川崎重工のロボットカフェでカレーを食べてきた 羽田イノベーションシティ「Future Lab HANEDA」
川崎重工業株式会社は2022年4月20日、天空橋駅直結の複合施設「羽田イノベーションシティ」にロボットのオープンイノベーションを目指す「Future Lab HANEDA」をオープンした(リリースはこちら)。ロボットが調理や配膳を行うレストラン&ショップ「AI_SCAPE(アイ・スケープ)」と、スタートアップや大学・研究機関を対象とした研究開発実証施設「YouComeLab(ユーカムラボ)」が併設された施設で、「AI_SCAPE」は一般でも体験できる。
羽田イノベーションシティでは4月22日から24日まで、ロボットや自動運転、AIやVRなど未来社会の可能性を発信するイベントとして「羽田スマートシティEXPO2022春」が開催された。筆者も運良く「AI_SCAPE」にてスマホを使った注文からロボットによる調理や配膳まで一連の流れを体験できたので、ご紹介しておきたい。
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ロボットが調理・配膳する「AI_SCAPE」
「ロボットと人が共に社会課題を解決する新しいレストランの実証実験。」とされている「AI_SCAPE」の場所は、羽田イノベーションシティ ZoneD 2階。営業時間は 11:00~14:00、17:30~21:00。
コロナ禍ということもあるのか受付はテーブル単位で、数は少なめ。テーブルは4つだけなので注意が必要だ。筆者は取材中に、一般客として予約済みだった知人がたまたま来店し、そこに同席させてもらうことができた。羽田イノベーションシティ自体、日によって滞在者数に大きな幅がある場所なので、営業等詳細については事前に確認したほうが良いかもしれない。
さて、メニューは、マッシュルームペーストと野菜のカレー、カンガルーミートソースと玄米麺、国産食材と米粉の塩こうじパンの3種類だ。つまり、カレー、パスタ、スープの3択である。それぞれサラダとドリンクがつく。食作家・園山真希絵氏が監修したもので、食材にはこだわっているとのこと。価格はいずれも同じで1,500円。支払い方法はクレジットカードやPayPayなどキャッシュレスのみで、現金には対応していない。
注文はスマホから
注文はスマホから専用サイトで行う。食事はロボットが運んでくるが、ドリンクは自分で取りにいく必要がある。
具体的にご紹介する。受付をすませ、テーブルに案内されたら、まず、テーブル上に置かれている席番号の2次元コードを読む。すると専用のウェブサイトへ飛ぶ。会員登録を求められるが、ゲストでも注文可能だ。
自席の番号を選んで、注文画面へ移る。なお、席番号は一席ずつ割り振られているが、複数の席分をまとめて注文することも可能とのこと。
メニューは前述のとおり3種類のみ。セットのソフトドリンクはコーラやお茶など一通り用意されている。残念ながらドリンクのみを注文することは現状はできない。
メニューを選びおわったら、注文・決済を行う。繰り返すが、決済手段はクレジットカードやPayPayなどキャッシュレスのみ。
注文が終わると、ドリンクは10分以内に取ってくれと画面に指示が出るので、飲みものを取りに行く。ドリンクは、透明なケースに収められた川崎重工の双腕協働ロボット「duAro」が作ってくれる(ドリンクサーバーから注いでくれる)仕組みになっている。
ケース右端にあるリーダーに、スマホ画面に表示される2次元コードを読み取らせると、中で「duAro」が動き出す。ロボットは紙コップをとったり、ドリンクサーバーのボタンを押したりしながらドリンクを注いでくれ、下から提供する。最後にこの飲み物を取るときにも再度、2次元コードを読み取らせる必要がある。
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ロボットによる調理と配膳準備
注文と同時に、厨房でもロボットが動き出している。調理は基本的にレトルトパウチの湯煎と電子レンジで行なっている。厨房内で使われているロボットは川崎重工の産業用ロボットアームで、自分でレトルトパウチを取り出し、湯煎機に投入。温まったらパウチをカットして、容器に注ぐ。
冷蔵庫からサラダを取り出してトレイに置く作業もロボットが行う。このあたりは大阪のロボットシステムインテグレーター・株式会社HCIによるものだ。
ドアの取っ手そのほかは、人間とロボット、両方が扱いやすいかたちに再設計されているという。一通り温め終わるタイミングで、厨房の外に並んでいたPudu Robotics社製の配膳ロボット「PuduBot」が動き出し、厨房へ入っていき、アームロボットのそばまで移動していく。
そして、アームロボットが配膳ロボットのトレーの上に料理の入った器をセットする。産業用ロボットアームは位置制御だけで動作している。極めて高精度に動作することができる。
いっぽう、PuduBotは複数のセンサーと天井のマーカーで自己位置を認識する方式だ。こちらの精度は数センチ程度である。そこでPuduBotのトレイを置く部分にはスポンジがセットされていて、停止位置ずれの誤差を吸収する工夫がなされている。
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配膳は川崎重工のサービスロボット「ニョッキー」が行う
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そのまま配膳ロボットが席へ持ってくる…わけではなく、厨房内を出るところで、川崎重工が開発中の双腕自走サービスロボット「Nyokkey(ニョッキー)」がトレイを受け取って、テーブルまで移動してくる。
顔のついたロボット「ニョッキー」はトレイを自分で持って、長い腕とハンドを活かしつつ、テーブルの上に器用に載せてくれる。ここがハイライトだ。
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ニョッキーは片腕で4kgまでのものを持つことができるが、片腕でトレイを持ち上げ、もう片方の手を下に添えてテーブルにトレイを置いてくれる。腕のリーチが長いので、テーブルまでギリギリに近寄る必要もない。ドリンクのコップは、事前に避けておこう。
なおニョッキーは汎用のサービスロボット・プラットフォームで今回のような飲食だけでなく、病院内の搬送のほか、工場で部品を集めて整理して供給する配膳作業でもテストされているのこと。
テーブル上にはプロジェクションマッピング
筆者が頼んだのはカレー。サラダにはドレッシングもついていた。カトラリーは薄い箱に箸とスプーンが入っていた。国産間伐材で作られており、木地に漆を摺り込んで仕上げる「摺り漆」という加工が施されているという。このカトラリーは持ち帰ることができる。
なお、テーブル上にはプロジェクションマッピングで川崎重工の取り組みや料理のコンセプトが紹介されている。食事が済んだ後の下膳は、報道向けデモではロボットがやっていたようだが、今は人が行なっていた。
外部研究機関などとの共同研究を行う場として「YouComeLab」も併設
以上が全体の流れだ。ロボットを使っているといっても、完全無人ではない。レトルトパウチをセットしたり、サラダを補充したり、レンジを拭いたりする作業は人が行なっている。また、最初の案内や下げ膳も人が行なっている。あくまで体験施設である。
「Future Lab HANEDA」はロボットカフェ「AI_SCAPE」だけではない。スタートアップや研究機関を対象とした「YouComeLab」も併設されており、川崎重工の人共存型ヒューマノイド「RHP Friends」も展示されていた。
「RHP Friends」は身長は168cm、体重は54kgと人サイズで、対人サービスを想定したヒューマノイド。全身の自由度は40(ハンド10軸含む)。ディスプレイによる目があることも特徴だ。
川崎重工の合田一喜氏によれば、サービスロボットやヒューマノイドを使って、人とロボットが共生する社会を目指した研究開発も行われる予定だという。主に、川崎重工が共同研究を行なっている東京大学のメンバーなどが、一般の人も交えた実証実験などを行うときに活用することになるようだ。
人の「愛」とロボットの「AI」で社会課題を解決
川崎重工は、2030年にロボット関連事業全体で現在のおよそ4倍となる売上高 4,000億円を目指している。「AI_SCAPE」には、人の「愛」と、ロボットの「AI」が共生することで社会課題を解決する場所という意味が込められている。たしかに、ニョッキーの動作はちょっと愛らしい。愛らしさはそのままで、より実用的な方向に改良を重ねていってもらいたい。
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!