キヤノンがカメラのビジョン技術を活かして「ロボットの眼」に本格参入!ユニバーサルロボット社との連携を発表!

キヤノンは生産現場の自動化を支援する画像処理ソフトウェア「Vision Edition-U」を2019年10月上旬より発売する。自社の工場をはじめとして、今までロボットの自動化に伴って導入し、培ってきたカメラによるビジョン技術をパッケージ化したものが「Vision Edition」だ。このソフトウェア群をユニバーサルロボット(UR)社のプラットフォーム「UNIVERSAL ROBOTS+」(UR+)の認定を取得し、UR社のロボット専用に販売するのが「Vision Edition-U」となる。 国内でUR社の認定を受けた企業は初めて。

右がユニバーサルロボティクス社の協働ロボット。左上、ぶら下がるように設置されているのがキヤノンのカメラ。カメラ本体は固定だが、レンズ部は左右上下に向きを変えられる。ズーム機能も備えていて、バーコードなどをみつけると自動でズームして読み取るインテリジェント性がある。腕と手がロボット、カメラが「眼」の役割を担って連携する

また、これを機会にキヤノンはユニバーサルロボット社との協業を発表。今後は、ユニバーサルロボット社のロボットにキヤノンのビジョン技術を使ったシステム群を簡単に組み込んで利用できるようになるほか、キヤノンの販売網を使って同システムの拡販も行われる。カメラシステムについては中長期的に、まずは1万台の販売を目指すという。


「Vision Edition-U」はネットワークカメラと連携したソフトウェア群で、具体的な機能としてはバーコードやQRコードの読み取り、アナログメーターやデジタルメーターの読み取り、パトライトの色の判別など、カメラによる識別、判別、追跡などの機能がパッケージとしてキヤノン社のプラットフォーム上で提供される。

1から組むと時間やコストがかかる各種判別機能をパッケージとして提供する「Vision Edition-U」


ユニバーサルロボット社は協働ロボットのリーダー

発表会ではまず、ユニバーサルロボット日本支社代表の山根氏が登壇した。

ユニバーサルロボット日本支社代表 山根剛氏

ユニバーサルロボットはデンマークを本社に置く、従業員は約670名、18ヶ国で事業展開する産業用ロボット企業の大手。2005年に起業し、世界初の協働ロボットとして「UR5」を2008年に発売した。2018年には同社のCTO、エスベン オスターガード氏が「ロボット界のノーベル賞」と呼ばれているエンゲルバーガー賞を受賞した。これは「協働ロボット」という概念に対して評価されたもの。

ユニバーサルロボット社の変遷

協働ロボットとは、一般に柵がなくても人間と同じ現場で共に働く環境に対応するものをさすが、同社ではセットアップを含めて簡単に利用できたり、省スペース性などの特徴も含めている。

ユニバーサルロボット社にとっての協働ロボットの定義

同社は全世界で累計37,000台以上を販売し、同社によれば協働ロボットのシェアとして60%を占めていると言う。

日本では9社の代理店を通してロボットとそのシステムを提供している。ロボスタの読者には馴染みのある「たこ焼きロボット」や「UCCのコーヒーを淹れてくれるロボット」等のベースロボットも同社だ。




「UNIVERSAL ROBOTS+」(UR+)とは

システムインテグレーションする必要があるが、システムインテグレーターが少ない
UR+はロボット自体が使いやすいことはもちろん、システムも含めて簡単に利用するためのオープンなプラットフォーム(エコシステム)。


UR+は、デベロッパーの技術を認証することで、UR社のショールームでプロモーションしていくしくみを作るとともに、URユーザーは認証するソフトウェアを販売、簡単に組み込んで使用できる。既に約400社が対応する製品を開発中で、製品数としては190製品が認定済み、登録されているが、日本の企業としてはキヤノンが初めてとなる。





イメージング技術を自動化ロボットに応用

キヤノンはご存じカメラ、レンズ、イメージングをリードしてきた企業。従来は、デジタルカメラやテレビカメラ用のレンズ、世界最高感度のカラービデオカメラ等の商品化で知られている。そのビジネスの主軸のひとつであるそのイメージング技術を使って、ロボットの「眼」を本格的に参入する。

プレゼンテーションを行うキヤノン株式会社 イメージソリューション事業本部 副事業本部長 枝窪弘雄氏


きっかけは同社の製造工場でイメージングを使った自動化を推進してきたこと。自社のイメージング技術を生産現場に活かすためカメラを使ってさまざまな作業のビジョン技術を研究、実践してきた。その技術をビジネスに活かすのが「Vision Edition」ということになる。


従来のカテゴリーではネットワークカメラだが、AF/AE、ZOOM機能等を活かして、アナログメーターの読み取り、パトライトの色判別、パレット内の部品配置の有無等、鳥の眼のように俯瞰から様々な画像を読み取り、ロボットへと送ることができる。従来はシステム開発に時間とコストがかかっていたこの分野をパッケージで廉価に提供することで、自動化を望む現場への導入を進める考えだ。


キヤノンのホームページからURCapをダウンロードし、ティーチペンダントからインストールを行うことで利用できるようになると言う。

どのような実務に応用できるのだろうか。同社は発表会で3つのデモを用意した。それらの様子は動画でご確認頂きたい。


ひとつはベルトコンベアで流れてくる箱をロボットが吸着してハカリに載せ、デジタルパネルに表示された重量数値をカメラが読み取り、内容物が正しく梱包されているかを検品する作業。

■動画 キヤノンがロボットの眼をデモ ユニバーサルロボットと連携

もうひとつは、自動車用のダッシュボードにロボットがドライバーでネジ留めを行い(と仮定して)、ネジ留めの状況をカメラが確認して正しく作業が行われたかをチェックするシステム。

最後のひとつは、ロボットがドリルで所定の位置に穴開けを行い、カメラがその穴の位置や径をビジョンのみで測定してチェックするシステムだ。

バックヤードの構成としてはロボットの制御はユニバーサルロボティクスや自社のシステムで稼働させ、ビジョン関連をキヤノンのプラットフォーム上でパッケージ化されたソフトウェアを使って運用するイメージだ。実務的には、ビジョンの精度を向上させるために機械学習やディープラーニングなどのAI技術を活用することが主流だが、現時点ではそれらへの対応はしていない。しかし、今後はAI関連技術との連携が可能になるよう、外部のクラウドとの連携などを視野には入れているようだ。

現在のロボティクスにはビジョン(眼)が不可欠になりつつある。こうした背景から、世界的に見ても高いイメージング技術を持つキヤノンが本格参入することは、ロボット業界にとっては朗報だ。


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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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