レストランやショッピング街に多数の「自律移動ロボット」登場 配膳/警備/サイネージ/清掃/案内の自動化最前線 大名古屋ビルヂング

愛知県は、サービスロボットの社会実装を促進するため「あいちロボットトランスフォーメーション(ARX)」として大名古屋ビルヂングにて実証実験を開催した。期間は2022年1月17日~28日。10社の企業や団体が参加し、13機種のロボットをお披露目した。

大名古屋ビルヂングは名古屋駅前にあるランドマーク。上階はオフィスになっている大型の商業施設

1日最大2万人の通行がある中で、安全に移動するサイネージロボット。自律移動と遠隔操作による移動に対応していて、このモデルは脚部が伸縮して画面の高さを変更することかできる(THK)


「ARX」はロボットベンダーと活用したい施設をマッチング

ARXは、サービスロボットの社会実装を促進するため、愛知県内の様々な施設で実施している、サービスロボットのベンダーとそれを活用したい施設をマッチングするとともに、実用化を目指して現場での機能や課題が確認できる機会となっている。スポーツ施設や病院、農場など、さまざまな場所を提供している。昨年度は「あいちロボットショーケース」と呼んでいた。

今期のARXでは、スタジアムや病院、農場、商業施設と、多彩な場所でロボットの実用化を進めるための実証実験がおこなわれている

大名古屋ビルヂングは名古屋駅前にある商業施設とオフィスを併設した大型のビル。実際に多種多様なサービスロボットが、ビルの通路やオフィスフロアを移動したり、飲食店で働く実証実験が数多くおこなわれた。

人が行き交う通路を安全に自律走行する警備ロボット(セコム)。カメラ映像をAIが解析して、異常を検知したら警備スタッフに通知することができる。奥にサイネージロボットも見える

ここで昨年度も開催されたが、今年は「ショーケース」から「実証実験」を強く意識したものになり、実際にロボットが働くことで社会実装に向けた機会創出に踏み出したと言えるだろう。

多目的トイレを紫外線を照射して殺菌消毒する自律ロボットの実証実験(ナ・デックス)

今回、大名古屋ビルヂングに登場した多彩なロボットたちを見ていこう。


レストラン「世界のビール博物館」で自動運転ロボットが配膳作業

大名古屋ビルヂングの3Fにある世界のビール館では、3台の商品搬送ロボットが配膳業務等の実証実験を実施した。同時期に同じ環境で複数台のロボットの実証をおこなうことで、ロボットの特徴や性能を比較したり、ベンダー同士のコミュニケーションを促進したりと、良い機会になった。また、店舗側へのヒアリングを通して、同時並行でおこなったロボットの実証実験の効果や評価の検証も実施された。

「世界のビール博物館」3Fの飲食店で料理と飲料物の配膳を行う


配膳ロボット「サービスショット2号」AFS

株式会社アルファクス・フード・システム(AFS)の配膳ロボット「サービスショット2号」は配膳による料理の提供のほか、下膳や来店客をテーブルまで案内する機能も持つ。

愛嬌のあるデザインが特徴的だ

今回は、厨房から来店客の座るテーブルまで料理を配膳する実証実験を実施。テーブル到着時に、ロボットが呼びかけを行うことで、注文した料理を受け取りやすいように配慮した。


配膳ロボット「Mira」名古屋大学

名古屋大学の配膳ロボット「Mira」(ミラ)は、大学の学食内でも稼働している配膳ロボット。AIを使うことで、来店客や歩行者の意思を検知し、それに応じて行動する機能も開発中だ。


今回は、比較的小型の機体を活かして厨房付近の狭い通路も移動。厨房から来店客が待つ座席まで料理やドリンクの配膳をおこなった。

小柄なボディで比較的狭い通路も走行できる


配膳ロボット「AITサーブロボット」愛知工業大学

愛知工業大学のAITサーブロボットは自律走行型の配膳ロボット。安全で快適な店舗運営をサポートする。


今回は料理の配膳をメインに実証をおこなったが、配膳のほかに空気清浄機能「UVCエアステリライザー」を搭載し、ウイルスや花粉を除去する機能が特徴(後述)。



自律移動式の空気清浄ロボット「AITステリボット」愛知工業大学

愛知工業大学のロボットに搭載されている空気清浄機能は株式会社 AIKIリオテックが開発した機器「UVCエアステリライザー」を搭載。装置内へ室内の空気を取り込み、装置内で殺菌灯の紫外線UV-Cを取り込んだ空気に照射することで、ウィルスや細菌、花粉、カビ等を不活化、または死滅させる。殺菌した空気を再び屋内へ送り出すことで、空気を清浄するしくみだ。紫外線は装置内で照射するので周囲に人がいても安全に利用できる。


「UVCエアステリライザー」は据え置き型だが、愛知工業大学のロボット研究会ミュージアムが自律移動台車ロボットに搭載、カメラやディスプレイ等を活用して、動く空気清浄自律ロボット「ステリボット」として開発した。カメラを搭載しているので人混みの多いところに自律移動して、集中的に空気清浄することもできる。
今回は「ステリボット」を1階の飲食店フロアで実証実験し、同様の機能を配膳ロボット「AITサーブロボット」(前述)にも搭載して実証実験を実施した。

愛工大の「AITステリボット」。館内の空気をロボット内に取り込み、ロボット内で紫外線で除菌等を行う空気清浄を実施した




人が行き交う通路で自律移動ロボットが安全に走行

大名古屋ビルヂングのB1階にある飲食店フロアでは、1日最大2万人の通行がある。そんな中でも、複数台の自律走行ロボットが稼働し、通行人や障害物にぶつからない機能を発揮し、安全に走行した。12日間の日程の中で、来場者との接触やロボット同士の接触などのトラブルはなく、比較的交通量の多い空間でも高い安全性が確認できた。


自律警備ロボット「cocobo」セコム

セコムの「cocobo」(ココボ)は、巡回警備や点検業務などの警備業務を支援するセキュリティロボット。実証実験の直前、1月17日に正式に発売した。(関連記事「セコムがセキュリティロボット「cocobo」発売 AIや5Gを活用 公共空間と調和して巡回警備や点検業務、煙で不審者を威嚇も」)
巡回ルートを自律走行し、カメラ映像からAIが異常を検知すると防災センターなどの監視卓へ通知することができる。監視卓からはロボットの映像が常時確認でき、遠隔から現場の確認を即座に行ったり、警備員を現場に向かわせることができる。


今回の実証実験では、B1階と1階の2フロアのマッピング作業を通行量が少ない夜間帯に行なった。自律走行については、B1階の巡回警備を行い、通行する人や他の実証実験中のロボットが稼働している中でも自身でルート探索を行いながら安全に稼働できることを実証した。なお、「cocobo」は昨年11月の豊田スタジアムでの実証実験にも参加している(関連記事「キビキビ動く豊田自動織機の自動搬送ロボット「AiR-T」とセコムの警備ロボット「cocobo」【ARX レポート(4)】」)。

「サイネージロボット」THK

THKが開発した自律走行型台車とディスプレイを組み合わせた「サイネージロボット」。最適な場所に移動し、メディアコンテンツの視聴や検温モニターなど、多彩な用途に活用できる。移動は自律と遠隔オペレータによる操作に対応している。


ロボットに装備した大型ディスプレイにサイネージ広告を表示する機能があり、サイネージの前にいる通行者の属性に応じて掲示する広告を切り替えることもできる。


今回の実証実験では、広告サイネージとしての効果を測定するため、約8日間の稼働を行い、実証データを収集した。
なお、遠隔オペレータがロボットを通じて施設案内や質問等に対応する機能もある。昨年11月の豊田スタジアムではその機能も実施したが、今回はオペレータによる施設案内の実証はおこなわなかった。(関連記事「スタジアムの来場者をロボットがお出迎え、ギャラリーを自律移動ロボットが除菌作業・効果を確認 【ARX レポート(2)】」)


「ディスプレイロボット」THK

自律移動できる次世代型ディスプレイショーケース。「見る、動く、展示する」の3つの機能を搭載し、従来は人が近づかなければ充分な訴求効果が得られないとされてきた固定型ディスプレイの課題を解消し、ショーケースの方から人に近づくことで訴求効果を高める効果を検証した。


今回は1階のジェイアール名古屋タカシマヤ ウォッチメゾン周辺で、高級時計ブランドのブティックが並ぶフロアを走行しながらサイネージを表示した。
ロボットには空冷ファンを搭載したLEDディスプレイを内蔵、3Dの立体表現を使った製品イメージの訴求を実施した。このモデルは、ARXには初めて登場。



自動搬送ロボット「AKARI」 エイム・テクノロジーズ

エイム・テクノロジーズの「AKARI」(アカリ)は、大型の荷物も搬送可能な自動配送ロボット。今回は搬送業務ではなく、自律走行しながら飲食店の広告宣伝をして店舗へ誘因を予定していた。結果として、自律走行の検証とユニークな商品販売のデモンストレーションを実施した。


今後は、活用シーンに合わせたカスタマイズをおこない、スポーツ観戦や宴会場などの導入を目指していきたい考えだ。

ユニークな姿が注目を集めた


自動床清掃ロボット「EG-robo」アマノ

アマノの「EG-robo」(イージー ロボ)は自律走行に対応した床面清掃ロボット(湿式)。ロボットの位置や方向を正確に認識して、指定された範囲の清掃を自動化する。前モデルから高速化と小型化を実現し、清掃能力が60%アップを実現している。


清掃ルートのティーチングは、最初の一回を手押しで清掃すればそのコースを自動学習する。今回は、大名古屋ビルヂングの1階フロアを中心に自律走行の実証実験をおこなった。
実証実験の様子を通行人が立ち止まって見たり、清掃担当者が視察に現場を訪れるなど、社会実装に向けて稼働状況を披露する機会となった。

床清掃ロボット「EG-robo」アマノ。障害物を回避しながら連続運転でき、CCDカメラによる画像記録にも対応する。可能清水タンクの容量は65L


除菌脱臭する自律移動ロボット「TAKUMI CLEAN」ナ・デックス

ナ・デックスの「TAKUMI CLEAN」(タクミクリン)は、自律移動しながらオゾンを噴霧し、屋内の除菌・脱臭をおこなうロボット。ARXには昨年11月の豊田スタジアムに続いての参加となる。


今回は大名古屋ビルヂング5階フロアにある就業者用の飲食スペースと「大名古屋ラウンジ」の2ヶ所で除菌・脱臭作業を実施した。

除菌・脱臭作業は夜間に実施したため、この写真は日中に自律移動を行っているイメージ

部屋間の移動もすべて自律走行で移動した。オゾン噴霧は無人状態で作業する必要があるため、除菌・脱臭作業は夜間に実施した。(関連記事「スタジアムの来場者をロボットがお出迎え、ギャラリーを自律移動ロボットが除菌作業・効果を確認 【ARX レポート(2)】


自律配膳ロボット「Bella Bot」ナ・デックス

ナ・デックスの「Bella Bot」は最新のSLAM技術を搭載したネコ型の自律配膳ロボット。今回は、B1階の飲食店フロアで注文を受けた料理やドリンクの配膳と、店舗外のベンチに商品を配送するデモンストレーションをおこなった。


また、商品を載せた状態で自律移動して、宣伝業務も実施した。



紫外線照射ロボット「SR-UVC」 ナ・デックス

ナ・デックスの「SR-UVC」は、非接触で表面殺菌や空気殺菌をおこなう自律移動型の紫外線照射ロボット。9階の「大名古屋ビルヂング医療モール」の店舗にて展示されていた。


医療モールでは殺菌の実証実験には至らなかったが、将来的にはロボット導入に向けた提案を施設管理者に行うなど、ビル及び各テナントに向けてロボットの機能説明を実施した。
その後、1階の多目的トイレにおいて紫外線照射による殺菌の実証実験を実施。作業開始から完了まで3分程度と、迅速な作業が確認できた。

多目的トイレを紫外線を照射して殺菌する「SR-UVC」


コミュニケーションロボット「Kebbi Air」 名古屋国際工科専門職大学

今回の実証実験では自律移動ロボットが多い中、会話ロボットも活躍していた。
「Kebbi Air」(ケビーエア)は、店舗や教育現場など様々なシーンに対応できるデスクトップサイズのコミュニケーションロボット。簡単なプログラミングで表情を変えたり、質問に答えるなどの会話機能が特徴。


今回は、1階入口付近のインフォメーション横に設置し、会話ロボットらしく来場者案内を担当した。事前に、大名古屋ビルヂング内の飲食店情報を入力、来場者が話しかけると回答しながら、飲食店をレコメンドした。




■自律移動ロボットの実証実験の様子(一部)


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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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