日本通運がソフトバンクのローカル5Gを活用した「スマート物流」を公開 LPWA、LiDAR、加速度センター、集荷配車システムをデモ シャープも協力

日本通運はWCP、シャープと共同で「スマート物流」についてマスコミ向けの発表会を行った。次世代通信「5G」(ローカル5G)や長距離省電力通信「LPWA」を用いて、更にレーザーセンサー「LiDAR」や「IoT」センサーを活用し、「江古田流通センター」(東京都練馬区)と奈良ロジスティクスセンター(奈良県大和郡山市)で実証実験を行っているが、その様子やデモを公開した。屋外のユースケースとしての「スマート物流」コンセプトによるもの。

日本通運の実証実験用のトラック。コクピットに5G通信機器やカメラを搭載、貨物室にLiDARや重量センサー、すべての段ボールの積み荷に加速度センサーと5G通信機などが入っている

通信技術のパートナーはソフトバンクグループ傘下の電気通信事業者 Wireless City Planning(WCP)。アプリケーションやシステム開発、新型の保冷剤の提供で、シャープが協力している。総務省から「5Gで多数の端末との同時接続に関する実験」(※)を受託していることに起因し、将来の物流システムの研究に役立てたい考えだ。実証実験は2月下旬まで実施される予定。

AとBがカメラ(ほかに1台の計3台)、Cが処理コンピュータ、Dが5G通信機

トラックの貨物室。積み荷のすべてに加速度センサーや通信機を搭載

積み荷の段ボールの中身。過速度センサーとしてスマートフォンが使われている。まだまだ大きな5Gの通信機と右下の黒い機器はバッテリー

■日本通運とWCP「スマート物流」のコンセプト動画

※5Gで多数の端末との同時接続に関する実験とは「多数の端末からの同時接続要求を処理可能とする第5世代移動通信システムの技術的条件等に関する調査検討の請負」


通信技術はローカル5GとLPWA

通信キャリア3社とも今春から一般に向けて「5G」サービスの開始を予定している。中でもソフトバンクは先陣を切って3月中にサービスインする予定だ。「5G」には主に「高速大容量」「低遅延」「多接続」の特徴があるが、今回の実証実験では主に「高速大容量」と「多接続性」が試されている。
また、今回使用しているのは「ローカル5G」。ローカル5Gとは特定の範囲内に5G圏を設置するサービスで、ソフトバンクは「おでかけ5G」と呼んでいる。特定の範囲内とは企業の敷地内、工場、今回の実験のような流通センター、学校のキャンパス内、イベント会場とその周辺など、広域ではない特定の範囲で5Gを実現するサービスのこと。移動できる可搬型の基地局を用いて構築される。

ローカル5Gの可搬型基地局。

アンテナ部とコア装置に光ケーブルで接続、電源車より電力を供給している。5Gの周波数は4.85GHz帯、帯域幅100MHzを使用している。送信電力は最小値の1ワット。

トラックからのカメラ映像は大容量のため4G通信ではブロックノイズが出て、カクカクと動いていたが(下の動画にはないが実際には比較でもが行われた)、5Gではスムーズな画像が送られている。

■動画 5Gでの画像とLiDARデータ転送のデモ

通信にはもうひとつ「LPWA」が使われている。LPWAは「Low Power、Wide Area」の略称で、通信速度は低速ながら、広域をカバーすることができ、省電力性にも優れた通信規格やそのサービスのこと。いくつかのサービスが既に乱立しているが、今回の実証実験ではLTEの技術の一部を使った「CAT.M1」を採用している。主に積み荷の温度を定時計測するのに使用している。


管理センターにデータを集約

流通センターには管理センターをイメージしたデスクが設置され、センサーやカメラ映像など、様々なデータが集積される。
例えば、トラックの貨物室に設置した「LiDAR」からの膨大な容量の3Dデータ(5G通信)、加速度センターを使った貨物の積み込みを示す振動データ、トラックが走り出せば大容量のカメラ映像(5G通信)が表示される。

貨物室に設置した「LiDAR」(写真中央)

そのほかに貨物の温度情報(LPWA)、集荷するトラックのルート情報(集荷依頼が入った場合、集荷するルートをリアルタイムに変更して効率化するシステム)などが画面に表示されている。シャープが中心となって開発した。

管理センターをイメージしたデスク

LiDARがスキャンした貨物室の様子(緑の点群データ)


効率化に取り組むテーマと具体的な施策

物流業界ではオンデマンド集荷、共同輸送、貨客混載、隊列走行、自動運転、自動化ロボットなどが期待されていて、今回の実験でも取り組むテーマは多岐に渡っている。今回は特に発送元から集荷センターへ、そこからトラックに貨物を乗せるセクターを「ファーストワンマイル」と定義して取り組んだ。

物流業界の作業の流れ。今回はファーストワンマイルに着目した


集荷依頼とトラックをマッチング

集荷においては、集荷先からの依頼があったときに、どのトラックがどのルートで集荷に向かえば効率がよいかをコンピュータが判断するシステムを開発した。GPSを用いて各トラックの現在位置を把握する。また同時に、各トラックの積み荷の状況(積載率、混載の状態)も重要な判断材料となる(トラックの積み荷の情報の見える化)。


各トラックのルート情報を表示。集荷依頼が入ると、集荷に効率のよいトラックのルートが修正され、割り当てられる

■動画


積み荷の情報を見える化

「見える化による物流の効率化」。積み荷の情報と積載状態を把握すること。「LiDAR」を使って貨物室をレーザーでスキャンして、積載率を把握する。同時に重量センサーも用いて、貨物の重量も見える化する。それぞれの貨物には加速度センサーと通信機を設置。貨物の「振動を検知」することで貨物室に積んだかどうかを見える化する(どちらも今まで例のない方法が実験に採用されている)。

管理センターでトラックの貨物室の状況を把握。緑の線画データがLiDARでスキャンした貨物室の状況。重量センサーも使用。積み荷の偏向についても管理できる

■動画


一般の貨物と要冷凍/冷蔵貨物の混載

要冷凍や要冷蔵の貨物を一般の貨物と混載して輸送すれば効率化は飛躍的に向上する。シャープが新開発した冷蔵剤を用いて、すべての貨物に温度センサーを同梱し、貨物温度の変化を計測。

温度センサーの情報を管理センターで監視。常温品と冷凍品を混載しても、問題がないことを確認した


積み残しなし、荷物の積み込みを加速度センターで自動判定

台車で運んでいるときの振動と、貨物室に荷物を積み込む際の振動の違いをシステムが学習し、貨物室に積まれたことを自動判定することで、積み込みのチェックリスト作業等を効率化。



ファーストワンマイルの効率化

発表会には日本通運の広報部の神氏が登壇し、流通業界が抱える現状の課題を解説した。

日本通運株式会社 広報部 専任部長の神 浩幸氏

最も大きな課題はやはり「労働力人口の減少が深刻化」していること。トラックドライバーの求人倍率は全産業の平均と比べて約2倍となっていて、この先はドライバーが約28万人も足りなくなるという試算をあげた。


次の課題は、トラックの積載率が低下していること(積載率はわずか41%)。共同配送に取り組み、AIやIoT、マテハンの活用により、積載率を上げて効率化と省力化を目指す、ドラスティックな改革が求められる。また同時に、安全性の向上にも目を向けて、新たな事業の可能性を切り拓く取り組みが重要とした。


ファーストワンマイルの実証実験のテーマと課題まとめ

実証実験で取り組む課題は「低積菜率」「配送従業員の負荷」「配送の効率化」があげられる。低積菜率については「積載状態」を管理センターで見える化、常温品と冷凍品の混載で積載率を上げることを試した。また、荷物の積み込みの自動判定化と、トラックの位置情報を使った集荷のマッチングの自動化の有効性を実証実験で確認した。



5GとMEC、エッジコンピューティング

技術面とシステム構築面では、WCPの先端技術研究部の田島氏が登壇した。

Wireless City Planning株式会社 先端技術研究部 5G試作課 課長の田島裕輔氏

5Gの大容量と多数同時接続については、LiDARからの大容量データの通信と解析を通じて実験を行った。また、加速度センサーを使った積み荷情報把握の通信にも5Gを活用した。貨物の混載による温度変化の確認は4GのLPWA通信で行われた。また、トラックの位置情報はGPSと4Gを使った。


なお、今回の実験ではエッジコンピューティングの技術の有効性も確認した。クラウドや管理センターにデータを集積する場合は主にインターネット網が使われるが、速度やレスポンス性に課題を抱えることになる。そこで、5Gでは「Core UPF」と呼ばれるMEC、エッジコンピューティング技術を使って、インターネット網の手前、基地局やその近くにおいて、高速でレスポンスのよい処理を行う技術が注目を集めている。


今回の実証実験は総務省の「5G総合実証実験」のひとつとして実施された。地域課題の解決を目指す利活用モデルに注力するもの。さまざまな通信事業者が委託を受けている。



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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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