トヨタ、階段も登れる「自由」な電動車椅子「JUU」を国際福祉機器展2022で公開 車載部品活用で高信頼性とコストメリットを実現

第49回国際福祉機器展H.C.R. 2022」(主催:全国社会福祉協議会、保健福祉広報協会)が、2022年10月5日(水)から10月7日(金)までの日程で、東京・有明の東京ビッグサイトで行われている。そのなかで、トヨタ自動車株式会社は開発中の電動車いす「JUU(ジェイユーユー)」を公開した。名前は「自由」に由来する。

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幅660mm、高さ1135mm。奥行き1048mm。ヘッドレストは26cm程度上下に可動する。シートバックも3段階に調整できる。座面横幅はやや狭いが、サイドサポートは脱着可能。シート座面も脱着できる。

シックなデザインの「JUU」

「JUU」側面

座面やヘッドレストは可動する

本体後面には傘や水筒、ちょっとした荷物などを置くためのスペースがある。

本体後面。傘やポーチなどを置くためのスペースがある

駆動輪のほか、オムニホイールも使われていて、小回りが効く。

後ろのオムニホイール

最大の特徴は、後部のフリッパーアーム。このフリッパーを倒して本体を支えることで、17cm段差の階段を登ることができるという。つまり駅や非常階段などの階段を登ることができる。

後部のフリッパーアームを使うことで普通の階段も登れる

開発を率いる株式会社SOKEN 担当部長で株式会社デンソー技術企画部担当部長の川崎宏治氏によれば、今回のデモでは安全重視とのことで、そこまでの動きは見せなかったが、かなりラフなテストも社内では繰り返しているとのこと。これまでは社内で開発を続けていたが、今回の公開によってより広く実証実験を行えるようになるので「近隣の神社などを回り、どれだけいけるか検証したい」とのことだった。

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将来的には、農作業を行う畑へのアプローチや、海遊びができる砂浜など、様々な不整地での走行の実現を目指す。それだけではなく、単独で車の荷台に乗り降りし、運転席の横まで自動で来られるものにしたいという。つまりユーザーが自分一人で車に乗ってどこにでも行けるようにすることを目指している。

車にも自動で乗り降りできる機能の実現を目指す

このほか、スマホアプリを使ったコントロールも可能。また、人が押せる「台車モード」にして、簡単に移動させて片付けたりすることもできる。検証は特例子会社のトヨタループスの協力の下、様々なハンディキャップを持ったユーザーによる検証を実施して問題点や課題を洗い出した。

アプリを使って椅子の角度などが調整可能

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駆動ユニットはデンソー製、車載部品採用で自動車品質とコストメリットを実現

駆動ユニットはデンソー製

駆動部にはデンソーの電動パワーステアリング用モーターコントロールユニット「EPS-MCU」と減速機からなる「DENSO DRIVE UNIT」を採用。高精度かつ高トルクにより悪路でも安定した走りを実現する。

DENSO DRIVE UNIT。システム構成要素がすべて二重化されている

「EPS-MCU」の特徴は駆動回路やモーター巻線などの構成要素がすべて二重化されていること。2系統あることで、万が一の事態に備えることができる。また多くの電動車椅子は回生ブレーキを使っていて、満充電で回生できないときにはバッテリーを保護するためにブレーキがかからなくなり減速できなくなってしまうリスクがある。このユニットにはドグを使ったロックとドラムブレーキが入っていて、電気的に減速できなくなってきたときにも止められるようになっている。

車両制御ユニット(VCU)はデンソーテン製

車両制御ユニットVCU(Vehicle Control Unit)は、デンソーテン製。ジャイロなどもこのなかに内蔵されており姿勢制御ができる。いずれも、車載製品として大量生産していることから、ハイススペックでありながら自動車品質の信頼性とコストメリットが出せるという。

ホイールはヤマハ製

タイヤとEPSを分けた構成となっていてインホイールモーターとしていないのは、メンテナンス性やバリエーション展開を考えたためだという。「インホイールモータだと丸ごと交換になってしまう。この構成のほうがギア比も簡単に調整できる。ユーザーのなかには家の裏にすごい坂がある人もいれば、真っ平らのところしか移動しない人もいる。特定の数値だけで様々なニーズを全部カバーするのは難しい。速度やトルクを調整できる柔軟性がいるんじゃないかと考えている。だからこの構成にしている」とのことだった。

JUUの機能のまとめ

現在の連続走行距離は20km程度。バッテリータイプのバリエーションも含めて検討中だ。階段登りに用いるための後部のフリッパーアームも、もっと小さなタイプや、横幅が広いタイプなど様々なタイプを検証しているそうだ。川崎氏によれば「後輪の後ろ30cmくらい出れば、原理的には問題ない。ただ、色々なシチュエーションがあって、それぞれに適した形があるので、7種類くらい開発して検証している。本当はその色々なオプションも展示したかった」とのこと。

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「トヨタ技術選挙」で、1500イイねで次年度予算を獲得できるか

トヨタブース

「JUU」の開発が始まったのは4年前。今はまだあくまで開発中であり、製品化は決定していない。今後の開発が続くかどうかも今回のブース内で行われている投票結果次第で決まる。投票数が「1500イイね」を獲得しなければ来年度以降の開発ができない。トヨタZEVファクトリー ZEV B&D Lab主幹の加藤誠氏は「車で培った信頼性で、品質も保った上で、悪路での走破性を出せるところにトヨタがやる価値があると思ってトライしている。今まで行けなかったところに行けるようになれば、新たな雇用も生み出せるかもしれない。(トヨタが掲げるミッションである)『幸せの量産』にも貢献できればと思って展示させて頂いている」と語る。

ブース来場者による「トヨタ技術選挙」で1500イイねを獲得しなければ来年度以降の開発ができない

コンセプトは「自由」、つまりユーザーが我慢しないこと。川崎氏によれば、もともとは「職場で誰もが支障なく働けるようにしたい」と考えたことから開発が始まったという。「『全ての人に移動の自由を』というのが我々がEV化で掲げた標語。障害者の方も含めて移動の自由を提供したい。だが会社の中にはちょっとした段差等があって、実際には特定エリアでしか働けなくなっている。まずはそこを乗り越えられるようにして仕事ができるようにしようというところから始まった。つまり雇用を生む車椅子、仕事ができるようにしようと考えたのが最初だった」。開発当初は一般の人が好きなところにいけるようなモビリティにしようとは考えてなかったという。

前述の、電動車椅子が自ら自動車に乗り上ったり降りたりできるようにする機能という発想も「一人で色々なところに行けるようにしないと実際には仕事ができない」と考えたところから始まっている。「仕事だけじゃなく、神社や観光地にも行きたいじゃないですか。一人で出歩ける車椅子を目指すためには(階段を上がれるような)ああいう機能がいる。それを目指していたら、いろんなことができるようになった。『これだったら仕事以外でも使えるんじゃないの』ということになって、一般の方からも意見を聞きたいと考えた」ことで、今回のお披露目となった。「ぜひ多くの人に見てもらって、投票をもらいたい」とのこと。

JUU

価格等は未定だが、一般的な電動車椅子とそれほど大きく変わらない価格帯で提供することを目指す。介護保険適用になれば1/10になるし、レンタルやリースなどの形態もありえる。川崎氏は「お金持ちしか買えないものではダメ。新しいビジネスモデルを作らないといけない」と述べ、他社との連携なども視野に入れていると語った。モジュール単位での提供も含めて様々なビジネス形態を考えているという。

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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