最先端のAI知能化ロボット開発「Jetson」をフル活用するための、シミュレーター「NVIDIA Isaac」、デジタルツイン連携「Omniverse」徹底解説

ロボットやドローン、セキュリティカメラ等、多くのエッジデバイスにAI機能を搭載することで知能化できる。そしてAI機能を搭載するには本体にGPUを搭載したエッジ向け超小型AIコンピュータ「NVIDIA Jetson (ジェットソン)」シリーズを組み込むことで実現できる。
例えば、AI自動搬送ロボット(AMR)を知能化すると、指定したルートを自律運転したり、他のロボットと連携して移動することができるようになる。製造工場や配送センターなど、大規模な施設では特に、単独での自動搬送はもちろん、複数台のロボットが連携して移動する搬送システムの需要が高まっている。

自動搬送ロボット(AMR)にJetsonを搭載し、AI機能によって知能化し、自律搬送機能や複数台のロボットとのシステム搬送が求められている

Jetsonを使った自律移動ロボットや遠隔操作ロボット、ドローンなどの開発は今や、配達、小売、AMR、農業、遠隔操作、物流、製造、ヘルスケアなど、多くの分野で盛んに行われている。国内外の事例は6,000社を超えているという。

セミナーなどで公開されているJetson採用企業の数々。日本でもお馴染みの企業の名前が連なる


ロボットのトレーニングを効率化する「Isaac」シミュレータ

「Jetson」を提供しているNVIDIAは、自律走行機能を支援するためのSDKを無償で用意しているため、基本機能としての自律走行用AIモデルは簡単に開発できる。そのAIモデルをロボットに搭載した「Jetson」にデプロイすればまずは自律走行ができるようになるものの課題はそこからだ。走行ルートを詳細にマッピングしたり、周囲を動き回る他のAMRや人などとぶつからないよう自走機能をブラッシュアップするためには、繰り返しのトレーニングが重要となる。

周囲のAMRや人、台車等との衝突を回避するなど、実際の環境に合わせてトレーニングしたり、複数のAMRを使ったシステムを構築する場合、仮想空間でのトレーニングが有効だ。そのシミュレータがNVIDIAの「Isaac」だ

従来はこのトレーニングをリアルな環境で行っていたが、「シミュレータ」を使って効率的に行う手法がトレンドとなっている。そのシミュレータのひとつがNVIDIAが無償で提供している「Isaac (アイザック)」プラットフォームだ。

「Isaac SIM」でロボット単体の設計や制御を行う例。単体のシミュレーションだけでなく、「Omniverse (オムニバース)」基盤と連携して大規模デジタルツインを構築して複数のロボット制御を行うこともできる


NVIDIAの開発者は実に250万人超

NVIDIAは米国シリコンバレーに本社を置き、世界的に展開する企業だ。高度な画像処理を行うためのプロセッサ、「GPU」 を世界ではじめて開発し、その優れた演算能力が、グラフィックスや科学技術計算、そしてAIに広く活用され、AIの学習や推論に必須のテクノロジーとして注目されるようになった。GPUを搭載したNVIDIAのプラットフォームは、エッジ向けの超小型のAIコンピューター「Jetson」から、深層学習向けのスーパーコンピュータまでスケールに合わせて幅広くラインアップしている。

ロボットやドローン、セキュリティカメラ等、エッジデバイスに組み込むことができる、GPU搭載の超小型のAIコンピュータ「Jetson」シリーズ(写真は最新の「Jetson AGX Orin」)

NVIDIAのGPU製品ラインアップには、スーパーコンピュータ級の処理速度を持つメインストリームサーバーもある。エッジからスーパーコンピュータまで共通のアーキテクチュアとエコシステムが用意されていることがNVIDIAの特徴だ


ロボット開発向けのSDKも用意

そして、NVIDIAの最大の特徴はJetsonなどのデバイスの提供だけでなく、それを活用するための「SDK」(開発者キット)を含む開発プラットフォーム(基盤)を共通のアーキテクチャで提供していることだ。スパコン、CG、AI開発、ヘルスケア、スマートシティ、自動運転、そしてロボット開発向けなど、用途別に150超のSDKを提供しており、GPUは実に10億台、開発者は250万人を超える巨大なエコシステムを築いている。これによってAI開発の経験がない企業でも、簡単に開発に着手できる環境が整っている。

NVIDIAによって、150超のSDKが用意され、開発環境が整っている。また、ロボティクスの「Isaac」は、ヘルスケア「Clara」、自動運転「DRIVE」、ビデオ解析「Metropolis」等と並んで、ユースケースの重点分野としてラインアップされていることがわかる




ロボット開発を支援する「Isaac」プラットフォーム

下図にあるようなAI自動搬送ロボットを開発するには、前述したようにハードウェアとしてはロボット本体にエッジ向けAIコンピュータ「Jetson」シリーズを組み込む。Jetsonは搭載されたGPUを使ってAIモデルを高速に処理することができる。AIモデルの開発プロセスとしては、まず機械学習用のデータを大量に収集する(下図「データ」)。そのデータをワークステーションやサーバ(「DGX/EGX」)で機械学習し、自律走行用のAIモデルを生成する(「学習」「開発」)。そしてそれを自律搬送ロボットに「デプロイ」する。

NVIDIAはエコシステムとしてロボット開発環境を用意している。そして、そこに更にシミュレータ「Isaac」プラットフォームが加わっていることがNVIDIAの最大の特徴だ

ロボットの場合、実際の環境でトレーニングとテストを行って自律走行をブラッシュアップしていくが、現実に自律走行ロボットのテストを行うとなると、衝突による破損や故障、人とぶつかるなどの危険性があり、トレーニングが思ったように進まないという状況が考えられる。ドローンであれば落下による故障にも備える必要がある。では、どうするか?


ここで威力を発揮するのがシミュレータだ。リアル環境では難しいトレーニングもシミュレータならどのような状況でも実施することができる。また、最先端のロボット開発ではシミュレータ環境内でロボットの設計、マッピング、トレーニングなど、開発全般を行うことができる。NVIDIAは、シミュレータプラットフォーム「Isaac」を用意しているが、更にAMR開発に特化したシミュレータとして「Isaac for AMRs」を発表した。

データ収集とシミュレーションを仮想空間上で行い、AI生成を支援するSDKの提供、デプロイとテストした結果のフィードバックなど、多くのプロセスを仮想空間上で展開できるため、自律走行システムの開発の効率化を推進することができる。


デジタルツインとOmniverse

「デジタルツイン」というワードを頻繁に目にするようになった。デジタルツインとはリアル世界と同様の環境をデジタルで作り出すこと。例えば、製造工場をラインやロボット、働くスタッフなど丸ごとそっくりデジタル化し、その中でシミュレーションを行い、ロボットの制御や人の流れ、スタッフのシフト割り当てもデジタル環境内でシミュレーションするケースもある。NVIDIAはデジタルツインのプラットフォームとして「Omniverse」(オムニバース)を提供している。IsaacはOmniverseと連携して、大規模な工場や物流センターなどのデジタルツイン構築にも反映することができる。

「Omniverse」で本物そっくりに構築した自動車工場のデジタルツインの例。ラインやそこに流れる自動車部品、ロボット、スタッフに至るまで、現実と同じ環境をデジタル環境の中に作りだしている


NVIDIA Isaac for AMRs

NVIDIAは、AMR開発に特化した「Isaac」シミュレータとして「Isaac for AMRs」を発表した。AMRのシミュレーション環境の構築に併せて、合成データの生成、最適なルーティングの検出、マッピング、AI画像システムとの連携など、下記の機能が用意されている。


Isaac GEMs

「NVIDIA Isaac GEM」は、ハードウェア・アクセラレーションを使用したパッケージ。高性能なAIソリューションをJetsonなどのNVIDIAデバイス上で簡単に構築するためのツールキット。新しくリリースされた「Isaac GEM」には、障害物認識を高精度で行う「NVBLOX」と「AMRの3D ビジュアル ナビゲーション」も用意されている。



■NVIDIA Isaac ROS GEMsの例


Isaac Sim

「NVIDIA Isaac Sim」は「Omniverse」上に構築し、デジタルツイン環境の中で、複数のロボットの制御や、周囲の人や機器の動作ををシミュレーションできる。また、AIモデルをトレーニングするための合成データの生成も可能。




Omniverse Replicator

「Omniverse Replicator」は、Isaac Sim 向けに環境や台車やフォークリフトなど、AIモデルをトレーニングするために合成データを生成するツール。AMRが安全に自律走行したり、障害物を回避するなど、一般的な事故を未然に防ぐために活用できる。

合成データとして簡単に生成できるフォークリフトの例。AMRにとってフォークリフトの本体の認識はたやすいが、パレットを持ち上げるフォーク(タイン)を認識するにはいろいろなパターンのフォークリフトでのトレーニングが必要になる


cuOpt

「NVIDIA cuOpt」は、AMRを使った物流倉庫におけるピッキングやリアルタイム・ルーティングを最適化するAI物流ソフトウェアAPI。リアルタイムで経路計画を最適化することができ、複数のAMRの制御にも適用することができる。

■Optimize Route Planning with NVIDIA cuOpt


DeepMap

クラウドベースの「NVIDIA DeepMap」プラットフォームSDKにアクセスして、大型施設のロボット・マッピングにかかる期間を数週間から数日に短縮することができる。精度もセンチメートルレベルの精度で実現できる。また、ロボット・マップを必要に応じてリアルタイムで更新する「DeepMap Update Client」も用意されている。



Metropolis

「NVIDIA Metropolis」は、AI対応のビデオ分析アプリケーションを開発支援するアプリケーション・フレームワークだ。「Metropolis」自体は、一般的なビデオカメラとセンサーをAI対応のビデオ分析システムと組み合わせることで、小売分析、都市交通管理、空港運営、自動化された工場など、幅広い業界の映像分析ソリューション、コンピュータの「目」として利用されている。AMRと連携した場合、工場のフロアの状況をAIが認識することができ、混雑した場所や死角、一時的に利用できないルートなどを避け、人や他のAMRとの連携を高めることもできる。

■Let’s Build Smarter, Safer Spaces with NVIDIA Metropolis



これら「NVIDIA Isaac for AMRs」の新機能を中心に約2分にまとめた動画が下記だ。

■The New Isaac AMR Platform (Full Version)

関連サイト
NVIDIA Isaac for AMRs


デジタルツインとIsaacシュミレータ

NVIDIAは、「Omniverse」によってデジタルツインが構築され、あらゆるシミュレーションを行っていく社会を描いている。実際、BMWがスマート工場を、Amazonロボティクスが物流センターを、エリクソンが街をデジタルツインで構築し、シミュレーションと推論を活用して効率的にビジネス展開を行なっている事例がGTCなどのイベントでは紹介されている。

「Omniverse」が視野に入れる業界。ロボット開発も重点分野のひとつとして位置づける

NVIDIAは、元々グラフィックやレイトレーシング、3D分野に秀でた技術を持っているため、そのノウハウや豊富な知識を活かし、まるで写真のようなデジタル空間を「Omniverse」上に構築できる。それらは数人が共同で遠隔地からリモート作業が可能で、建物やインテリアなどそれぞれ担当のクリエイターが共同作業でデジタルツインのグループワークも可能だ。
ロボット開発のシミュレーション「Isaac」は、最初は単体や小規模のシミュレーションから入るのもいいだろう。そして、将来的には普及が急速に進んでいる「Omniverse」のデジタルツイン環境に展開していくことも可能だ。NVIDIAは今後、ロボットなど多くのデバイス機器はスマート化され、自律移動機能を持つと考えていて、その開発にはAIとシミュレーション環境の需要は大きく拡がると予想している。


画像図版提供:NVIDIA

ABOUT THE AUTHOR / 

ロボスタ編集部

ロボスタ編集部では、ロボット業界の最新ニュースや最新レポートなどをお届けします。是非ご注目ください。

PR

連載・コラム