NTTコム「ディープラーニングの社会実装が進まない理由」として製造業の事例を紹介 DLLABイベントで

「Deep Learning Lab」(ディープラーニング・ラボ)は、ディープラーニングを中心とした先端技術の持つ可能性を、実際のビジネスへ応用するべく、技術とビジネスの両面に精通したプロフェッショナルたちが集まるコミュニティ。Microsoft AzureとChainerを、主要なプラットフォーム/フレームワークとして、開発やビジネスの現場の声を共有する場にもなっている。

そのDEEPLARNING LABは6月8日、東京大手町で「DLLAB 2周年イベント: ディープラーニングの社会実装を阻むものは何か?」(主催:日本マイクロソフト株式会社)というセミナーとワークショップ、ミニ展示ブースで構成されるイベントを開催した。
基調講演には東京大学の松尾豊氏とマイクロソフトのRahul Dodia氏が登壇した。

満員の基調講演(マイクロソフト)


また、協賛企業を中心に多くのセミナーも行われた。その中からNTTコミョニケーションズの伊藤氏が登壇した「深層学習を製造業の課題解決に用いた経験から学んだ、深層学習の社会実装が進まない理由」を紹介・解説したい。(冒頭の写真:NTTコミュニケーションズ株式会社 技術開発部 AI Technical Unit 経営企画部 Smart World 推進PJ 伊藤浩二氏)


製造業が抱える課題

NTTコミュニケーションズは製造業にディープラーニングを実装することについて、どのような課題を感じ、どのような対策をしているのだろうか。

まず、製造業が抱えている近い将来に向けた危機感として、「少子高齢化による人手不足と技術力の低下の懸念」が寄せられているという。これから10年内に現在、プラントや製造セクションで活躍している中心的な技術者たちが高齢化に伴い、引退・退職することが予想され、それによって大きな技術力の低下が予測される。その低下をAIやIoT技術を活用することで、高水準な状況を維持できないかという相談だ。


伊藤氏は製造業では主にプラント分野を担当しているが、冒頭で、製造業にAIを適用する際に考えるべき3要素を解説した。
まず、ビジネスの課題に沿って、IoTセンサー機器からデータを収集し、そのデータをAIが学習し、解析することで課題を解決する流れになるが、「AIで解くべき課題をまず明確にすること」「必要なデータを特定してIoTで収集・蓄積・解析」を行うこと、そして「その課題の解決に適したAIを用いること」が重要とした。


NTTコミュニケーションズの導入例として多いは、品質の予測、異常の予兆検知をAIで行うこと、そしてパラメータの高精度化によって今まで技術者の経験や勘による業務をAIでシステム化したいというケースも多いという。後者はまさに将来の人手不足への危機感からくるものだろう。
故障の予兆検知や品質の予測については、三井化学の案件を紹介。プラントで使用しているセンサー類の故障の検知をおこなっているという。また、プロセスデータを収集して解析することで、20分後の製品品質も予測するという。


次の例として、音による製造機械の故障検知を行う太平洋工業の例をあげた。膨大な正常な音データを学習し、異音が混じっていた場合、異常を見なして通知する異常予兆の検知だ。
実は製造業においては異音の検知は機械学習の初期から研究が行われてきたが、ディープラーニングの登場によって精度が大きく向上したことで実用化が急速に進んでいる。


ディープラーニングでは学習のため、膨大なデータが必要だが、異音が発生しているデータは企業はそれほど多く持っていないのが実状だ。その場合は前述のように正常な音から学習する手法が一般に用いられる。


製造業にディープラーニングを導入する際の課題

伊藤氏は製造業にディープラーニングを導入する際の課題として、まず「案件ごとに個別にAIのモデルを開発しなければならない」点をあげた。機械学習で開発したAIモデルを別の企業に流用できないどころか、同じ企業でも別のプラントにすら流用は難しいことが多いという。ノウハウは使い回せるが、AIモデルは使い回せない、ということだ。そして、AIモデルは常に上手くいくとは限らないという不確実性も多分に持っている。これはビジネスのスケーリングに大きく影響するだろう(AIシステムはスケールしづらい)。


ふたつめは「顧客との試行錯誤が必ず必要」ということ。そもそもAIの学習用のビッグデータが入手できないことも多く、学習できたとしても、AIの推論した結果が妥当性があるのかどうかは、現場で活躍する顧客の熟練者の確認がなければ実証できない。


3つめは顧客から「AIモデルが解析・推論した結果に対する説明を求められる」こと。ディープラーニングの場合、推論のプロセスは技術者にとってもブラックボックスになっていることが多く、どのようなプロセスでその推論が導かれたのか相関関係はわかっても因果関係が解らない、わかりにくい、という課題が、一般論としてたびたび問題視される。そのため因果関係を知ることを重視する業務ではディープラーニングの導入には壁があるといわれる。製造業の場合も同様で、因果の説明ができないAIモデルは実践に導入しづらいという。

4つめは「Data Life Cycleへの対応」をあげた。これはリアルタイム性を確保することにも関連する。例えば、センサーが収集したデータをクラウド等で処理するのに時間がかかっていてはリアルタイム性が損なわれる。推論に時間がかかってもしかり。どこでどのようなサイクルをどれだけの俊敏性で回すのかが鍵となる。


最後は「AI / IoT 人材の確保」だ。AIシステムの導入以前と比較して、コンテルティングに求められる幅が広くなるという。その結果、ひとりの担当者ではカバーできない状況になり、様々なスキルと経験を持った複数のメンバーでチーム構成し、業務を分担してあたることで対応している、という。


ディープラーニングの社会実装が進まない理由のまとめとして提示されたスライドはこちら。いずれも理論上の課題として予想されていることが多いものの、NTTコム社の実践事例として語られると改めてそれらの課題を認識して取り組むことの重要性が明確になったと言えるだろう。これからのディープラーニングのビジネス活用に大きな参考になったセッションだった。


ちなみに同社のAI×IoT開発支援ツール「Node-AI」はこれらの課題の解決支援ツールとして提供している、とした。

詳細は下記を参照。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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