AIの社会実装を手がけるABEJAは、AIに関する課題について外部の有識者が倫理、法務的観点から討議する委員会「Ethical Approach to AI(EAA)」を設立し、EAAの第1回目の集会を7月30日の午前中に開催し、午後、報道陣に向けて挨拶を行った。
「EAA」は、社内のコンプライアンスにかかわるテーマの中から、主に「AIの法務・倫理」について議論を行う。客観性、独立性を担保するため全員、外部識者で構成するが、同社の代表取締役社長CEOである岡田陽介氏は、個別案件や同社の考えなどについて説明する立場として、討議には参加する。
AIの倫理上の問題とは例えばどんなことだろうか。また、EAAがプライオリティが高いと感じている課題は例えばどんなことだろうか。
その質問に対して岡田氏は、「GAFAを代表するような巨大企業が海外では個人情報を含めて膨大なデータを収集しているという実状がある。一方で、日本企業が同様のことをしようとした場合、法律上の問題などで制限が起こる可能性もある。そういったことも含めて多方面から討論していきたい。例えば、カメラ映像をビジネスや法律に落とし込む場合の議論として、街頭のセキュリティカメラの映像と顔認識がある。今後、個々人を特定することができるように更に精度の向上が期待されているが、特定されたくない人もいる。特定されないようにするには個人はマスクをしたり、サングラスをするなどが考えられるが、逆にそれ自体が怪しい行動になってしまう。そこで、例えば個人が何かのマークを付けておけば顔認証から逃れられる、といったシステム側でのルールやガイドラインが必要になるかもしれない」と語った。
・江間有沙氏
東京大学未来ビジョン研究センター特任講師/国立研究開発法人理化学研究所革新知能統合研究センター客員研究員。日本ディープラーニング協会理事/公共政策委員会委員長、人工知能学会倫理委員会副委員長。人工知能の倫理やガバナンスが研究テーマ。近著に「AI社会の歩き方-人工知能とどう付き合うか」など。専門は科学技術社会論(STS)。
・三部裕幸氏
渥美坂井法律事務所・外国法共同事業パートナー、弁護士・ニューヨーク州弁護士。M&A・投資・証券発行、個人情報保護、IoT・AI・Fintech などの分野に携わる。総務省「AIネットワーク社会推進会議」AIガバナンス検討会等メンバー、文部科学省「Society5.0実現化研究拠点支援事業推進委員会」委員、内閣府SIP第2期「ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間基盤技術」学習支援技術分科会委員。
・西村カリン氏
フランス出身。テレビ局などの技術者を経て99年から日本在住。フリージャーナリストを経て通信社の東京特派員。2002年、移動通信技術・サービスの現状などをまとめた「La telephonie mobile」出版。2009年、自著「LES JAPONAIS 日本人」で渋沢・クローデル賞。2013年、フランス政府から国家功労勲章シュヴァリエ受賞。近著に 「不便でも気にしないフランス人、便利なのに不安な日本人」など。
・松原仁氏
通商産業省工業技術院電子技術総合研究所(現産業技術総合研究所)を経て、2000年から公立はこだて未来大学教授。同大副理事長。元人工知能学会会長。ABEJA技術顧問。専門は、人工知能、 ゲーム情報学、公共交通、観光情報学。近著に「AIに心は宿るのか」。
・山口周氏
独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。ライプニッツ代表。電通、ボストンコンサルティンググループ等で戦略策定、文化政策、組織開発などに従事。「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」でビジネス書大賞2018準大賞などを受賞。最新著に「ニュータイプの時代」。
第1回は、「ABEJAに関する現状の報告」「AIと倫理を巡る最新動向の共有」「今後の委員会の進め方について」の議論が行われた。。
起業家精神を掲げ、リベラルアーツで問い続ける
社会課題の解決にAIが寄与する一方、差別や偏見から引き起こされる事象も指摘されるようになった。こうした現状を背景に日本をはじめ各国でAIに関する倫理的、法的、社会的な側面からの議論が活発になり、AIの開発、利用に関する指針づくりも相次いでいる。
同社は「ゆたかな世界を、実装する」を企業理念に、AIを始めとする最先端のテクノロジーを活用し、産業構造の変革を追求している。また「テクノプレナーシップ(テクノロジーを使ってビジネスにイノベーションをもたらす起業家精神のこと)」の精神を掲げ、テクノロジーによってイノベーションを実現し、インパクトのある社会貢献をするとともに、リベラルアーツでその行為を問い続け「ゆたかな世界を、実装する」という世界観につなげていく姿勢を大切にしてる。
リベラルアーツは、 ギリシャ・ローマ時代に理念的な源流を持ち、「人が持つ必要がある技芸の基本」と見なされた自由七科の(文法、修辞、弁証、算術、幾何、天文、音楽)こと。専門的な知識だけを知っていても、それ以外が分からないのでは意味がない。本当に必要なのは自由に生きていける様々な知識だ。という考え方。
同社はこの精神を具現化するために、法曹、学術、文化、報道の分野で活躍する外部識者でつくるEAAを設立。同委員会で得た意見や知見を、経営や事業への反映に努めていくとしている。
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