堤幸彦監督の新作映画『SINGULA』(シンギュラ)が2023年6月7日、報道関係者向けに公開され、堤幸彦監督、原作・原案を担当した一ノ瀬京介氏、出演者のspi氏が登壇した。
堤幸彦監督といえば、ドラマでは『金田一少年の事件簿』、『ケイゾク』、『TRICK』や『SPEC』シリーズなど、映画では『十二人の死にたい子どもたち』『人魚の眠る家』『イニシエーション・ラブ』『天空の蜂』『望み』など、数々の話題作で知られる奇才。今回の作品もそのぶっとんだ世界観が観るものの脳を劈く劇薬エンターテイメントとなっている。
■映画[SINGULA(シンギュラ)]特報
クラウドファンディングは1週間で目標を突破
この作品は多くの人に届けられるよう、通常の配給ではなくクラウドファンディングを選択した。新しいことに挑戦する舞台でもある「Makuake」で、支援者を募ったところで目標額の500万円を1週間で突破した。現在も支援は募集中で、7月15日(土)まで受け付けている。既に多くの応援コメントも寄せられている。なお、劇場公開の予定は未定だ。
堤監督は「公開日や宣伝方法が決まっている仕事としての作品作りというより、賛同してくれる人と一緒にこの作品を育て、海外を含めてより多くの人に届けたい」と、クラウドファンディングを選択した想いを語った。なお、Makuakeサイトでは、資金の使い道は「日本を含めた各国での上演に向けて、各種宣伝/プロモーションのための費用として使用させていただきます」と記載されている。
マドリード国際映画祭2023で2部門にノミネート
国際映画祭への出展も積極的におこなっていく。既に「マドリード国際映画祭2023」では「外国語映画最優秀男優賞」と「最優秀サウンドデザイン賞」の2部門にノミネートされている。フェスティバルは9月4日~7日まで。結果が楽しみだ。
AI同士が「人類を存続させるか、否か」を討論
『SINGULA』は、AI同士が「人類を存続させるか、否か」を討論したらどうなるのか?を描いた異色作。今年に入りChatGPTの登場など急激にAIが注目される中、高度な対話能力を持ったAIが15体集まり、ディベートバトルロイヤルが幕を開ける。
「ChatGPT」や「Stable Diffusion」など、ジェネレーティブAI(生成AI)が急激に注目されている中、映画のキャッチコピーに「時代への当たり屋か。未来へのテーゼか。」という言葉が踊る。
15体のAIアンドロイドを演じるのは、たった1人
薄暗い部屋に集まったのは、15人のAIキャラクターたち。情報学習能力を持ち、感情はない。AI同士の、人間の未来についてのディベートバトルロイヤルは、規則を守らなければ即シャットダウンというルールのみ。
異色なのはこの発想だけではない。この作品で15体のAIアンドロイドを演じるのは、たった1人、spi氏。しかも全編英語だ(日本語字幕付き)。後ろ姿のシーンなど、誰の言葉かわかるように、翻訳テロップの表示位置が工夫されている。同じ顔で同じスタイルなのでわかりづらいが、よくよく見ていると、性格や知識、意見、方言などが異なり、それぞれに違いがある。
「英語が堪能で芝居が上手い」という観点から、ミュージカル俳優のspi氏が抜擢された。
spi氏は「英語が方言というか地域特性の種類が多く、演じ分けるのに悩みました」と振り返る。15人のキャラクターを色分けで表現し、台本も色分けして、性別はもちろん、仕草や言い回しなどの違いを演じ分けた。
撮影中は「英語の種類の使い分けが難しかった。15人のキャラクターの特徴を考え、さらにそれぞれのキャラを色分けしていた。観ている人が、15人1役を面白く感じるエンターテイメントになるように、と思いながらやっていた」と語った。
また、この映画を鑑賞した家族の感想を聞かれたspi氏は「変な映画だね」って言われたと暴露。場内の笑いを誘った。
「あまりにも志の高い舞台でびっくりした」(堤監督)
映画『SINGULA』の元になっているのは一ノ瀬京介氏の舞台演劇『SINGULAR』。2019年にそれを見た堤監督は「あまりにも志の高い舞台でびっくりした。その直後にお会いして「絶対に映画にした方がいいですよ」と提案した、という。
しかも当初は「海外にも見て欲しいという前提があったので、全編海外で、アイスランドで撮りたいと思ったが、コロナ禍でもあり、さすがに実現性がないなと」。15体をひとりで演じるというアイディアについては「大阪大学の石黒先生が自分そっくりのアンドロイドを創って会話しているのをお台場で見て、”これはすごいな”と驚きました。その影響もあってか、ある日、寝ようとウトウトしていた時に、全員アンドロイドなら、同じ顔、同じ姿でいいじゃないか、という思いが降ってきた」と語った。
AIによるディベートバトルロイヤルという発想
2019年にAIを題材した演劇の戯曲を書いたことについて、一ノ瀬氏は「AIやアンドロイドに興味があって、このジャンルの作品を描きたかった。でも、AI対人間という構図の話はハリウッドを含めて既にたくさん存在していたから、それならばAI対AI、むしろ人間が出てこない話にしようと考えました。そこでAIによるディベートバトルロイヤルの発想が生まれ、そのなるとテーマは「人間と共存するか、滅ぼすか」しかないだろうと」と語った。
一人芝居でありながら、映像では15体のアンドロイドが競演する。堤監督は「影にも注目して欲しい。合成した15体のアンドロイドがいる景色が不自然にならないように影が重ならないようにライティングなどに工夫した」と苦労した点をあげた。
今後は「SINGLA」でのWEB3.0やNFTに関連したイベントも企画したいということだ。
15体のキャラクターを1人が演じ、AIが人間の未来をディベートするショッキングな展開、クラウドファンディングでの支援者募集など、新しい試みが詰まった『SUNGLA』は7月15日(土)まで支援を受付中だ。
なお、ロボスタでは堤監督の単独インタビューを公開。
「新作映画『SINGULA』堤幸彦監督に聞く「進化したAIが普及した未来はユートピアか? ディストピアか?」単独インタビュー」
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。