【世界初】NTTが100GHz帯域の超小型ベースバンド増幅器ICモジュールを開発 次世代の高速通信や6G、計測へ応用を切り拓く技術

日本電信電話株式会社(NTT)は、次世代の超高速光通信の実現のため、100GHzの超広帯域性能を持った超小型な増幅器ICモジュールの開発に成功した。また、これはDCブロック機能を内蔵しながらも超小型サイズを実現しているため、小型化が求められている多くのデバイスへの直結が可能となる。ユーザビリティが高く、ケーブルによる損失も大幅に低減可能な100GHz超の小型モジュールは世界で初めてとしている。

この開発成果は、NTTグループが目指すIOWNにおける超高速光通信や、最先端の計測応用を切り拓く技術として期待できる。来年度(2023年度)中の商品化を予定。同社は発表に伴って、報道関係者向けに発表会をオンラインで開催、日本電信電話株式会社 先端集積デバイス研究所 主幹研究員の高橋宏行氏がこの技術と市場性について解説した。




100GHz帯域の超小型ベースバンド増幅器ICモジュール

様々なサービスのオンライン化が爆発的に進み、通信トラフィックは年々増加を続けている。 NTTがめざすIOWN構想の基幹光ネットワークにおいては、将来的に1波長あたり毎秒マルチテラビット(毎秒2テラビット以上)の伝送速度が必要になることが予測されているという。

現在の「実用領域」(青字)と、100GHzを超える次次世代(赤文字:右上)に求められている領域

将来的にこのレベルの通信が必要になるのに対して、それを計測する機器においては既にそのレベルの通信を測定するパーツが求められているのが現状だという。


一方で、このような伝送速度を実現するためには、光送受信器には100GHz級の超広帯域なベースバンド信号を増幅できるベースバンド増幅器ICモジュールが必要となる。小型な増幅器IC モジュールは既に市場で使われているものの、100GHz級の超広帯域に対応した増幅器ICモジュールは大型になってしまい、安定した通信ができてかつ小型化のものは存在しなかった。

増幅器ICモジュールは超広帯域なベースバンド対応になると大型のものになってしまうのが課題だった

これまでNTTは、1mm同軸コネクタ付きの超広帯域ベースバンド増幅器 IC モジュールのプロトタイプを実現し、世界初の毎秒2テラビット超の光伝送の実証実験を進めてきた。しかし、これまでのプロトタイプモジュールはサイズが大きいだけでなく、前後のデバイスとの接続に際して外付けのDCブロック部品が必要になるなど、モジュール自体の小型化とユーザビリティの改善が課題として残っていた(上記画像)。
そこで今回、NTT独自のインジウム・リン系ヘテロ結合バイポーラトランジスタ(InP HBT技術による増幅器ICの高性能化およびパッケージ実装技術の高度化によって、世界で初めて100GHzの超広帯域性能とDCブロック機能集積を両立した超小型な増幅器ICモジュールの開発の実現に成功した。



なお、「ベースバンド信号」とは、通信において送信/受信したい情報そのものの信号のこと。通信ではこのベースバンド信号をキャリア(搬送波)に乗せて伝送する。ベースバンド信号の帯域が広いというのは、伝送できる情報量が多いことを意味する。


InP HBT 技術による超広帯域ベースバンド増幅器 IC

NTT で研究開発を進めてきた「InP HBT技術」による超広帯域ベースバンド増幅器 ICのさらなる高性能化を図り、ブロードなピーキング特性(高周波側の利得を強調する特性)の実現に成功した。このピーキング特性によって、パッケージ実装により生じる高周波信号の損失を補償し、増幅器ICモジュールとしての利得の平坦性(低周波から高周波にかけて一定の増幅率が得られる特性)を担保することが可能となった。

InP HBT 技術によるベースバンド増幅器IC。 a)写真、b)周波数特性


超広帯域・超小型パッケージ実装技術

従来のスレッドオン嵌合型の同軸コネクタではなく、プッシュオン嵌合型の同軸コネクタをインターフェースとして採用し、同軸と内部の高周波基板の接合部の設計に工夫を施すことで、超広帯域特性を担保しながらパッケージの抜本的な小型化を図った。

また、超広帯域特性との両立が困難だったDCブロック機能集積については、精密な高周波設計技術を駆使し、小型な薄層キャパシタを内部の高周波基板上に実装することによって実現している。これらの技術によって、従来と比べて体積比1/10以下の超小型サイズを達成しながら、100GHz以上の超広帯域特性とDCブロック機能集積の両立に成功した。

右下:本増幅器ICモジュールによる 112ギガボーのPAM-4信号の増幅実験結果


今後の展開

この成果について、まずは次世代の超高速光通信や6Gの研究開発を推進する上で重要な役割を担う「最先端の実験・計測器応用」に向けて早期の実用化をめざす。また、中長期的には、ICおよびパッケージ実装技術のさらなる改善を進め、IOWNにおける超高速光送受信器への適用検討を進めていく、としている。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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