ソフトバンクが「究極の二次電池」リチウム空気電池で世界最高レベルのエネルギー密度を実証!500Wh/kg級を開発

国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)は、ソフトバンク株式会社と共同で、現行のリチウムイオン電池の重量エネルギー密度(Wh/kg)を大きく上回る500Wh/kg級リチウム空気電池を開発し、室温での充放電反応を実現。さらに、世界中で報告されているリチウム空気電池の性能の網羅的な調査により、NIMSが開発したリチウム空気電池は、エネルギー密度ならびにサイクル数の観点で世界最高レベルであることを示した。





研究の背景

リチウム空気電池は、理論重量エネルギー密度が現行のリチウムイオン電池の数倍に達する「究極の二次電池」であり、軽くて容量が大きいことから、軽量性が重視されるドローンやIoT機器、さらには電気自動車や家庭用蓄電システムなど、幅広い分野への応用が期待されている。

しかし、リチウム空気電池は理論的には非常に高いエネルギー密度を示す一方で、従来のリチウム空気電池の特性評価で一般的に使われてきた電池においては、セパレータや電解液といった電池反応に直接関与しない材料が電池重量の多くの割合を占めているため、実際に高いエネルギー密度のリチウム空気電池を作製・評価した例は限られていた。


同研究の概要

NIMSは国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の高容量蓄電池の研究開発加速を目的に発足したプロジェクトである「ALCA次世代蓄電池(ALCA-SPRING)」の支援のもと基礎研究を進めていたが、2018年にソフトバンクと共同で「NIMS-SoftBank先端技術開発センター」を設立し、携帯電話基地局やIoT、HAPS(High Altitude Platform Station)などに向けて実用化を目指した研究を行ってきた。研究チームでは、これまでのALCA-SPRINGでの研究により、リチウム空気電池の持つ高いポテンシャルを最大限に引き出すことができる独自材料を開発。さらに、研究チームは、NIMS-SoftBank先端技術開発センターで開発した高エネルギー密度リチウム空気電池セル作製技術をこれら材料群に適用することで、現行のリチウムイオン電池のエネルギー密度を大きく上回る500Wh/kg級リチウム空気電池の室温での充放電反応を世界で初めて実現した。


▼掲載論文
同研究は、主に、ALCA-SPRINGとNIMS-SoftBank先端技術開発センターの研究開発の一環として、松田 翔一主任研究員、小野 愛生NIMSポスドク研究員、山口 祥司特別専門職、魚崎 浩平フェロー(NIMS-SoftBank先端技術開発センター、センター長)らの研究チームによって行われ、同研究成果はMaterial Horizon誌にオンライン掲載されている。

題目 Criteria for evaluating lithium-air batteries in academia to correctly predict the practical performance in industry
著者 松田 翔一、小野 愛生、山口 祥司、魚崎 浩平 (敬称略)
雑誌 Material Horizon
掲載日時 日本時間2021年12月15日午前2時



研究内容

リチウム空気電池は、正極(酸素極)、セパレータ+電解液、負極(金属リチウム)を積層した構造だ。放電反応では、負極で金属リチウムが電解液に溶出し、正極で酸素と反応して過酸化リチウムが析出しする。この過酸化リチウムの析出量が蓄電容量となるため、正極のカーボン材料は、高空隙率・高比表面積を有する材料が望ましいと考えられており、また、充電反応では放電反応とは逆で、正極の過酸化リチウムが分解し酸素を放出、負極では金属リチウムが析出する。この際に、正極・負極双方において、高い可逆性で反応が進行するような電解液材料が求められるため、研究チームは、これまでの研究により、リチウム空気電池の持つ高いポテンシャルを最大限に引き出すことができる多孔性カーボン電極やレドックスメディエーター含有の電解液などの独自材料を開発してきた。


研究成果

今回、研究チームは、NIMS-SoftBank先端技術開発センターで開発した、電解液注液技術や電極積層技術に代表される高エネルギー密度リチウム空気電池セル作製技術をこれら材料群に適用することで、現行のリチウムイオン電池のエネルギー密度を大きく上回る500Wh/kg級リチウム空気電池の室温での充放電反応を世界で初めて実現。さらに、同チームは、世界中で報告されているリチウム空気電池の性能を網羅的に調査して、定量的かつ客観的に比較した。リチウム空気電池の研究開発を行っている研究グループは、各々独自の評価セル・評価条件を用いて電池性能を評価しているため、それぞれの評価結果を系統的に把握し、比較することは簡単ではない。今回、同チームは、文献に記載されている電極や電解液の種類や重量といった電池情報の細部まで調査し、電池のエネルギー密度を算出することに成功。その結果、NIMSとソフトバンクが開発したリチウム空気電池は、エネルギー密度ならびに、サイクル数の観点で世界最高レベルであることが明らかとなった。

(a)ALCA-SPRINGでの研究により開発したリチウム空気電池用独自材料、(b)NIMS-SoftBank先端技術開発センターで開発したセル作製技術、(c)500Wh/kg級のリチウム空気電池の室温での充放電反応を本研究で初めて実験的に確認。

世界中で報告されているリチウム空気電池性能の調査結果/一般的に、エネルギー密度とサイクル数はトレードオフの関係にあるため、図の右上に点があるほど高性能の電池といえる。




今後の展開

同研究は、現行のリチウムイオン電池のエネルギー密度を大きく上回る500Wh/kg級リチウム電池の室温での充放電反応を初めて実現したものであり、リチウム空気電池の実用化研究開発における大きな一歩となるものだ。今後は、同研究で確立した500Wh/kg級リチウム空気電池に、現在開発中の改良材料群を搭載することでサイクル寿命の大幅増加を図り、NIMS-SoftBank先端技術開発センターでのリチウム空気電池の早期実用化につなげる予定だ。

▼用語解説

リチウム空気電池 空気中の酸素を正極活物質とし、リチウム金属負極と非水系電解液からなる二次電池。理論エネルギー密度が現行のリチウムイオン電池の数倍に達する「究極の二次電池」として知られている。重量エネルギー密度が圧倒的に大きいことから、軽量性が重視されるドローンやIoT機器、さらには電気自動車や家庭用蓄電など、幅広い分野への応用が期待されている。
重量エネルギー密度 単位重量当たりの電池の容量。Wh/kgの単位で表され、この値が大きいほどより多くのエネルギーを電池に蓄えることができる。
HAPS HAPS(High Altitude Platform Station)とは、成層圏に飛行させた航空機などの無人機体を通信基地局のように運用し、広域エリアに通信サービスを提供する次世代通信システムだ。山岳部や離島・発展途上国など通信ネットワークが整っていない場所や地域に、安定したインターネット接続環境を構築することが期待されている。
レドックスメディエーター 電解液中に酸化還元種が存在すると、充電反応を媒介する可能性がある。リチウム空気電池の充電反応は過酸化リチウムの電気化学的な酸化反応だが、レドックスメディエーターの酸化体が存在するとそれが過酸化リチウムを化学的に分解する(レドックスメディエーターは還元される)。このように、自身の酸化還元(レドックス)反応によって他の反応を媒介する化学種をレドックスメディエーターという。

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