ソフトバンク孫正義氏、日本経済の成長率/競争力ランキング/AI導入率/GPUの性能進化率など、データを示しAI導入を強く啓蒙

ソフトバンクとして最大規模の法人向けイベント「SoftBank World 2022」が、2022年7月28~29日、オンライン形式で開催され、初日の「特別講演」にはソフトバンクグループ代表取締役の孫 正義氏が登壇した。
今回の孫氏の講演は「海外に比べて日本のAI普及の遅れ」を指摘し、「日本企業へのAI導入の促進」を啓蒙する内容に終始した。日本経済の成長率、日本の競争力ランキング、AI導入率、アームCPUの累計出荷台数、GPUの性能進化率など、多くのデータを紹介し、時折、語気を荒げて日本経済の奮起を促した。

ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役 会長兼社長執行役員 ソフトバンク株式会社 創業者 取締役 孫 正義氏




日本の競争力は34位まで低迷

「最近のニュースで、まだファクスが使われている職場があることを知った。しかし、ファクスからEメールにしたぐらいでDXだと思ってはいけない。AIの導入まで進んで、本当の意味でデータをフル活用し、未来を予測する、こういう変革まで達しないと、DXとはいえない」と語った。


次に孫氏は日本経済の現状を悲観的に語った。
「20年間の日経平均は2.8倍に成長したが、ニューヨーク市場やナスダックはもっと大きく成長している」。更には円高が深刻な状況に陥っていることも指摘する。「1ドル(US)136円、この間は140円ぐらいまでいった。日本の競争力があった頃というのは円高で、80円という時期もあった。


日本の競争力は世界でも一番、あるいは2番という時期もあった。しかし、今や日本の競争力は34位まで低迷している。これはなんとしてでも巻き返さなければいけない」と危機感をつのらせた。

世界の競争力ランキング。1990年代は1~4位、そこから下降し、2000年代には16位から24位、2019年以降はついに30~34位にまで落ち込んでいる。




DXのキーワードは「AI革命」

ここ数年、孫氏が注目している中心は常に「AI」だが、今回も「AI革命」をDXのキーワードとして掲げ、日本の企業のAI導入の遅れを指摘した。

日本のAI導入率は世界で31位。もはやAI後進国というべき状況

孫氏は、日本の企業のAI導入が非常に遅れているのはAI人材にも現れているという。AIに理解あるという企業は米国が75%に対して、日本はわずか24%、AIエンジニア等の人材を会社内部に持っているいう企業は、米国が62%、日本は11%という調査結果を紹介した。


孫氏は「未だに「AI は必要なのか」なんてことを言って議論している有識者や学者もいるようだが、そんな議論をしてる間に、アメリカや欧米など世界の先進国はどんどん導入して活用してるという状況」と語った。
「AIは問題の解決だけでなく、売上予測や事業予測など、未来予測することができる。コストの削減やイノベーションが創出できる」として、その効果を示すデータも紹介した。






アームCPUの累積出荷数は2500億個超

孫氏は、ソフトバンクのグループ傘下のarm社(アーム)のCPUの累積出荷数が2500億個を超え、この数は4~5年ごとに2倍に増えていることを紹介した。アームはスマートフォンを始めとして、セキュリティカメラなどエッジの小型デバイス、IoTデバイス向けのCPUから、データセンターなどの巨大システムの頭脳までを網羅し、いまや世界最大のCPUデザイン供給者のひとつとなっている。IoTデバイスが世界中に1兆個溢れてるという状況は目前に来ているのではないか、と続けた。


それに伴い、インターネットを駆け巡るデータ量は爆発的に増えていく。それを処理するAIの頭脳、GPUの処理能力は5年で13倍に進化した。推論のコストは2年で33万分の1になった、と語った。



孫氏は「AIは現実のツールとして利活用していく時期が来た。人類の知能を様々な部分で超えるようになった。2017年はAI推論のコストは100万円かかっていたものが、2019年はわずか3円。人間の作業コストよりはるかに安い。導入しない理由はない」と力強くうったえた。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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