハンドで容器を器用にもつ様子などが動画で紹介された。
続いては、ソフトバンクの直野廉氏。これまで数々の法人向けのデモを行なってきた直野氏は、「顧客課題に沿ったデモを行なうこと」と「期待値の上昇に備えること」がデモにおいては大切だと述べた。数々のデモを行なう内に、効果的な機能を見つけたと紹介。それは「天気」であり、会話できると言うと「90%くらいの方は天気ばかり尋ねる」と紹介し、会場の笑いを誘った。
ライトニングトークの最後に登壇したのはQBIT Robotics 代表取締役社長兼CEOの中野浩也氏。中野氏が立ち上げたQBIT Roboticsは、現在UCCと共にロボットカフェを展開するなど注目を集めている。「&ロボット」ということで、あらゆる分野にロボットを展開していきたいと展望を述べた。
ライトニングトークのあとは懇親会へ。
1時間ほどの懇親会では、お酒片手にロボットの話に花を咲かせた。
会の締めには幹事団の3名が登壇し、「ロボットパイオニアフォーラムをまた年内に開催したい」と語られた。
ロボットビジネスは難しいと言われるが、人手不足が進む日本においてはビジネス的にも大きなチャンスで溢れている。今日集まった熱いビジョンを持っている方々がきっとロボットで世の中を変えていくはずだ。
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ロボットスタート株式会社ロボットスタートはネット広告・ネットメディアに知見のあるメンバーが、AI・ロボティクス技術を活用して新しいサービスを生み出すために創業した会社です。 2014年の創業以来、コミュニケーションロボット・スマートスピーカー・AI音声アシスタント領域など一貫して音声領域を中心に事業を進めてきました。 わたしたちの得意分野を生かして、いままでに市場に存在していないサービスを自社開発し、世の中を良い方向に変えていきたいと考えています。