ロボットハンドからソリューションプロバイダへ OnRobot、ロボットアプリを簡単に構築できる「D:PLOY」を発表

協働ロボットのアプリケーションを展開するデンマークの企業 OnRobotは、2023年1月20日、協働型アプリケーション自動化展開用プラットフォーム「D:PLOY(デプロイ)」を発売すると発表し、記者説明会を開催した。


協働ロボットアプリケーションを自動構築するプラットフォーム「D:PLOY」

OnRobot CEOのエンリコ・クログ・アイベルセン氏 、アジア太平洋地域ジェネラルマネージャー ジェームズ・タイラー氏、OnRobot Japan カントリーマネージャー 鈴木孝氏

「D:PLOY」は複雑なプログラミングなしでロボット・アプリケーションの構築を容易にするためのプラットフォーム。様々なメーカーのロボットシステムに繋げられる「OR:BASE(オーアールベース)」というコントローラーと、アプリケーションを構築できるクラウドベースのソフトウェアからなる。ロボットの実装と再実装にかかる時間を最大90%短縮し、低コストでオートメーションを実現するという。ユーザーはロボットのワークスペース(作業範囲)を定義、アプリケーションを設定して、ワークの属性を入力するだけで、すぐに利用できる。動作の監視や、製造条件の変更に伴う再展開もできる。

「D:PLOY」のユーザーフロー

様々なメーカーのロボットを一つのユーザーインターフェースでコントロールする、いわゆる汎用ロボットコントローラーは他メーカーも出し始めているが、それらとの違いはプログラミングがまったく不要なところだという。

■動画

2022年12月22日に、まずはパートナー企業にソフトリリースした。その後、幅広くリリースしたのが1月12日。日本国内のオフィシャルリリース日は1月19日。サービス開始時点では4種類のアプリケーションをサポートする。マシンテンディング、ピックアンドプレース、パッケージング、パレタイジングだ。対応ロボットメーカーは7社。今後、アプリケーション、対応ロボット共に増やしていく予定。パソコンやスマホのアプリをコードを書かずに皆が使えるように、ロボット・アプリケーションの構築を容易にすることで、ロボットを幅広い人たちが使えるようにするものだという。

パレットにケースを積むパレタイザー。グリッパーだけでなくリフターもOnRobotのもの

「OR:BASE」には各種センサーやコンベアなど様々な周辺機器の接続も可能だが、「D:PLOY」を使用するためにはOnRobot社製のエンドエフェクタの利用は必須。販売はこれまでのOnRobot製品同様、代理店経由で行うが、ハードウェアの「OR:BASE」がおおよそ20万円、ライセンスキーがおおよそ60-70万円。当初は約2年間サポートする予定。その後1年ごとにライセンスすることになるが、ライセンスが切れたままでも、それまでに作ったアプリケーションはそのまま使える。新規に再構築したいという場合、そこから再び契約しても構わないとのこと。

ロボットコントローラーの「OR:BASE」

「OR:BASE」の構成




ソリューションプロバイダーに舵を切るOnRobot

OnRobot A/S アジア太平洋地域ジェネラルマネージャー ジェームズ・タイラー氏

会見ではまずOnRobot A/S アジア太平洋地域ジェネラルマネージャーのジェームズ・タイラー(James Taylor)氏が、「『D:PLOY』は日本の市場においても大きなバリューを提供できる。製造業現場での自動化を、より安価・勘弁・シンプルになるよう促進していく」と挨拶した。そして会見に先立って「D:PLOY」を日本国内のパートナー企業や潜在顧客に紹介したところ、既に多くの引き合いをもらっていると述べ、「非常に効率的にシステムインテグレーター(SIer)や製造業の顧客の競争力を強化するものだ」と語った。

OnRobot A/S CEO エンリコ・クログ・アイベルセン氏

続けて、同じく来日したOnRobot A/S CEOのエンリコ・クログ・アイベルセン(Enrico Krog Iversen)氏が、OnRobot社と「D:PLOY」を紹介した。以前はUniversal RobotsのCEOだったアイベルセン氏は最初に「今日はオートメーションの次のステップの始まりだと考えている」と述べた。

OnRobotは2018年に、米国「Perception Robotics」、ハンガリーの「OptoForce」、そして2015年に創業したデンマークの「On Robot」の3社が合併し、新社名「OnRobot」として生まれた会社だ。協働ロボットアームに取り付けるプラグ&プレイのエンドエフェクタ、いわゆるロボットハンドを主に展開してきた。

OnRobotのロボットハンド

アイベルセン氏は「協働アプリケーションにおけるグローバルリーダーになりたいというのがOnRobotの野心的なミッション。これまで4年間のあいだ、様々なロボット用エンド・オブ・アーム ツール(End-Of-Arm Tool:EOAT)を開発し、インテグレーションに注力してきた。しかし今後、我々はソリューションプロバイダーに舵を切る。今後はたくさんのソフトウェアも展開する」と語った。

パレタイジング用グリッパー




ロボットアプリケーションの構築を容易にする『D:PLOY』

ロボット自動化の歴史

そしてロボットの歴史を簡単に振り返った。1960年台後半から70年代初頭に産業用ロボットが登場し、これ製造現場が効率的に生産活動が行えるようになった。協働ロボット登場は2010年くらい。「協働ロボットの登場は大きな展開であり、より多くの企業がロボティクスにアクセスできるようになった。そして数年前に非常にインテリジェントで柔軟性あるエンド・オブ・アーム ツールが出てきた。この流れのなかでロボットアプリケーションの展開を自動化する『D:PLOY』は、次のステップとしては自然な流れだ」と続けた。

市場の声に耳を傾けると、ロボットは使いやすくなった、シンプルになったという声が聞かれる。だが本当にそうか。ロボットそのものは使いやすくなったし、入手しやすくなった。しかし、実際にロボットアプリケーションを構築して展開するのは今もとても複雑な作業だ。また、アプリケーションに精通し、実装するエンジニアは、世界中で不足している。

『D:PLOY』はこの課題を解決するものだという。アイベルセン氏は「『D:PLOY』は新しいプログラミングツールではなく、ロボットアプリケーションの展開を自動化するための完全に全く新しいプラットフォームだ」と続けた。そして「以前のPCはDOSで操作していた。複雑で、扱いにくかった。当時、まだまだコンピュータは一般の人に使われる時代ではなかった。それがWIndowsの登場で、幅広く一般人にも使われるようになった。それと同じだ。『D:PLOY』は幅広く多くの企業がロボティクス・オートメーションにアクセスしやすくするように支援できるソリューションだ」と紹介した。

「D:PLOY」で作ったパッケージングのアプリケーション。お菓子を箱に詰める




専業システムインテグレーターが10日かけていた作業を1日で完了

「OR:BASE」を片手に持って語るエンリコ・クログ・アイベルセン氏

『D:PLOY』は、自動的にロボットセルのなかのハードウェアを検知してコンフィギュレーションする。各メーカーのロボットの3Dモデルも提供されており、作業領域を作って簡単にロボットが避けるべき領域も定義できる。

「たとえばパレタイジングのようなシンプルなアプリケーションを例にとると、設置して稼働できるまでに2週間くらいかかる。『D:PLOY』であれば非常にシンプルな作業フローですむ。オペレーターが入力する必要のある情報は4つの情報だけ。ボックスのサイズ 、重さ、パレットサイズ、パレットに何個のボックスを載せたいのか。これだけでいい。それに基づいてロボットの動きは15秒程度で自動計算される」という。

プログラミングせずにアプリケーションを自動生成

通常、各メーカーのロボットはそれぞれのコントローラーでないと動かない。『D:PLOY』からロボットを動かすことで、一つの共通インターフェースで各メーカーのロボットを動かすことができるようになる。アイベルセン氏は「一つのユーザーインターフェースで動かせる『D:PLOY』があれば誰でもロボットエキスパートになれる」と述べた。

『D:PLOY』を使うことで、パレタイジングでは約90%の時間削減ができ、既存のやり方で業務を行っているアプリケーションエンジニアは、10倍多くのプロジェクトをこなせるようになるという。CNC加工機にワークをセットするマシンテンディングのアプリケーションも同様で、83%の時間削減ができるという。

『D:PLOY』の効果。パレタイジングでは最大90%、マシンテンディングでは83%の時間節約効果があるという

アイベルセン氏は実際の例として、OnRobotの顧客の一社が、能力の高いSIerを使って協働ロボットを導入するのに2週間かかったが、OnRobotの社員が現場に出向いて『D:PLOY』を試してみたところ「日曜に行って、月曜日には必要な作業は終わらせて稼働できる状態にした」と紹介した。つまり、従来はSIerが10日かけていたところを1日で終わらせることができたという。単純に考えると、同じ時間で10倍のプロジェクトを手がけることができることになる。

また独自アルゴリズムによる軌道の最適化により、サイクルタイムも半減させることができたとのこと。「ロボットのキネマティックモデルを改善している。ロボットメーカーが動かすよりも『D:PLOY』で動かすほうが より効率的に動かすことができる」という。

「これだけの時間削減ができ、たくさんのメリットが享受できる。『D:PLOY』は、ロボット市場全体の成長を推し進めていくパワフルなツール。大企業だけではなく中小企業がロボットを使うにあたっても効果を発揮する。より多くの人がロボットにアクセスしやすくなる。SIerは、より多くの顧客に対応できるようになる。その結果、ロボットメーカーはもっとロボットを売ることができるようになる」とアイベルセン氏は語った。

そして「これは本当に始まりにすぎない。今後も数ヶ月のインターバルでアプリケーションもどんどん追加していく。いま現在は7社のロボットメーカーをサポートしているが、今後、サポートメーカーも増やしていく。協働ロボットだけではなく産業用ロボットにも適用できる。『D:PLOY』でたくさんのバリューを作ることができる。ぜひ皆さまに実際に目で見て感じてほしい」と述べた。

ピック&プレイスのアプリケーション例




『D:PLOY』実演 簡単なアプリならすぐに構築可能

OnRobot Japan アプリケーションエンジニアの尹 梃根 氏

続けて、OnRobot Japan アプリケーションエンジニアの尹 梃根(ユン・ジョングン)氏が、CNCマシンテンディングを例として実演を行った。『D:PLOY』はハードウェアだけでなくライセンスソフトウェアでもあるので、ネットワークに繋いでログインして用いる。ログインには二つのモードがあり、普通のログインと、編集はできず操作だけができるオペレーターモードがある。

CNCマシンテンディングを想定した例。トレイからワークを取り出してCNCに投入し、加工終了したワークをトレイに戻す一連の動きをデモした。

接続済みハードウェアを自動的に認識するのが『D:PLOY』の特徴だ。ロボット本体、エンドエフェクタなども自動認識される。それぞれの動作の確認や、細かい設定も比較的簡単にできる。なおOnRobotのエンドエフェクタを使っていないと『D:PLOY』は動作しない。ハンドにどんなものを何種類使うか、どのハンドでどのワークを扱うのか、ワークの位置関係、対象物の寸法など各種の選択と入力が終わると、最適なパスを自動計算して、ロボットの動きを実行できるようになる。

グリッパーとピッキング設定

ピッキング経路の設定

配線しておけばインフィード、アウトフィードのセンサー、CNCのI/O、すなわちドアの開閉やクリーニング動作なども『D:PLOY』から設定できる。なお周辺機器については自動認識はされない。

CNCの設定

インフィードセンサーの設定画面

パッケージングの場合も基本的に同様で、ハードウェアの構成やワークスペースを定義したあとは、ワークの大雑把なかたちを選択し、サイズを入力。投入する段ボール箱のほうのサイズや、フタのある上方のクリアランスなどを入力すれば、『D:PLOY』が自動的に動作経路を生成する。

パッケージングの場合。投入先の箱(コンテナ)のサイズなどを入力




やりたいことからハンド、ロボットを選ぶ時代に

OnRobot Japan カントリーマネージャー 鈴木孝氏

OnRobot Japan カントリーマネージャー の鈴木孝氏は、汎用ロボットコントローラーの「OR:BASE(オーアールベース)」を紹介。「OR」はOnRpbotの略で、コンピュータが搭載されている。「OR:BASE」にはWiFi用ユニットやマシンテンディング用ユニットなど必要なユニットを増設して用いる。カメラ用ユニットは現在開発中。電源をオンにしてQRコードからサイトにアクセスし、ネットワークに接続し、ライセンスキーを入力するとロボットがコントロールできるようになる。

一般に産業用ロボットは、それぞれ特定メーカーのトレーニングを受けて、その会社のロボットのみを扱えるティーチングペンダントを使わなければ、動作プログラミングできない。だがOnRobotの「D:PLOY」を使うことで、どのメーカーのロボットもタブレット上で同じインターフェースで操作可能になる。ロボット動作範囲の制限も「D:PLOY」上で設定でき、「D:PLOY」が制限エリアに入らないようロボットを動かす最短経路を自動生成する。

ロボットのワークスペース(作業範囲)の設定画面

OnRobotの日本支社は2019年に開設された。当時は製品はバキュームとグリッパーだけ、6種類しかなく対象のロボットもUniversal Robotsのみだった。2019年には「クイックチェンジャー」をリリースし、URのロボットだけではなく、ほぼ全てのメーカーのロボットに接続できるようになった。2020年は2ヶ月に一回くらいのペースで新製品をリリースし、2021年からは渋谷に拠点を移し、そちらではデモルームも設けているとのこと。

現在、製品数は約20種類。食品向け、ネジ締め、研磨機など様々なアプリケーションに対応できるようになっている。製品の販売は全て代理店経由で行っている。「D:PLOY」も同じだ。全て代理店経由の販売・見積もりになる。代理店は2019年当時は5社だった。その後、各メーカーそれぞれのロボットを扱う代理店と契約を増やしていき、今では30社程度になっているとのこと。

「D:PLOY」の2023年の国内販売目標は100。鈴木氏は「いままではロボットが選ばれて、そのあとにロボットハンドを選んでいた。『D:PLOY』は顧客の要望が中心。『何がしたいか』があって、ではハンドをどうするか、そしてロボットをどうするかと考えるもの」と語った。

パレタイザーで使われていたOnRobot「OR:BASE」

OnRobot社のサイトには各種セールスサポートツールがある。マニュアル、e-ラーニング動画ともに、使いたいロボットのメーカー、種類、ハンドの種類を選択すると、それぞれにカスタマイズされたものが自動的に生成されて、各々ダウンロードできるようになる。全て最新版が日本語で提供されている。そのため代理店からの連絡を待つことなく、エンドユーザーが独自に、どんどん開発を進められるという。ちなみにOnRobotは22ヶ国語に対応している。

ユーザーの入力に応じたマニュアルが生成され、ダウンロード可能

「D:PLOY」は今後、アプリケーションを増やしていく。詳細については、まだローンチしたばかりなので「正確に予測することは難しい。半年経てば市場からのフィードバックも入ってくるだろう」とのことだった。

「D:PLOY」の今後のアプリケーション予定


関連サイト
OnRobot 公式サイト

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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