省人化だけではないロボットを使った新しい物流・小売スタイルの模索 リテールテック2023

2023年2月28日から3月3日の日程で、東京ビッグサイトで第39回流通情報システム総合展「リテールテックJAPAN 2023」が開催された。人手不足や物流危機、消費者の購買方法の変化など、環境激変中の流通・小売業界向けに課題解決ソリューションを提供するサプライヤーたちによる見本市だ。

店舗での「買い物」が単なる商品購入の役割だけにはとどまらないように、ロボットの役割も単なる省人化だけではない。他のデジタル技術、すなわちIoTやクラウドと組み合わせた新たな買い物スタイルの提案も求められている。こちらでは主にロボットに焦点をあてて紹介する。併催イベント「フランチャイズ・ショー2023」に出展していたTechMagicの「P-Robo」も合わせて紹介する。


東芝テック 自律移動ロボット「FollowSroo(フォロースルー)」

東芝テック「FollowSroo(フォロースルー)」

「加速」をテーマにブースを出展した東芝テック株式会社は、自律移動ロボット「FollowSroo(フォロースルー)」を披露した。移動台車部の上に荷物を置けるスペース、RFIDリーダー、ディスプレイなどが搭載されている。

■ 動画

ブースのデモでは、「商業施設で活躍するカンガルー型ロボット」と紹介されていた。次世代の買い物スタイル、今後のショッピングモールサービスのあり方の提案の一つで、会員カードの顧客情報と連携することで、パーソナライズされた買い物の案内や個別商品のリコメンド、リモート接客ができる。

顔の部分はディスプレイとRFIDリーダー

買い物の案内、クレジットで決済も可能というイメージのデモ

人の後ろをついていくフォローもできるし、案内も可能

また、営業時間終了後は棚卸や巡回などもこなせる。様々な用途にロボットを使うことで稼働率・費用対効果を上げることができる。

■ 動画


フィブイントラロジスティクス 店舗向けAMR「AMI-Bot」

フィブイントラロジスティクス「AMI-Bot」

物流システムメーカーのフィブイントラロジスティクス株式会社は、店舗向けAMRソリューション「AMI-Bot」を出展。大型から中型のスーパーマーケットでの活用を想定した台車を店舗裏から店頭の売り場まで運べるロボットで、障害物を回避しつつ、最短経路を進むことができる。

現在、関東のあるスーパーで実証実験を行っているとのこと。売り場には様々なものが床上に置かれていることが多いが、公開されていた動画を見る限り、かなり狭い場所でも運べるようだ。

■ 動画

主に重量物を運ぶことを想定している。実際のスーパーでは様々な台車が使われていることから、このロボットでは台車を挟み込んで後ろから押すことで搬送する方式を選択。多様な幅の台車を運べるようにした。商品台車の切り離しも自動で行える。

コの字型の治具を使うことで、多様な幅の台車を運べる

このほか、任意の人を追従することや、タッチパネルを使った店舗内の商品検索、来店客を該当の商品棚に案内するなどの買い物サポートも可能とのこと。多用途に用いることができるロボットとしての展開を模索している。


アイシン 商業施設向け自律搬送ロボット「TCRB01」

アイシン 搬送ロボット「TCRB01」

株式会社アイシンは「あいちロボットトランスフォーメーション(ARX)」の枠組みで、「イオンモール常滑」で2023年2月に行ったフードデリバリー実証実験で用いた自律配送ロボット「TCRB01(ティーシーアールビーゼロイチ)」を展示し、実証実験の様子をパネルで紹介した。

トランクを開けたところ

外観は商業施設内でも違和感がないよう配慮されたデザインで、側面にはデジタルサイネージ付き。トランク部分は二段になっている。まだプロトタイプで、この一台しかないとのこと。


FUJI スマートロッカー+AMR「Rally」

FUJI AMRとスマートロッカーの組み合わせ

リテール業界では「ネットで注文、店舗でお渡し」を意味する「BOPIS(ボピス、Buy Online Pick-up In Store)」という仕組みが広がり始めている。ECで注文した商品を店舗でできるだけ人手をかけず、非接触で受け取れるようにするためにはスマートロッカーが必要となる。

電子部品実装機や工作機械を手がける株式会社FUJIは、低床型のAMR((自立走行搬送ロボット)の「Rally」と、スマートロッカー「Quist」を組み合わせたソリューションを参考出展で提案。AMRをスマホで呼び出し、任意の商品が入ったロッカーを開けることができる。館内物流、オフィス内等での活用を想定している。

■ 動画

AMR「Rally」で搬送できる最大可搬重量は400kg。満載のかご車でも運べる。メカナムホイールが使われており小回りが効く。連続稼働時間は3時間。移動速度は4km/h。SIerも必要とせず、簡単導入できることを目指しているという。スマートロッカー「Quist」は常温だけでなく冷蔵・冷凍、薬の受け取りなどへの用途展開を想定している。

スマートロッカーをスマホで認証してドアを開けられる


Cuebus 簡単に設置できる自動倉庫「CUEBUS」

Cuebusの自動倉庫「CUEBUS(キューバス)」

Cuebus(キューバス)株式会社は独自開発している リニアモーターを使ったロボット倉庫「CUEBUS」を複数階構成で出展。既存のロボット倉庫と異なり、同社の「CUEBUS」はAC100Vで動作し、簡易に構築でき、撤去も容易。耐久性も高く低価格で自動倉庫を実現できるためアパレル業界等を対象に、空間効率の高いロボット倉庫として提案している。

■ 動画

今回は上下間を繋ぐためのリフト(エレベーター)は設置されておらず、2階部分と1階部分は独立して動いていたが、同社のショールームでは実際に上下にトレイが動くところも見られるという。
なお、段ボール箱ではなく、ハンガーに吊るしたままの服を運ぶことも可能だ。

リニアモーター付きの「タイル」。この上をトレイが走行する

今回のデモで用いられていたものは、5×5の25タイルを使用。同社独自のアルゴリズムを使った最適化技術により、25タイルのうち22タイルまでトレイを埋めても大丈夫だという。

現状のトレイで運べるものは50kgまで。現在、アパレルなどの軽量物だけではなく、飲料物など、より重量のあるものを収納できるタイプも開発中とのこと。4つ分くらいのサイズで1t運べるもの、パレットも運べるものも、これから開発していく予定だそうだ。大規模な業者と小規模なところの両面から攻める。タイルの自動メンテナンス機能も開発中とのこと。


ソフトバンク AutoStore

ソフトバンクロボティクス「AutoStore」

ソフトバンクロボティクスは自動倉庫「AutoStore」をデモしていた。人件費削減と保管効率向上を実現する高密度自動倉庫ソリューションとして、順調に伸びているようだ。従来倉庫に比べて1/4のスペースで同等の保管能力を実現する。通路や空調なども不要になるため、最大75%のコスト削減をした実績があるという。


シャープ 無線デジタルピッキングシステムと移動ロボットの組み合わせ

Doog社の「サウザー」と無線デジタルピッキングシステムの組み合わせ

シャープはロボティクスソリューションとして、物流倉庫や工場でのピッキング作業で用いる無線デジタルピッキングシステムとロボットを組み合わせたソリューションを紹介していた。

「デジタルピッキング・システム」とは、表示器を使ってピッキング作業をスピーディに間違えないよう行うことを支援するシステム。それを移動できるようにして、固定設備を置くスペースがなかったり、生産ラインの柔軟な変更へ対応するためのソリューションが無線デジタルピッキングシステムだ。ロボットを使えば任意の場所に、システムを丸ごと搬送できる。

ロボットはDoog社の「サウザー」や「メカロン」のほか、Pudu Roboticsの掃除ロボットや搬送ロボット「BellaBot」も合わせて紹介されていた。


TechMagic 全自動パスタ調理ロボット「P-Robo」

TechMagic 全自動パスタ調理ロボット「P-Robo」

「リテールテック2023」と合わせて「フランチャイズ・ショー2023」も開催された。こちらでは多くの飲食チェーンブランドがフランチャイズを募集するなか、調理ロボットを手がけるスタートアップ TechMagicが自動パスタ調理ロボット「P-Robo」を独自に出展していた。「プロント」の新業態「エビノスパゲッティ」東京駅丸ビル店や、TechMagic自体による独自のまぜそば店「Magic Noodle 香味麺房」(恵比寿)に導入されているロボットだ。

■ 動画

1時間あたり最大80食の調理が可能。TechMagicは実際に「P-Robo」をブースで動かして作ったオリジナルまぜそばを試食用に提供。同じく独自開発の券売機との連動や、具体的な金額の入った開業プランなどと合わせて、ロボット活用による省人化をアピールしていた。ロボットを使うことでスタッフのトレーニング等も不要になり、シフト管理も軽減される。同社によれば、ロボット導入による人件費の差額は5年間で2,484万円になるという。

「P-Robo」はオリジナルの券売機と連動する

「香味麺房」のような店舗や、今後導入を進める予定の中華も調理できると紹介していた。ロボットに搭載されているIH機器で可能な「茹でる」、「炒める」などの料理であれば、麻婆豆腐や焼きそば等の調理もできるという。

試食用に提供されていたオリジナルまぜそば。コシがある独特な麺だった

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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