相鉄グループがAI清掃ロボットWhiz(ウィズ)を導入!本社ビルのオフィスやビジネスホテルでの活用を公開、狭い通路にも対応

「今は仕事している社員がオフィスにいますので、AI清掃ロボットの緊急停止が何回か起こるかもしれませんが構いませんか?」

そう言って、相鉄企業の兜森氏はソフトバンクロボティクスのAI清掃ロボットWhiz(ウィズ)を起動し、ホームロケーションコードを読ませて自律清掃をはじめた。

ソフトバンクロボティクスのAI清掃ロボットWhiz。外形寸法は約455×474×653mm、重量は約35kg(バッテリー含む)。

たしかに昼下がりのオフィス内は、ところどころで社員が仕事中。人の出入りや行き交いも頻繁に行われていた。


通路にはイスも飛び出ていて、段ボールや紙袋も置かれていたが、Whizはそれらのそばを摺り抜けるように自律走行し続け、清掃作業を行った。



本来の清掃ルートに障害物をみつけると、Whizは少し考えた後、ゆっくりと避けて通って清掃を続けた。取材中、オフィス内での緊急停止や動けなくなってしまうことは一度もなく、正直これには驚かされた。


カーペット地のオフィスの清掃を続けながら、Whizはタイル張りの廊下へと向かった。


廊下に出る際、カーペットフロアからハードフロアへの切り替え部分もなんなく走行し、廊下の壁ギリギリに沿って清掃する。


法人向け自律清掃型のロボットで、これほど壁に寄って清掃作業している光景は今まで見たことがない。


■ 動画 ソフトバンクロボティクスのAI清掃ロボットWhiz


相鉄グループがWhizを導入

神奈川県の大手私鉄、相模鉄道を中核に持ち、約30の企業で構成される相鉄グループは、2019年5月、ソフトバンクロボティクスのAI清掃ロボットWhizを2台導入。1台はビルメンテナンス業などを行う相鉄企業株式会社で、「相鉄本社ビル」での運用をはじめた。もう1台は宿泊特化型ホテルの運営とフランチャイズ業を手がける株式会社相鉄ホテルマネジメント。196の客室を運営するビジネスホテル「相鉄フレッサイン 日本橋茅場町」に導入した。

横浜駅近くにある相鉄本社ビルにWhizを導入

日本橋茅場町のビジネスホテル「相鉄フレッサイン」にも導入

まずは、相鉄企業の兜森氏に「相鉄本社ビル」での運用について聞いた。


オフィスの狭い通路も自律清掃しながら進む

相鉄企業は神奈川県を中心にビルメンテナンス業を展開する。具体的には清掃・警備・設備管理などを行い、従業員は約2,000人。うち清掃分野が約640人と多くの人員があてられているが、更にその他の清掃業者へ委託して業務がすすめられている。

編集部

AI清掃ロボットWhizを導入した理由をおしえてください

兜森氏

清掃業界全体に言えることですが、当社も清掃員の高齢化と人手不足が大きな課題となっています。清掃員の募集は行っているものの、充分な人員の確保が難しく、高齢による退職者もあって深刻度を増しています。
当社や相鉄グループ内でロボットやICTを検討する部署があり、清掃業務の人手不足を解消するひとつの対策として、AI清掃ロボットを試験的に導入してみようということになりました。横浜の相鉄ジョイナスや二俣川のコプレなどの大型施設には、清掃ロボットも大型のスクラバー式(水洗浄式)の清掃ロボットを導入していることから、本社ビルでは事務所内で清掃員がバキューム清掃している部分を小回りが効く小型のWhizの運用を試してみようということになりました。5月に導入を発表し、6月から相鉄本社ビルでの運用をはじめました。

相鉄企業株式会社 横浜営業部 営業四課 横浜駅西部第1事業所長 兜森正彦氏

編集部

どのような時間帯と場所で使っていますか

兜森氏

現在は導入して間もないということもあり、本社ビルの自社オフィス内と共用通路(廊下)の2箇所をWhizで清掃しています。清掃業務は主に多くの社員が退社する18時以降からはじめ、20時くらいまでに完了するようにしています。そのうちWhizが稼働している時間は3時間以内です。
退社時間後とはいえ、オフィスの場合は残業で残っている社員もいます。また、オフィス内の通路には段ボール箱やカバンなどが置かれている場合があるので、Whizの清掃を始める前に清掃員がそれらを机の下にしまって通路をなるべく空けるなど、簡単な準備作業を行ってから始動しています。それでも走行し始めればバキューム清掃を自動で行なってくれるので効率化が図れていると感じています。

イスのすぐ近くをかすめるように進むWhiz



狭い通路でも障害物を避けて清掃を最後まで継続することは、業務の自動化にとても重要なポイントだ。それを証明した例が本社オフィス内で清掃する冒頭の動画だろう。

編集部

今日はオフィスに人がたくさんいるのに自律清掃を緊急停止することなく完了しましたね

兜森氏

はい、成功してよかったですね。もちろん、オフィスの狭い通路ではWhizが通行するスペースがない場合もあって、たまに停止することはあります。そのような時は近くで別の作業をしている清掃員の「お知らせブザー」に通知が来るので、イスや障害物を動かせば、自律清掃を再開してくれます。


常に最新の機能にアップデート

編集部

廊下の清掃についてはどうでしょうか

兜森氏

廊下の場合、障害物がほとんどないので緊急停止もほとんどありません。ただ、当ビルの廊下はタイル地なので照明が床に反射します。導入当初はその反射を障害物と誤検知してしまって停止してしまうことがありました。しかし、最近では反射の誤検知もしなくなって順調に清掃を続けられるようになり、「AIが学習しているのかな」と感じています。



実はWhizのアップデートは頻繁に行われている。アップデートはインターネットによって逐次行われるので、ユーザーが意識しなくても進化した最新の清掃機能や改良点が、ユーザーの機体にも自動的に反映される。照明を誤検知しないようにしたり、壁際ギリギリや狭い通路でも清掃を継続するなどの改良もアップデートによって進化した。
ユーザーが増えれば増えるほど、さまざまな清掃環境を学習し、それに対応していくことで清掃機能がますます進化する。クラウドロボティクスの利点が有効に活用されている例だと言えるだろう。

タイル面の反射を障害物と誤検知したり、壁際ギリギリの清掃に対応するなど、さまざまなアップデートが日々行われ、現場に反映されている

編集部

Whizを導入してみてどのような感想や評価をお持ちですか?

兜森氏

導入して期間もまだ短いですが、評価できると感じています。
その理由はまず、操作が簡単で誰にでもできる、という点です。初期導入時に戸惑うことはなく、マニュアルを読んだだけで、すぐに使いはじめられました。清掃ルートのティーチングも、管理者が押して清掃ルートを登録できるのでルートの追加や修正等に技術者は必要ありません。社内では以前、予め技術者が事務所内の地図をマッピングする方式の清掃ロボットも試したことがあって、清掃ルートの追加や修正に大変な思いをしたので、ルートの登録が簡単な機種を探していました。今はルートの設定は私達がWhizを押して行っていますが、将来的には高齢者の清掃員の方々がティーチングすることも可能だと思っています。
次に自律清掃が始まると、ルート上の人や障害物を避けて、できるだけ清掃を継続する点も高く評価できます。以前に試した機種は人や障害物を検知するとすぐに緊急停止してしまい、以降の清掃が継続できず、結局誰かがつきっきりになるという問題がありましたが、Whizは通れるスペースさえあれば人や障害物を上手に避けて清掃を継続します。その点は効率化に大きく影響すると考えています。

編集部

Whizを導入してみて使い方のコツなどは感じましたか

兜森氏

清掃ロボットを導入すればなんでもやってくれるということではなく、ロボットが清掃できるところと清掃員でなければできないところの役割分担が必要です。例えば、Whizの場合は床清掃が専門ですが、椅子や机の下、狭いスペースは清掃員が行って、通路や広いスペースはWhizで自動化する、という分担です。清掃員が手作業でバキューム清掃を行うのはコンセントを差し替えなどもあって意外と手間がかかるので、一部を自動化する場合でも効率化が図れます。また、清掃員による机の下の清掃は週に何回か行っていますが、通路をロボットが頻繁に清掃することで、清掃員による机の下の清掃の回数は今までより減らし、他の清掃作業に時間をあてられる可能性も検討できるのではないかと感じています。
今後は会議室もWhizの清掃範囲に加えたいと思っています。会議室は障害物が少ないのでロボットが清掃しやすいように思います。また、他の階にも拡げていきたいと考えています。




ビジネスホテルの廊下をWhizが自律清掃

相鉄グループは、労働人口の減少に対応するべく、AIやロボットを含むICTを活用した運営の効率化・省力化を進めている。その一環として、ビジネスホテルでのAI清掃ロボットの活用が検討された。
相鉄グループで、宿泊特化型ホテルの運営とフランチャイズ業を手がけるのが相鉄ホテルマネジメントだ。ホテル数は直営が45、フランチャイズを合わせると79を運営している(2019年7月1日現在)。ホテルのブランドとしては、ザ・スプラジール、相鉄フレッサイン、ホテルサンルート、THE POCKET HOTEL BY SOTETSUを持つ。


Whizは、その中の「相鉄フレッサイン 日本橋茅場町」に導入され、客室各フロアの廊下のバキューム清掃を担当している。「相鉄フレッサイン 日本橋茅場町」の塚本支配人に話を聞いた。

株式会社相鉄ホテルマネジメント 相鉄フレッサイン 日本橋茅場町 支配人 塚本竜大氏

編集部

まず「相鉄フレッサイン 日本橋茅場町」についておしえてください

塚本氏

2018年9月にリニューアルオープンし、それを機に部屋にタブレットを設置したり、アプリに対応したスマホキーに対応するなど、ICT化を進めています。
日本橋茅場町は比較的証券会社が多い街として知られていますが、ビジネスマンだけでなく、リニューアル後は特に海外からの旅行者の方が増えています。



清掃のクオリティもホテルの重要な品質のひとつ

編集部

次に、清掃業務についておしえてください

塚本氏

清掃業務は主に清掃会社に委託していますが、清掃チーフやチェッカーを含めて一日あたり10~20名、1名あたり10~13室を担当しています。清掃の時間帯は概ねチェックアウトが完了する10時から、チェックインがはじまる15時までに全ての部屋と共有スペースの清掃を終わらせています。


ビジネスホテルの清掃業務はただゴミを拾えばいいということではなく、清掃のクオリティもホテルの重要な品質のひとつです。課題はやはり人員不足で、ビジネス街ということもあって、応募数自体が少ないのが現状です。クオリティを維持するには清掃員への教育が大切ですが、清掃員の入れ替わりが激しいと教育にも時間がかかります。

編集部

そこでAI清掃ロボットによる自動化を検討したのですね

塚本氏

ロボットが清掃できる範囲は限られていますので、明確な役割分担が重要です。チェックアウト後は部屋が散らかっていたらまずは片付ける必要があり、連泊のお客様は床に荷物が置かれているケースが多いので、クオリティ面を考慮すると人手で丁寧に行うことが第一で、客室内をロボットで清掃することは当分、予定していません。
一方で、廊下などの共用スペース部分については広くて人手では手間と時間がかかり、散らかっていることはないのでロボットによる自動化には最適だと考えました。



塚本氏はWhizを導入して検証する際、次の5項目について重視したという。

1.どのような場所の清掃業務がロボットに向いているか
2.清掃のクオリティはどうか
3.Whizによってどの程度の省人化、省力化が図れるか
4.茅場町店でWhizが清掃をこなす規模感
5.茅場町店だけでなく他の店舗でも実用的か

2階~12階までの客室全11フロアの廊下を自動化することで、従来そこを担当していた清掃員を客室等に多く割り当てられるようになった。



■ビジネスホテル「相鉄フレッサイン」でWhizが清掃する様子



バキュームのクオリティは人間以上

編集部

清掃のクオリティはどうですか

塚本氏

Whizに内蔵している「紙パック」を毎日交換する必要があるほどゴミを吸ってくれていて、これには正直驚いています。これは清掃員がバキューム作業をしていた時より清掃能力は高いと感じています。清掃員は全体をバキュームしているつもりでも、目に見えるゴミは吸おうとする反面、ゴミがないと感じるところはバキュームをかけない傾向にあるのかもしれません。Whizは予め決められた清掃ルートを必ずこなしています。

編集部

Whizをひと月程度使用してみて、全体的な評価としてはいかがでしょうか

塚本氏

Whizはシンプルな操作で誰にでも簡単にできると感じています。ホームロケーションコード1つにつき6つのコースまで記憶させることができます。ティーチングは清掃コースを押して学習させるだけ。清掃スタッフは高齢の人も多く、機械には苦手意識が強い人がほとんどですが、それにも関わらずWhizには清掃ルートのティーチングを行えています。

ホームロケーションコードのマーカーをスキャンして登録したルートを読み出す

1枚のホームロケーションコードに最大6ルートまで登録できる。最大100枚のコードに対応するので、合計600ルートを登録できる。清掃時はその中からルートを選択してスタート

また、同じ廊下でも複数のコースを登録し、毎日違うコースを選択することで清掃漏れをなくしたり、清掃効果に違いが出てくることがわかりました。清掃員の方達が工夫しながらティーチングしてくれています。

清掃したいルートを手押しでティーチングするだけ。2回目以降はスタートボタンを押すだけで記憶したルートを自律清掃。(取材のデモンストーレション用に管理部門の人がティーチングを実演しているところ)

もしも自律清掃している最中に緊急停止などが発生した場合は、「お知らせブザー」に通知が届きますので、清掃チーフや清掃員がすぐに駆けつけます。また、通知はiPadやパソコンにも届き、稼働状況のレポートも本部で確認することができます。この機能も便利です。

編集部

ほかに導入して良かった点、気づいた点などはありますか

塚本氏

意外な効果としては、お客様にも喜ばれていることです。Whizが廊下を清掃しているところに出くわしたお客様は、スマホでWhizの仕事ぶりを動画で撮影したり、一緒に写真を撮ったりしてとても楽しそうにしています。見た目が可愛いと感じるのか、エンタテインメント性を感じて頂けてよかったと思っています。

特に海外からの旅行客に「かわいい」と感じられているとのこと

11フロアありますので、Whizが自分でエレベータに乗って11フロアを自動で清掃してくれるともっと効率的だと感じます。でも、そこまでまだどの機種も対応していないので、今後に期待ですね。

編集部

今後はWhizをどのように活用していきたいですか

塚本氏

昼間は廊下を、1階のロビーやラウンジなどはお客様がいない夜間にと、今後は廊下以外の共有部へもWhizの清掃範囲を拡大していきたいと思っています。
ホテル業界にとって清掃業務の人手不足や高齢化は既に直面している課題で、これからもどんどん深刻になっていくでしょう。解決策のひとつが自動化であることは明らかですが、自動化によってお客様へのサービスが低下するのではないか? という懸念がつきまといます。私達の立場では、自動化を進めながら、更にお客様へのサービスのクオリティを向上させることを意識していく必要があります。
客室内の清掃など、お客様が直接触れる場所はできるだけ人手を使って丁寧に行い、廊下などの共有部分はロボットなどの自動化によって効率化をはかり、深刻化する労働力不足に対応していくことが、人とロボットの協働、共存に繋がると考えています。





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ロボスタ編集部

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