株式会社NTTドコモは、屋内のミリ波帯(28GHz帯)の電波を、窓に貼り付けたフィルム形状の「透過型メタサーフェス」で曲げることで、屋外の建物の足元をエリア化する実証実験に世界で初めて成功したことを2023年1月30日に発表した。
なお、同実証は、第5世代移動通信方式のさらなる高度化(5G Evolution)および第6世代移動通信方式(6G)の実現に向けて、2022年10月から11月にドコモR&Dセンタで行ったものだ。
28GHz帯向け透過型メタサーフェス
同実証で使用した 28GHz帯向け透過型メタサーフェスは、窓ガラスを通るミリ波帯の電波を特定の方向(同実証では建物下方向)に曲がるように設計・加工されたメタサーフェスだ。フィルム形状であり、屋内側から窓ガラスに貼り付けることができるため、設置が容易で、かつ透明化処理が可能であり、景観や既存のデザインを損なわずに設置できます。またこの透過型メタサーフェスは、LTEやSub6などの他の周波数帯に影響を与えないように設計されており、他の帯域と並行してミリ波のカバレッジ改善が可能となる。
同実証実験の背景
5G Evolutionおよび6Gでの利用が想定される高周波数帯の電波は、障害物を回り込みにくく、伝搬距離に応じて減衰しやすい特徴がある。これまで、ドコモは高周波数帯における通信エリアの改善に向け、メタサーフェス技術を活用して、屋外基地局アンテナによる屋内のエリア化や、遮蔽(しゃへい)物が多い場所におけるユーザーの移動に合わせたエリア化を検討してきた。高周波数帯の電波は、建物の屋上に設置した屋外基地局アンテナから見通せない場所に届きにくく、建物の足元のエリア化が困難だった。そのため、現状は近隣の構造物などにアンテナを設置することで足元をエリア化する手法もあるが、景観などの問題で設置できない場合があり、今回、建物の足元のエリア化手法を拡充するために、同実証を行った。
高周波数帯における屋外や屋内のエリア化実現にむけて
同社は高周波数帯における屋外や屋内のエリア化を実現するさまざまな技術の研究・開発を行っている。例えば、2023年1月30日に発表した「マルチセクタアンテナ屋内基地局装置」と同透過型メタサーフェスを組み合わせ、同透過型メタサーフェスを貼り付けた窓ガラスにマルチセクタアンテナ屋内基地局の電波の一部を向けることで、屋内のエリア構築と屋外のエリア構築を同時に実現できる可能性があると考えている。また、将来、アンテナを多数使用する大規模 MIMO(Multiple Input Multiple Output)を構成する際に、メタサーフェス技術を応用することで、比較的少ないアンテナ数で等価的に大規模な構成を安価に実現できる可能性も考えられる。同社は、今後も5G Evolutionおよび、6Gの効率的かつ柔軟なエリア構築手法や無線機構成の確立をめざし研究・開発に取り組んでいくとのことだ。なお、同実証で使用した透過型メタサーフェスは、同年2月2日からオンライン上で開催する「docomo Open House’23」にて紹介予定だ。
透過型メタサーフェスを用いた実証実験の概要
同社は神奈川県横須賀市のYRP(横須賀リサーチパーク)において、ドコモR&Dセンタ内に設置した5G NSA(Non-standalone)基地局から窓ガラスに貼り付けた5枚の透過型メタサーフェスのプロトタイプに 対して電波(28GHz帯)を入射し、屋外の台車に搭載した5G端末との間で、データ通信を実施した。実証実験で用いた透過型メタサーフェスは、建物足元の通信エリアが改善するように、ミリ波帯の電波が建物下方向に曲がるように設計している。なお、同実験はAGC株式会社の協力により実施している。
実証実験成果
同実証実験にて、透過型メタサーフェスにより、窓ガラス単体の場合に比べて、実験エリア(点線枠内)での28GHz帯および2.6GHzの合計スループット(端末スループット)が改善することを確認した。また、実験エリアにおける端末スループットの中央値で、透過型メタサーフェスなしの場合は約28Mbps、透過型メタサーフェスありの場合は約548Mbpsであり、約20倍の端末スループットを実現できていること、さらには90%値で、 透過型メタサーフェスなしの場合は約407Mbps、透過型メタサーフェスありの場合は約861Mbpsであり、約2.1倍の端末スループットを実現できていることも確認できた。
実験期間 | 2022年10月3日(月)~2022年11月18日(金) |
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使用周波数帯 | 28GHz帯(帯域幅:300MHz)および2.6GHz帯(帯域幅:5MHz) |
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