東大IoTメディアラボが東大構内に「LPWA本郷テストベッド」を構築 IoT事業者が複数のLPWAを測定可能

近年、各種IoTデバイスからデータを収集する最も有効な通信手段の一つとして、低消費電力かつ長距離無線通信が可能な「LPWA」(Low Power Wide Area)の利用が増加している。しかし、LPWAには複数の方式があり、これまで多くのIoT事業者は、複数のLPWAの中からどのLPWAを採用したら良いかを正確に判断したいという要望がある。

国立大学法人 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻 IoTメディアラボラトリー(以下、IoTメディアラボ)は、複数のLPWAの実証実験を行える「LPWA本郷テストベッド」を東京大学の本郷キャンパス工学部2号館内に構築することを発表した。

「LPWA本郷テストベッド」ではIoT事業者に対し実験を通して、東京都文京区本郷という都市部における個々のLPWAの通信性能(多くのセンサを様々に配置した時の到達距離や通信速度、到達率など)の測定を可能にする。なお、LPWA本郷テストベッドを利用した実験・検証に関しては、横須賀リサーチパーク(YRP)研究開発推進協会 WSN協議会の協力のもとで実施するという。


長距離利用が可能なLPWAの都市部で試験が必要なワケ

近年、IoTにかかわらず様々な無線通信が利用されている。例えば、携帯電話で使われている無線通信、Wifi、Bluetooth、様々な周波数で通信が行われているが、センサネットワークなどのIoTに関して言えば、その特性からLPWA(Low Power Wide Area)が用いられることが多い。


(出所)総務省「平成28年情報通信白書」等からみずほ情報総研作成

これは、高速通信を目的にする5GやLTE、WiFIなどの通信が数十メートル程度の範囲での通信にとどまっているのに対し、LPWAでは伝送速度がひくいものの、数百メートルから数キロ、環境によっては数十キロの距離を隔てた通信を行うことができ、電力消費も乾電池で数年もつようなものも少なくないという特徴をもつため、広域でのセンサネットワークへの利用に適しているためである。

また、もう一つの特徴としてLPWAの各方式で用いられている920MHz帯を中心とした周波数の利用に免許が不要という点がある。これにより、広域でのIoTサービスを始める事業者が開業するにあたっての敷居が著しく低くなるわけだ。


Sigfoxの普及エリア。独自に無線局を開設することができるので、同じ国内でも地域によってばらつきがあることが見て取れる。

しかし、IoTが一般に普及してくるにあたり、そのハードルの低さが新たな問題ともなってきている。都市部における無線通信は、見通し距離でおおまかな予想をすることができる郊外での利用に比べ、林立する建物や、他電波やノイズとの干渉、混信など様々な要因により、難易度が高くなる。それに加え、今後ますます用途がましていくIoT、センサネットワークの需要増加により、LPWAの基地局が次々に解説されることにより、LPWA同士の干渉などが発生し、都心部での利用はより難しくなっていくことが予想される。


見通し距離が長い田園地帯や海を使った実験などは非常にやりやすそうな横須賀拠点(横須賀ハイブリッドLPWAテストベッドHPより)

従来、YRP研究開発推進協会 WSN協議会はLPWAを利用したサービスを始めるにあたっての各種LPWA規格の選択に「横須賀ハイブリッドLPWAテストベッド」での実験で比較評価をしていた。しかし、郊外都市故に都心部のような環境の再現はむずかしく、上記のような都市部ならではの問題に対応するため、LPWA本郷テストベッドの構築することで、都市部に最適なLPWAの評価が可能になったというわけだ。


LoRaWANやSigfox以外の様々なLPWAを比較評価できる

このテストベッドで実験、検証の対象となるLPWA規格は、現在6つ発表されている。

SORACOMで提供されており、LPWAの代表選手格であるLoRaWAN(ローラワン)、Sigfox(シグフォックス)、に加え、SONYが主導し時速100km以上の高速移動体でも使用可能なELTRES(エルトレス)、遠距離通信がしやすく、乾電池駆動可能なリピーターで簡単にメッシュネットワークが構築できるZETA(ゼタ)、Wifiアライアンスによる規格化が進められているIEEE 802.11ah(Wi-Fi Halow)、スマートメータ(次世代電力量計)と家庭内HEMSの間をつなぐ通信方式として採用されているWi-SUN(ワイサン)など、それぞれの特色も様々だ。


提供するサービスのイメージが近いことが予想される横須賀ハイブリッドLPWAテストベッドHPより

現状メジャーなのはLoRaWAN、Sigfoxなどだが、その他のLPWAもそれぞれ特徴があるため、使用してみたいという要望に応える事ができる施設は珍しいだろう。また、それに加えてメジャーな規格を使用していたとしても、他機器の影響などを検証できるのはありがたい。海外の製品では電波を発する前に、他機器がその周波数帯を使用していないことを確認するキャリアセンス機能を搭載していないこともあるため、干渉してしまう可能性などについても検証ができる。

LPWA本郷テストベッドでは、LPWAによるセンサの大量・同時使用による干渉・混信問題の検証に当たっては、TELEC T-245(技術基準適合証明、いわゆる「技適」に準じた920MHz帯の試験条件及び項目)に規定された各種測定を実施できる設備を用意し、実験参加者が利用できるように整備している。


テストベッドで使用できる機器の一例

それに加え、測定機器の一つとして、大型の電波暗箱が用意されており、周辺の電波の影響がない状態で各種測定を行うこともできる。技適は昨年末から実験目的であればかなり緩い運用が可能になってはいるが、こういった設備を運用しなれたスタッフが居る施設での実験であればコンプライアンス上問題になるような自体も起こりづらいだろう。


具体的な実験内容

実際にどのような試験を行うことができるのかや価格などについては、まだ明文化されていないため、具体的なサービスをイメージをするのはまだ難しい。しかし、発表資料での記述と、そこから類推される内容や、効果などについて筆者が独断で解釈し、説明を入れてみた。


1.市街地・ビル密集地での通信実験


横須賀市街地と本郷周辺の大小のビルの密集する地域でのLPWA通信実験を行います。LPWA各方式での通信デバイスを複数か所に配置し、周辺の電波状況を可搬型のスペクトラム・アナライザで測定するとともに、送受信の可否、電波強度などを測定します。これにより、都市部でのLPWA各方式の通信状況を把握することが可能になります。

横須賀テストベッドと、横須賀市役所に設置されたアンテナ。周辺の風景から「都心部での実験」の必要性が見て取れる

この実験は最も本郷テストベッドのメリットを感じられる実験、フィールドテストになるだろう。都市部独特の地形や建造物に加え、実際に敷設されているセンサネットワークの影響、今後はLPWAを搭載した自動運転車などの影響などを測定、検証することができる。都市部独特のLPWAの使いこなし方が今後研究されていくことが期待できそうだ。


2.キャリアセンス実験


現在の日本の電波法では、LPWA各方式が使用する920MHz帯を利用する場合に、電波を発信する前に、その周波数が利用されているかを確認(キャリアセンス)することが定められております。しかし、諸外国ではこのような規定はなく、海外の安価なデバイスが我が国で利用されることを阻む障壁となっている場合があります。今回の通信実験では、このキャリアセンスの有効性についても確認を行います。


キャリアセンスがどの程度有効かについては議論があるだろうが、国内で認証を取るためには必要な機能だ。しかし、「たまたま同時に電波を放射してしまう」可能性もゼロではないし、各規格ごとにキャリアセンスするチャンネル幅が異なったり、アンテナの品質問題などで、発信時に干渉してしまう可能性もある。また、違法に設置された海外の機器の存在もあるかもしれない。そういった可能性から、同周波数帯での発信が起こってしまった際の挙動を確認するためにも、各規格の電波を同時に発信し、確認できる設備、施設の必要性があるのだろう。


3.干渉・混信実験


LPWA各方式のデバイスが同一空間に多数存在する時に、同時に電波を発信しようとして起こる干渉・混信問題などを検証します。

おそらくこの試験が電波暗箱内で行われるものだと思われる。各規格の機器で同時に電波を発信した際の影響を確認するとなると、各機器に同時発信をさせるための機材なども必要だと思われる。また、そういった設備を運用するためのスタッフがおり、相談することができるということも非常に心強いだろう。


LPWA本郷テストベッドにかかる大きな期待

LPWAというと、通信距離の長さから、どうしても郊外での利用のイメージが先行してしまっているが、スマートガスメーター、電気メータのような利用を考えると、都市ならではの利用も今後増えていくはずだ。そういったことを考えると、免許不要であることを活かし、設置地域の要求即して使用する規格を変更するぐらいに軽やかな運用ができることもLPWAの利点だろう。

それだけに、このように様々な機器の試験をおこなう事ができる施設と運用をしてくれるスタッフの存在はLPWAの普及を後押ししてくれるに違いない。よりIoTビジネスの本格化が進んでいくことを期待したい。

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梅田 正人
梅田 正人

大手電機メーカーで生産技術系エンジニアとして勤務後、メディアアーティストのもとでアシスタントワークを続け、プロダクトデザイナーとして独立。その後、アビダルマ株式会社にてデザイナー、コミュニティマネージャー、コンサルタントとして勤務。 ソフトバンクロボティクスでのPepper事業立ち上げ時からコミュニティマネジメント業務のサポートに携わる。今後は活動の範囲をIoT分野にも広げていくにあたりロボットスタートの業務にも合流する。

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