スーパーコンピュータ「富岳」が性能ランキング「Graph500」で5期連続で第1位 「TOP500」では2位に後退

理化学研究所(理研)、九州大学、株式会社フィックスターズ、富士通株式会社による共同研究グループは、スーパーコンピュータ「富岳」のフルスペックを用いた測定結果で、大規模グラフ解析に関するスーパーコンピュータの国際的な性能ランキングである「Graph500」のBFS部門において、世界第1位を5期連続で獲得した。
「TOP100」では米国の「フロンティア」に続く第2位となった(2020年は、TOP500、HPCG、HPL-AIにおいて世界第1位)。

「富岳」は、スーパーコンピュータ「京」の後継機で、2020年代に社会的・科学的課題の解決で日本の成長に貢献し、世界をリードする成果を生み出すことを目的とし、電力性能、計算性能、ユーザーの利便性・使い勝手の良さ、画期的な成果創出、ビッグデータやAIの加速機能の総合力において世界最高レベルのスーパーコンピュータとして2021年3月に共用を開始した。現在「富岳」は我が国が目指すSociety 5.0を実現するために不可欠なHPCインフラとして活用されている。

今回の発表は、「富岳」が科学技術計算でよく用いられる規則的な計算だけでなく、不規則な計算が大半を占めるグラフ解析においても高い性能を発揮することを実証したものであり、幅広い分野のアプリケーションに対応できる同コンピュータの優れた汎用性を示すものだ。また、ハードウェアの性能を最大限に活用できるソフトウェアを開発した共同研究グループの技術力の高さを示すものでもあり、今後、同共同研究グループは、さらなる通信性能の最適化に加えて、冗長な探索の削減や各ノードにおけるメモリ使用量の均一化などに取り組む予定となっている。

スーパーコンピュータ「富岳」
【同共同研究グループ】
・理化学研究所 計算科学研究センター プログラミング環境研究チーム
佐藤 三久(さとう みつひさ)氏、児玉 祐悦(こだま ゆうえつ)氏、中尾 昌広(なかお まさひろ)氏
・九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所 藤澤 克樹(ふじさわ かつき)氏
・株式会社フィックスターズ 上野 晃司(うえの こうじ)氏



なお、同ランキングは、現在ドイツ ハンブルクのコングレス・センター・ハンブルクおよびオンラインで開催中のHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング:高性能計算技術)に関する国際会議「ISC2022」に合わせて、Graph500 Committeeから5月30日に発表されるもので、大規模グラフ解析の性能は、大規模かつ複雑なデータ処理が求められるビッグデータの解析における重要な指標となっている。




「富岳」測定結果について

共同研究グループは、「富岳」のフルスペックである158,976ノード(432筐体)を用いて、通信性能の最適化などを行うことにより、約2.2兆個の頂点と35.2兆個の枝から構成される超大規模グラフに対する幅優先探索問題を調和平均0.34秒で解いた。「Graph500」のスコアは、102,955.5GTEPS(ギガテップス)であり、測定結果が23,755.7GTEPSである2022年5月時点の「Graph500」のランキング第2位である、中国の「Sunway TaihuLight」と約4倍以上の性能差をつけたことになる。なお、スペックで用いられる「ノード」は、スーパーコンピュータにおけるオペレーティングシステムが動作できる最小の計算資源の単位であり、「富岳」の場合、一つのCPUと32GiBのメモリから構成される。

Graph500ランキング: https://graph500.org




「Graph500」とは

実社会における複雑な現象は、大規模なグラフ(頂点と枝によりデータ間の関連性を示したもの)として表現される場合が多いため、コンピュータによる高速なグラフ解析が必要とされている。例えば、ソーシャル・ネットワーキング・サービスなどでは、「誰と誰がつながっているか」といった関連性のあるデータを解析する際にグラフ解析が用いられている。さらにSociety 5.0に向けた取り組みにおいて、IoTなどの技術で取得された大量のデータをグラフに変換して計算機で高速処理することにより、新しい価値を産み出す新規ビジネスの開拓が推進。これらは新しい産業の創出と廃棄物排出の削減の両立を目的としており、「持続可能な開発目標(SDGs)」の推進などにも大きく寄与することが期待されている。このような多種多様な応用力を持つグラフ解析の性能を競うのが「Graph500」だ。


「Graph500」の2つの部門

「Graph500」には、頂点間の枝の長さが同じグラフを扱うBFS(Breadth-First Search:幅優先探索)部門と、頂点間の枝の長さが異なるグラフを扱うSSSP(Single-Source Shortest Path:単一始点最短路)部門があり、2010年に始まり(SSSP部門は2017年11月から)、そのランキングは年に2回(6月と11月)更新される。「Graph500」では大規模グラフを扱うため、グラフのデータを複数台のノードに分散して配置する必要があり、「富岳」のような大規模ネットワークを持つシステムでは通信性能の最適化も重要になる。同共同研究グループは、スーパーコンピュータ上で大規模なグラフを高速に解析できるソフトウェアの開発を進めており、これまでの成果として下記の3点についての先進的なソフトウェア技術を高度に組み合わせることにより、今後予想される実データの大規模化および複雑化に対応可能な世界最高レベルの性能を持つグラフ探索ソフトウェアの開発に成功している。

(1) 複数のノード間におけるグラフデータの効率的な分割方法
(2) 冗長なグラフ探索を削減するアルゴリズム
(3) スーパーコンピュータの大規模ネットワークにおける通信性能の最適化



■【動画】【360°】スーパーコンピュータ「富岳」のある計算機室を見てみよう(解説なし)

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ロボスタ編集部

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