物流スタートアップのGROUND、INCJ他から17.1億円を調達 海外展開を視野に人材を強化
物流スタートアップのGROUND株式会社は2019年8月1日(木)、株式会社INCJ、Sony Innovation Fund(ソニー)、サファイア第一号投資事業有限責任組合、JA三井リース株式会社、IMM Investment Group Japan株式会社などへ第三者割当有償増資を行い、総額17.1億円の資金調達を実施したと発表した。うち、リードインベスターとして10億円を出資する株式会社INCJベンチャー・グロース投資グループマネージングディレクターの鑓水英樹氏がGROUNDの社外取締役に就任したことも合わせて発表され、同日、INCJが主体となって記者会見が開催された。
GROUNDは2015年に設立されたスタートアップ。ロボティクスやAIなど最新技術を活用して物流オペレーション省人化や生産性向上を目指している。現在、物流業界は急拡大中のEC市場によって少量多頻度輸送や季節変化による物流量変動、また少子高齢化を背景とした労働力不足など各種問題が起きている。GROUNDはそこに最新技術を使った物流ソリューションを提供する。従業員数は2019年8月現在で約40名。
GROUNDはこれまでに大和ロジスティクス株式会社、株式会社オカムラ、クオンタムリープ株式会社が出資、株式会社日立物流と協業、中国のロボットメーカーHIT ROBOT GROUP(HRG)とロボットを共同開発、インドの物流ロボットベンチャーGreyOrange社、アメリカSoft Robotics社などと業務提携を行なっている。ハードウェア、ソフトウェア、そしてオペレーションの3つを組み合わせ、同社が掲げる「Intelligent Logistics」を実現するための物流プラットフォームの構築を目指している。
「物流を知り尽くした人材、そして世界のロボット技術、自社開発のソフトウェアの3要素が、一つのベンチャーに集まっていることがGROUDN社の特徴だ」とINCJの鑓水英樹氏は述べ、「ポテンシャルの高い物流ソリューション企業だ」と紹介した。
技術を活用して物流現場を変える
GROUND株式会社 代表取締役 CEOの宮田啓友氏は「新しい流通モデルにおける物流に対する革新的ソリューション提供を目指して立ち上げた」と述べた。宮田氏は、いま、流通小売業界は従来型ビジネスモデルが終焉に近づいており、大きな過渡期を迎えていると考えているという。従来の小売はオンライン業界に負けてしまっており、イーコマースが従来の百貨店やスーパーマーケットを飲み込みつつある。アメリカだけではなく、中国でもECは急拡大中だ。だがECを支える物流現場は疲弊している。桁違いに物流が増大しており、労働集約モデルは終焉に向かっているという。
宮田氏は、GROUNDの掲げる「Intelligent Logistics」とは、労働集約ではなく「最先端技術を用いたソリューション(ハードウェア/ソフトウェアのリソース)を相互に利用し合う基盤」だと紹介した。同社40名強のメンバーのうち1/3は外国人。コアコンピタンスはハードウェア・ロボティクスを扱えるエンジニアリング技術、自社開発のソフトウェア・AI、そして物流オペレーションの経験を持っている人間、この3つが一つに集まっていること。物流最適化の上ではものを運ぶことを確実に実現すること、合理化を進めることができないといけないので、特に現場オペレーションを知っていることが重要となる。
もう一つの同社の強みがグローバルネットワークだ。日本の物流は保守的で、ドメスティックで閉ざされたなかでビジネスを行なっている側面があるが、GROUNDでは海外のパートナーと積極的に提携しながら物流オペレーションを革新することを目指しているという。
まずは物流施設効率化、将来は配送工程全体の最適化を目指す
戦略アプローチとしては物流施設、すなわち倉庫の最適化にフォーカスしている。理由は二つある。一つ目は物流拠点から最終配送目標までのいわゆる「ラストワンマイル」のソリューションは、いま非常に競争的な領域になっている。それに対して、いっぽう物流施設の最適化は競合があまりおらず、勝負がしやすい領域だと考えているという。
二つ目の理由は、最終的にラストワンマイルを効率化していくうえでも、一番大事なのは配送効率をあげる、あるいは配送ルートを決めるためのデータであると考えているからだという。それはまず「物流の上流工程である物流施設のデータを集めることから始めていくことで最終的には配送工程全体を改善することが可能」だと考えており、だから上流からはじめて、結果的に配送領域全体の効率化を実現しようと考えていると宮田氏は戦略を述べた。
■コスト構造を「CAPEX」から「OPEX」へ転換する
GROUNDでは物流施設の現場作業者の代替をロボットで、そして物流センター長の代替をソフトウェアで行い、全体を効率化しようとしている。将来的にはLaaS(Logistics as a Servive)モデルを構築し、事業者から使ったぶんだけ使用料金を取るモデルを想定している。各種リソースをお互いにシェアできる環境の実現が目標だ。それによって各事業者が適切なコストで適した技術を利用し続けられるビジネスモデルを構築しようとしている。
GROUNDはまずは物流ロボットとAIによる物流産業の装置産業化を目指している。いまは次のステージに上がろうとしている段階で、物流業界のコスト構造を「CAPEX(資本的支出、設備投資)からOPEX(事業経費、運営費)へ」と転換することを目指す。物流リソースを互いに利用できる環境を施設とセットでユーザーに提供、あるいはオペレーションとセットして提供していく。そして物流データを収集し、全体を最適化する「Intelligent Logistics」の実現を目指す。
各種リソースを最適配分する物流ソフトウェア「DyAS」
提供するソリューションは物流ソフトウェアの「DyAS」、物流ロボット、そして状況をリアルタイムでモニターできるダッシュボードだ。物流倉庫はあらゆるものを在庫してスピード配送しないといけない。現場は商品が山積みになっている。いっぽう、現場での作業スタッフのアロケーション管理や進捗管理には未だにホワイトボードが使われており、リーダー長が勘と経験でその場その場をしのいでいるのが実情だ。
そこにGROUNDが提供しようとしているのが物流ソフトウェア「DyAS(Dynamic Allocation System)」である。「DyAS」は「DIA(拠点内在庫配置最適化)」、「DRA(人・ロボットのリソース割り当て管理)」、「DLA(複数拠点間の在庫最適化)」の3つの機能から構成されている。ざっくりいうと、現在はセンター長の勘と経験で行われている在庫配置作業などを自動最適化することで、人とロボットが行う作業を効率化し、トータルの走行動線を短縮化することができる。そしてロボットを事業者間でシェアすることで無駄をなくしたり、需給波動をロボットで補うことができる。2018年にはNEDO事業でトラスコ中山で「DIA」の実験を行い、30%以上作業性を向上させることができた。その実験結果を受けて、トラスコ中山では本年度以降、DyASを導入していく計画だ。
倉庫向け自律型協働ロボット(AMR)
GROUNDはロボットメーカーではなく、ロボットの自社開発は行なっていない。いま世界では多数のロボットが登場している。だがそれらの多くは機能が十分ではなく、あるいは必要以上の機能がありコストが高い。それはロボットメーカーのエンジニアたちが現場を知らないからだという。そこでGROUNDはメーカーと開発初期段階からタイアップし、必要な要件だけでなく、日本で導入する上での認証やガイドラインなども提供し、短期間で効率的に高性能なロボットを開発してもらうという戦略を取っている。
そのため2018年に作った物流ロボットソリューション研究開発センターが「playGROUND」である。そして、そこで実証実験を行いながら中国HRGと開発を進めているのが、自律型協働ロボット(AMR、Autonomous Mobile Robot)である。日本の物流現場は通路幅が狭い。そのためロボット自体も小型化している。
このロボットは人間の代わりにロボットが必要な棚の前まで移動していき、スタッフはロボットのモニターを見ながら必要なものをピックアップし、ロボットに入れる。そしてロボットがものを運んでいく。人とロボットが協働で作業を行う。既存の棚を使った倉庫でも使うことができるロボットだ。本誌既報(https://robotstart.info/2019/07/27/ground-diamondhead.html)のとおり、今年秋にはダイアモンドヘッド株式会社へ30台を導入予定だ。
物流ロボットシェアリングの実現を目指す
GROUNDは今後、ロボットを省人化のためだけに提供していくのではなく、シェアリングをしていくモデルの構築を目指す。ロボットを必要なときに必要な施設に移したり、同じ施設内でもエレベーターを使ってニーズのあるフロアに自動で移動するなどの機能を持たせることで、ロボットをシェアすることで互いに無駄をなくし、事業者には使ったぶんだけのコストを負担してもらう。今回のJA三井リースからの出資には、そういった面での期待があるという。
宮田氏は、既存物流のアナログの世界に対し、将来はアプリで複数のサイトをリモートでモニター・指示できる環境づくりを目指していきたいと語った。
GROUNDでは「Out of the BOX(枠にとらわれない)」という言葉をミッションとして掲げている。宮田氏は最後に、違った業界の知見を集めてものづくりを行なっていくために「今回の資金調達で基盤強化を行い、海外も視野に入れた組織づくりを行なっていきたい」と語った。
■技術と業界ノウハウのハイブリッドで物流現場を変えていく
出資者のSony Innovation Fund (ソニー株式会社) Senior Investment Managerの北川純氏は、同社が物流に注目している理由として、1)社会的意義が大きい、すなわち市場規模が大きいこと、2)テクノロジー浸透度合いが低いこと、そして3)市場が大きく動いていることの3つを挙げた。伝統的産業にデジタル化を浸透させていくためには「技術と業界ノウハウのハイブリッドがないと浸透しない」ことをこれまでの他業界を見ても痛感しており、技術については「高い低い」の観点だけでなく「使えるかどうか」の見極めが重要だと考えていると語った。そしてそれらをGROUND社は持っており、社名どおり「地に足のついたソリューションが開発できる会社」だと評価していると述べた。また、GROUNDのソリューションは産業用IoTに近いものと見ているという。
サファイア・キャピタル株式会社 代表取締役社長の山田泰生氏は、「サファイア第一号ファンド」の第一号案件としてGROUNDに投資をすることになったことについて、「物流業界に対してビジョンを持って活動をしている会社に投資機会を得て光栄だ。経験豊かな経営陣で社会課題をしっかり解決できる会社であると判断した。グループの力も使ってサポートしていきたい」と語った。
JA三井リース株式会社 ICTソリューション部長の鶴田己起氏は、「AI、ロボティクスには4年前から注目していた。物流ニーズは増えていくが圧倒的な人手不足だ。ロボティクスは非常に伸びると考えている。GROUNDは単にロボットだけでもなく、ソフトウェアだけでもない。各プロフェッショナルが集まっている。我々はリース会社で、BtoBでいろんな企業の動産のファイナンスをしているのでサポートしていきたい」と述べた。
そしてクオンタムリープ株式会社の出井伸之氏も「GROUNDを初期から応援してきた」とあいさつした。
今後は物流現場に求められるスキルが変わる
GROUNDが展開するソリューションで一番変化するところはどこだと考えるかという質問に対し、宮田氏は、「3PL(3rd Party Logistics、物流受託業者)業界が一番変わるのではないか」と答えた。現在、人手不足だが3PL業界は伸びている。その背景には、人手不足によって荷主が自分たちでオペレーションするのは難しいので外部委託したいという流れが拡大しているということがある。その3PL業界の人たちが、新たなソリューションを使うことが必要になると見ているという。
また、そのうえで、新たなスキルセットが物流現場の人たちにも求められるようになるのではないかと語った。「今まではスタッフを取り回していけばよかった。だがこれからはロボットを使いながらソフトウェアで最適化していくことになる。これはFAに近い。スキルセットが変わってくる。実際の物流現場でこのようなオペレーションができる人材を育てなければならない。我々のようなソリューションプロバイダーが出てくる中で、3PLのあり方も変わってくるだろう」と語った。
また、宮田氏は「いわゆる物流ロボットのライフサイクルはそんなに長くないと見ている」と述べた。技術の進展が非常に速いため、3年から5年がライフサイクルで新世代のロボットが普及していくと見ているという。GROUNDが自分たち自身でロボットメーカーとならないのはそれが理由で、常に新しいロボットを使える環境を作り、かつ、そのロボットを複数の事業者の間で使ってもらうようなかたちを想定しているという。
海外展開については東アジアのほか、日本と状況が似ているヨーロッパを考えているという。今回の資金についてはデータサイエンティストやエンジニアなどの人材強化のほか、新たなシャアリングモデルの研究開発も進めていきたいと語った。
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!