「ペッパー生産停止」報道から生まれた多くの誤解 会話ロボット「Pepper」日本の販売・開発事情の現状とまとめ

「Pepperの生産停止」「世界的にPepper部門の人員削減」などの見出しで多くのメディアが一斉に取り上げ、それを受けてネット上では「Pepper生産終了」「さようならPepper」「今までありがとうPepper」「Pepperの役目は終わった」「Pepperはただのタプレットだった」といったようなコメントが溢れかえっている。これには誤った解釈が含まれている。

「Pepperの生産停止」のメディア記事を読んだ読者が「Pepperのビジネスが終了した」と誤解してSNSやコメントで発言することによって更に誤解は大きく膨らみ、冒頭のコメントに繋がっていると思われる。しかし、サブスクのロボットビジネスにおいては、Pepperとのお別れはPepperクラウドサービスが終了したり、もしくはアップデートやサポートが終了するときに訪れるものであって、Pepperの生産終了がPepperとのお別れを意味するものではないことをまずは説明しておきたい。
では、この一件についてロボスタとして独自取材を含めた見解と状況の検証をしたいと思う(この記事ではソフトバンクロボティクスとソフトバンクロボティクスグループを総じてソフトバンクロボティクスと記す)。

ソフトバンクホークスを応援するPepperたち


Pepperの生産停止=販売終了ではない

前述のとおり「Pepperの生産停止=販売終了」ではない。
多くの電化製品の場合、生産停止はディスコン、在庫限りで販売終了という道筋をたどる。しかし、Pepperのビジネスは本体の販売がビジネスのコアではなく、レンタルで提供して月額のサブスクで収入を得るビジネスモデルだ。
Pepper発売の当初は話題に乗ってそれなりに多くの受注が発生し、現場ではうまく輝度に乗せられないケースもまた多かっただろう。3年間の契約が次々と終了し、契約が継続されなかったPepperは同社に返却される。それはリビルドされて次のビジネス現場へと旅立っていく。
返却される機体の数が新規契約の機体の数より多ければ、在庫は溜まっていくので生産調整を行い、新規の生産を止めるのは当然な流れだ(新モデルなどバージョンの違いはあるにしても)。


現状、Pepperのビジネスが年々細っているのは事実だろうから、それに伴って「生産調整によって2020年夏に生産は一旦停止」(ソフトバンクロボティクス広報)されているのも事実だ。

ソフトバンクロボティクスの広報は「生産は一時停止しているが、販売もクラウドサービス、サポート、アップデートも継続しており、従来からの変更は全くない」とし、「Pepper終了ではない」ことを強調する。


人員の削減は事実

Pepperプロジェクトに関わる人員が世界的に削減されているという報道がある。日・英・米について、人員の削減が行われていることは同社も事実としている。元々Pepperはフランスのアルデバラン社の開発によって誕生したロボットだ。そのため、現在でもパリ(フランス)では330人のスタッフが就業している。「人員削減について着手しているのは事実だが、フランスは就労面で長期間の交渉の末に決まるので、いつ何人削減するかは決まっていない」と同社広報は説明する。
日本の場合も人員の削減が実施されているようだがソフトバンクロボティクス内での部署の異動やソフトバンク株式会社(KK)への異動など、主に「配置転換」というカタチで行われているようだ。

なお「Pepperの生産台数が2万7000台との報道があるが、この数字はソフトバンクロボティクスが公表したものではない」として、従来通り「生産台数は非公表」を貫いている。


日本のPepperの販売・開発事情

日本のPepper事情はどうなっているのだろうか。従来通り販売とサービスを継続しているのは事実だが、全く変更がないわけではない。
Pepperの販売については従来ソフトバンクロボティクスとソフトバンクKKが行っていたが、2021年3月でソフトバンクKKはPepperの販売からは手を引き、ソフトバンクロボティクスに一本化された。

開発面では、Pepperは2019年春に大型アップデートが行われ、従来から採用されてきた独自OSの「NAOqi」に加えて世界的に普及している「Android OS」にも対応。家庭向けの「Pepper for Home」とビジネス用途向けの「Pepper for Biz 3.0」が導入された(Android OS対応の発表は2016年5月。しかし遅れに遅れてリリースにこぎつけた経緯がある)。

Pepperは2019年春に大型アップデートが行われAndroid対応になった。「Pepper for Biz 3.0」が導入され、応答速度の改善などが行われた

家庭向けのPepperは普及しなかったが、ビジネス向けでは開発者のコミュニティ「Pepperパートナープログラム」を開設し、開発環境「Pepper for Biz3.0」で開発された各種ソリューションを提供してきた。しかし、「Pepperパートナープログラム」は2021年3月でプログラムを終了し、「ロボアプリマーケット for Biz」のサービスページも閉鎖、新規のロボアプリ登録も終了した(従来からユーザーはロボアプリを継続して利用できる)。

開発者にとっては、Pepperの開発環境に支障が出ているのだろうか。Pepper開発に詳しいForex Roboticsの髙橋一行氏はこう語る。
「日本からの開発者向け情報の提供は少なくなったかもしれないが、最近では欧州のPepper部門からAndroidベースのPepper開発情報がGitHub等を含めて直接提供され、開発者向けのソフトウェアやAPIのアップデートは続けられている。「お仕事かんたん生成」は従来通り動いていて、遠隔操作で会話するツールが提供されたりなど、サービスは継続して提供されている。その意味では開発者向けに情報が途絶えたり、アップデートが中止される印象はない」

Pepperの販売が同社の思惑通り展開できなかったことは事実だろう。一般消費者向けのPepperを導入したという話はほとんど聞こえてこないし、ビジネス活用も当初期待されたようには拡大していない。現時点では、同社のビジネスとしては殺菌掃除ロボット「Whiz」シリーズや配膳ロボット「Servi」の方が有望株であり、人材や投資をそちらに傾けたいのは間違いないだろう。
しかし、ここまで解説したように「Pepperの生産停止=Pepper終了」ではないし、Pepperのビジネス自体をソフトバンクロボティクスがあきらめたと受け止めるのは早計だろう。


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神崎 洋治
神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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