ESG(環境・社会・企業統治)の取り組みは企業にどのような価値の向上や変化をもたらすのだろうか?
ESG施策によって、企業価値の向上は見込めるのだろうか?
アクセンチュア株式会社はそんな疑問に応えるべく、「企業のESG」がもたらすインパクトを分析し、企業の成長を促す施策に繋げるAIソリューション「AI Powered Enterprise Value Cockpit(エーアイパワード エンタープライズ バリュー コックピット)」の提供を開始した。
それに合わせて報道関係者向け発表会を8月1日にオンラインで開催した。
財務三表やCSR関連データなど、社内外のデータソースから集めた400以上の財務・非財務指標を基に、企業の時価総額を予測するAIモデルを開発、これにESGの要素を加味して企業価値を数値やグラフで明示することで、現在地を知ることができる。
更に、ESGの取り組みを進めることで、どのように企業価値が上がるのか、または下がるのかを高精度にシミュレーションし、取り組むべき方向性を導くシステムとなっている。
ESG施策をどのように企業価値の向上に結びつけるのか
発表会に登壇したアクセンチュアの保科学世氏は次のように語った。
「今、ヨーロッパを中心に、ESGを企業戦略の中心に位置づけるという動きが非常に盛んになってきています。日本でも ESG の投資額が年平均で300%以上という成長率で爆発的に増えています。これからの企業は、ESGを企業戦略の中心に据えて社会的責任を果たすことが求められる世の中になっていることをあらわしていると思います。
一方で、これらESG施策をどのように企業価値の向上に結びつけるのか、もしくは企業価値向上のために必要な施策に何か、ということが把握できていないケースが多く、自社の立ち位置や不足要素が何かというところを把握できてないケースも多いと考えています」
すなわち「ESGが大切なことは解ってはいるが、それが企業にとってどれほど貢献するのか、自社はESGのどの部分が不足しているのか、その実態を解析し、理解することから始める」という。
ESG経営を支援するクラウドベースのAIソリューション
企業の長期的な成長には、環境、社会やガバナンス体制といった非財務指標が重要との認識が広がっている。一方で、ESGの取り組みが自社の企業価値向上に直接的に貢献するのかどうか、どのような施策がよく有効かを定量的に把握することは困難な側面もあった。
アクセンチュアはそこに着目し、「AI Powered Enterprise Value Cockpit」は取り組みに対する競合他社との比較、自社が取り組む温室効果ガス削減策、生物多様性に配慮した活動、さらには女性活躍推進や働き方改革など、ESG施策が自社の企業価値に与えるインパクトの因果関係を把握し、客観的な立ち位置を可視化するソリューションを開発した。さらに、自社の将来の企業価値向上に最も貢献するESG施策をAIが予測し、それらの施策を実施した場合の企業価値のシミュレーションも提示。データに基づく効果的なESG目標設定と、目標を達成するために有効な施策もシミュレーション可能となっている。
これにより、株主などのステークホルダーへ説得力のある形で説明することも可能になるとしている。
企業価値へのインパクトが大きい指標はなにか?
では、どのような指標が企業価値に大きく影響を及ぼしているのか。
保科氏は「日本全体の企業価値でのインパクトが大きい状況を468指標を使っていますが、そのうちインパクトが大きいトップ30の指標を一覧に表したものがこちらです」と「日本全体の企業価値でのインパクトが大きい指標」を紹介した。これが興味深いものだった。
紹介された表によれば、2、3位に栄養系やファイナンス系が入っているものの、1位、4位、6位などに「女性役員比率」など、女性の数や割合に関する指標が上位に来ていたり、LGBTや在宅勤務制度など働く人の多様性が重視される傾向にあり、企業価値へのインパクトが大きい指標の傾向が概ね理解できる。
保科氏は次に業界別に比較した図を紹介した。これは「ESGが時価総額の押し上げにつながっている業界もあれば、財務面での影響が極端に強い業界もあって、自社の業界特性を見極めた上で、ESG戦略を立てる必要がある」ことを示唆したものだ。
100%以上にグラフが伸びているものが、時価総額の押し上げ効果が見られるものとなっている。
情報通信広告などは、ファイナンスで時価総額を引っ張っている業界がある中で、ただ一方で例えばサービス、医薬医療、バイオ、小売り業界はESGの取り組みが大きく時価総額を押し上げる要因になっている。
また保科氏によれば、機械、エレクトロニクス、輸送機器、資源エネルギー、素材などの業界はまだESGの取り組みが企業価値を押し上げるところまでは至っていない、と予想できるという。
これらを前提にして、「AI Powered Enterprise Value Cockpit」を使用して、現在の自社の企業価値と数値、立ち位置、他社との比較などをシミュレーションした上で、例えば「ダイバーシティ」に対して数値を向上させた場合のシミュレーションや目標を設定していく流れになる。
九州大学 都市研究センターとも連携
サステナビリティ研究で著名な九州大学 都市研究センターとも連携した。同センターの武田 秀太郎准教授は次のように述べている。
「AI Powered Enterprise Value Cockpitは各非財務指標と企業価値との因果関係とその度合いを明確にするものであり、これまでにないソリューションです。ESG施策の効果が明確になることで、日本企業のESG経営が前進し、サステナブルな社会づくりが日本全体で進むことに期待しています」
KDDIが導入を決定
なお、AI Powered Enterprise Value Cockpit はKDDIでの導入が既に決定しているという。KDDIでは、このソリューションを活用し、データに基づくより効果的なESG施策を実施することで、同社の掲げるサステナビリティ経営の実現や企業価値のさらなる向上に役立てたい考えだ。
アクセンチュア保科氏は次のように述べて締めくくっている。
「アクセンチュアは、テクノロジーと人間の創意工夫を融合させることで、社会全体に新しい価値を生む変革を目指しています。これまで企業価値に対する直接的な寄与が見えにくかったESG施策に対し、今回のソリューションは、データを基に企業価値へのインパクトを明らかにします。競合他社と比較して自社が不足している要素を見える化し、企業がとるべきESGアクションを提示するものです。このソリューションが広く使われることで、社会全体でより効果的なESG経営の推進につながると期待しています。お客様と共に、持続可能な社会の実現に貢献してまいります」
なお、「AI Powered Enterprise Value Cockpit」は単体のサービスで販売する形式ではなく、アクセンチュアのコンサルティングのメニューの一部として提供される。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。