NTTコムエンジニアリングは社員のAIスキルの向上のため、日本ディープラーニング協会が認定しているG検定の取得を推奨している。そしてディープラーニングやAIの基本を学ぶためにAIレースカー「JetRacer」を使った一日研修を行うことにした。
エンジニアでなくてもAIの実装が体験できる
研修にはプログラム言語にPython(Jupyter Notebook)が使われるが、前もって特別なスキルは必要ないと言う。NTTコムエンジニアリング(NTTコムエンジ)では、2019年12月に1回約30名強の研修を3回実施、取材したこの日はその第2回目で、32名が参加していた。合計で約100名の社員がAIの深層学習と推論のしくみを体験する。
JetRacerとは
「JetRacer」はNVIDIAの小型AIコンピュータボード「Jetson Nano」を搭載したリファレンスモデルで、GitHubで仕様が無料公開され、大学や教育期間、ソフトウェア開発企業等からAI教材として注目され始めている。この研修では「Jetson Nano」、GClue社が販売している「JetRacer」のキット。参加者全員がAIによるサーキットの自律走行を学習する。
一日で組立からデータセット作成、深層学習、AI推論まで学ぶ
講師はGClue社の代表取締役社長 佐々木陽氏。「Jetson Nano」提供や講師支援にはマクニカがあたっている。
研修では各自がノートパソコンを用意してのぞんだ。プログラミング関連のものはすべてブラウザー・ベースなので、特別なアプリ等は必要ない。
内容は午前中、AIレースカーの組み立てから始まる。組み立てやすいようにあらかじめある程度組んだものが用意されているものの、ラジコンカーの組み立てを初めて体験する人もほとんど。自身で組みあげたときの満足感は大きい。
午後は学習用データセットの作成と学習フレームワーク(PyTorch)を使った学習方法を学ぶ。ブラウザを使って基本的な設定を行った後、特設のサーキットマットの上でAIレースカーに搭載されたカメラを使い、サーキットのコースを撮影する。撮影した映像に進むべき方向を記したデータセットを作成し、PyTorchにより学習させ推論エンジンを作成する。
データセットを作成して推論エンジンが作成したら、最後はいよいよ「AI推論」による自律走行だ。最終的にはAIレースカーが自律走行でコースを周回することができるようになる。
■動画 コムエンジが社員AI研修にNVIDIA「JetRacer」を導入
社員研修にAIレースカーを導入した理由
活気があふれた研修となっているが、AIレースカーを導入したきっかけや狙いはなにか。NTTコムエンジの佐々木淳氏に聞いた。佐々木淳氏は、東京工業大学でスーパーコンピュータの利用促進を担当し、産業技術総合研究所を経てNTTコムエンジに入社した、いわばGPUのスペシャリストだ。
佐々木氏
従来から機械学習や深層学習の参考書を見ても、AIの歴史から始まり、見慣れない算術記号や難解な数式が続きます。読み進めるのも大変で、書籍だけで機械学習や深層学習とはなにかを理解するのは難しいと感じていました。インタラクションがあり手軽に体感できる教材があれば、ワクワクと知的好奇心を刺激し楽しく学ぶことが出来ると考えていたところ、ロボスタでJetBot研修の記事をみて「これだ!」とひらめきました。それで記事に載っていたGClueさんとマクニカさんに相談したのがきっかけです。
編集部
今日、参加している皆さんは普段から業務でAIに携わっているエンジニアの人たちですか?
佐々木氏
社内にはプログラミング経験者は多数いますが、AIエンジニアはまだ少ないのが現状です。このためAI人材を増やす活動の一環として、まずは楽しくAIを学ぶ場を提供したいという気持ちでした。
当社のネットワークやクラウドに従事しているエンジニアの方々が、深層学習を用いた推論エンジンの作成方法を習得することで、今後NTTコムエンジのAI人材として、AIの社会実装を推し進めていくこと期待しています。
参加者の声
編集部
第一回をやってみて、参加者からはどのような声がありましたか?
佐々木氏
ほかの研修と比較して満足度が高いことと、実際に「楽しかった」という意見があってうれしいですね、朝一番で研修会場に来ると、自分のために用意された新品のラジコンカーが机の上に用意されている、これだけでもわくわくしますよね。また、組立から始まるので女性は苦手かなと思ったら、女性の方がむしろ丁寧にきれいに組み立てていますね。みなさん楽しそうにJetson Nanoやカメラの組立てを行っています。
編集部
深層学習や推論についての意見はありましたか
佐々木氏
研修終盤になると、実際にはきちんとコースに沿って走るAIレースカーとコースアウトしてしまうAIレースカーに分かれます。どのようなデータセットを作成し学習させるかによって左右されますが、それを工夫するのも楽しくて、上手に走らせることができるようになったら、みんな大喜びです。
1月に決勝戦も開催
編集部
今後、どのような展開を考えていますか。
佐々木氏
研修を受けて終わりではなく、実は年明けに決勝戦を行います。規定の周回コースを自律走行で右回り、左回りでタイムアタックを行うレースです。その直前に公式練習を3日設けて、その時にサーキットコースを解放して、みなさんがAIをさらにブラッシュアップしてもらう機会としています。やる気がある人やもっと楽しみたいという人にはさらに上を目指すチャンスですよね。どんなレースになるか、今から楽しみですね。
上位入賞者は、NTTコムエンジの代表として、外部のAIカーのレースに参加することや、また、AIエンジニアを目指すためのハッカソンの開催なども、コミュニティメンバーを中心に検討していく予定です。
ディープラーニングやニューラルネットワークを活用したAIの実装は今後、確実に社会に拡がっていくだろう。AIを経験した学生たちも続々と社会人になって羽ばたくだろう。その時のために今からAIに親しんでおく、AIのしくみを理解したり経験しておくことは社員にとって貴重な経験となるに違いない。
なお、同様のAI研修をやってみたい、興味がある、という企業にはマクニカが問合わせ窓口となる。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。