【世界初】NTT、ブロックチェーンで個人間の無線アクセスを安全に共用する実証実験に成功 2030年には80倍になる通信量に対応

NTTは、いたるところに設置された無線アクセス装置を誰でも都度、契約して利用可能とする「ブロックチェーンを用いた個人間の無線アクセス共用技術」の実証実験を実施し、世界で初めて成功したと発表した。
Web3で注目されるブロックチェーンと、無線アクセス技術を組み合わせることで、無線アクセス共用に関するインセンティブやセキュリティ、コストといった課題を解決することが可能となる。

これにより、従来難しかった個人間の無線アクセスの共用が可能となり、これまでは自身の用意した無線LANや契約済のWi-Fiサービスや通信サービスなどのみの利用だったのが、誰でも近くにある無線アクセスに接続して通信を利用することができるようになる。これによって社会全体の設備コストや消費電力の削減などにつながることが想定される。


無線通信のトラフィックは2030年には2020年の80倍に

ITU-Rの報告によると、2030年には2020年時と比較して無線トラフィックが約80倍に増加すると予測されており、将来へ向けて無線のトライフィックはますます増加すると考えらている。トラフィックの増大によるネットワークへの接続できなくなることを避けるため、個々の無線アクセスのさらなる高度化に加え、全ての無線トラフィックを処理するための無線リソースを確保する必要だが、80倍の無線トラフィックを収容する無線アクセス設備を全て用意すると、コストの高騰が課題となる。

そのためには無線のリソースの有効利用が重要だが、従来の無線のアクセスの共有では提供者へのインセンティブや、セキュリティの確保、システム構築に関する負担低減などの課題解決が必要となる。また、通信品質の良い無線アクセスにユーザーが集中するということにが発生すると結果的に全体的は利用効率の低下や通信品質の劣化という課題も生まれる。

NTTの試算によると、東京都23区内では推計で約500万台の無線LANアクセスポイントが稼働しており、土地面積を勘案すると、約20倍の過剰なアクセスポイントが設置されている。その中で余剰となっている約475万台のアクセスポイントを共用することができれば、最小限の無線設備・消費電力で、将来の無線トラフィック増加に対応が可能になるとしている。


ブロックチェーンを用いた無線アクセスの共用

Web3で注目されるブロックチェーンを利用し、無線アクセスと組み合わせることで、様々な個人や企業の持つ無線アクセスを誰でも都度契約し利用可能としており、技術のポイントとして以下の点を挙げている。


・通信契約を通した無線アクセス提供者への契約収入によるインセンティブの確保
・ブロックチェーンの有するセキュリティ機能によるセキュアな共用の実現
・自律分散的なブロックチェーンによる集中制御局を不要とした共用システム構築コストの低減
・ブロックチェーン台帳の情報を活用して、各無線基地局が自律分散的に端末接続数を平滑化し通信品質を向上(無線リソース利用向上技術)

また、実証実験ではブロックチェーンを用いた無線アクセス共用技術を実証した他、無線リソースの利用効率向上の効果も確認した。


実証実験の結果

実証実験では、以下のような通信契約の締結フローを行った。

ブロックチェーンを用いた通信契約締結フローの概要

1:無線端末(UE:User Equipment)は無線信号を観測した周囲の無線基地局(BS:Base Station)のリストと自身のデジタル署名を付与し、通信契約のトランザクションを発行する。(ここでは仮接続したBSにトランザクションを送信しているが、既に通信契約済のBSや本技術以外の通信回線を利用しても構わない。

2:ブロックチェーンネットワーク(NW)上ではデジタル署名を検証することで、本人性確認を行い成りすましを防ぐとともに、要求内容に改ざんなどの不正が無いことを確認する。さらに、UEが送付したBSのリストから各BSの混雑度などを考慮し、適切な接続先(契約先)を決定。この結果をBSおよびUEへ通知。この一連の動作はブロックチェーン上のスマートコントラクトにより実行される。

3:上記2の結果に基づきBS・UE間で通信契約が実行され、BSは通信の提供、UEは対価の支払を実行する。

このような、ブロックチェーンの個人間取引の仕組みを個人間の無線アクセス共用に合わせて実装および実証実験を行ったのは世界初の取り組みであり、通信約締結フローの2における適切な接続先(契約先)の決定を行う部分はNTT独自技術となっている。

なお、本実証実験ではEthereum-PoAを用いて実装したが、他のブロックチェーンプラットフォームを用いても実装は可能としている。


実証実験を行った環境については、上記図の通信契約締結フローを実装し、3台のBSおよび10台のUEを用いた。各BSおよびUEは全て管理者が異なる状態となっている。

ブロックチェーンを用いた個人間の無線アクセス共用技術を用いることにより、様々な管理者の無線アクセスが混在している場合に対して、各UEが都度契約により通信を利用できることを確認した。

さらに、NTT独自の無線リソース利用効率向上技術の効果も確認。単に都度契約によりBS-UE接続を行う場合、受信電力の高い特定のBSに集中接続してしまい、BSの混雑により無線リソースの利用効率が低下し、通信品質が劣化してしまう。

NTT独自の無線リソース利用向上技術では、ブロックチェーン上の通信契約履歴を用いて、各BSのUE接続数を参照することで各BSの混雑状況を把握し、混雑しているBSほど通信契約料を高く、混雑していなければ通信契約料を安くするよう制御する。こうすることで、UEは通信契約料の安いBSを選択するだけで、結果的に混雑が解消され、無線アクセス全体の無線リソース利用効率が向上する。

この技術により、自律分散的にBS接続数を平滑化することが可能になり、無線リソースを有効利用することが可能となる。


実証実験環境と無線リソース利用効率向上技術有無でのBS接続結果


全体のスループットが向上

無線リソース利用効率向上技術の有無における全UEのスループットも示されており、総スループットでは約36Mbps、中央値では約6MBps向上しており、NTT独自の無線リソース利用効率向上技術技術を用いることでUE全体のスループットが向上していることもわかる結果となっている。



今後の展開

実証実験を行った技術を用いることにより、無線設備利用者は利用可能な無線設備の増加による快適性向上、無線設備提供者は共用提供による収入増、社会全体では共用化による無線設備投資・消費電力・電波干渉の低減など、社会全体での様々なメリットにつながることが期待される。

本技術をさらに進めることで、無線アクセス設備の投資コストを削減しながら余剰無線リソースの有効活用を実現することで、エネルギー問題解決への貢献も期待される。、また、災害時に無線アクセスが断たれた際にも本技術を適用することで他無線アクセスへのシームレスな移行が可能となり、災害時においても途切れないネットワークの提供が期待される。

個人間の無線アクセス共用の実現に向けては設備共用に関する法規制との整合など課題はありますが、Web3で期待される、従来の経済原理では実現が難しかった課題解決や無線アクセス提供者へのインセンティブを通した、将来の新たな無線アクセス共用の実現をめざして、NTTは2024年度の技術確立に向けてさらなる検討を推進するとしている。


今後の展望


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ロボスタ編集部

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