新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/ポスト5G情報通信システムの開発(委託)」において、富士通は、第5世代移動通信(5G)基地局の無線子局(RU)で、一つのミリ波チップで最大4ビームを多重できる技術を開発。マルチビーム多重(偏波多重を除く)に対応した5G向けミリ波チップの開発は世界で初めてとなる。
これにより、高速大容量を維持したまま、2分の1以下の装置サイズで消費電力を30%削減できるとしている。
ミリ波帯の無線リソース有効利用の期待と課題
5Gシステムが、さまざまな産業で進むデジタルトランスフォーメーション(DX)の基盤としてグローバルに展開されており、将来的には5Gが持つ超低遅延や多数同時接続といった機能を強化したポスト5Gの普及が見込まれており、その移行と普及を円滑に進めることが企業のビジネス発展や市場の活性化、エンドユーザーの利便性向上において重要となっている。
現在の5Gでは、高速かつ大容量通信を実現する手段として、広帯域の周波数割り当てが可能なミリ波の活用に注目が集まっている。
ポスト5Gでは、広帯域であるミリ波帯の無線リソースを有効利用することで、さらなる高速かつ大容量化が期待されている一方で、ミリ波をはじめとする高周波数帯の電波は、障害物で遮蔽(しゃへい)されやすい性質があり、離れた地点間での通信が難しくなる傾向がある。そのため、ミリ波の普及のためには、一つのエリアを多数の無線基地局でカバーする必要があり、RUの小型化や省電力化、コスト低減などが課題となっている。
こうした背景を踏まえ、NEDOの実施する本事業で富士通は、2020年6月から2023年6月まで、ポスト5Gに対応し情報通信システムに活用できるRUを高性能化する技術の開発に取り組んだ。
世界初・マルチビーム多重に対応したチップを開発
事業の成果として、このほど、ミリ波のビームフォーミング(アンテナパネル上のアンテナ素子が発する信号の位相(角度)を制御することで、電波を特定の方向に集中させる技術)において、1チップで複数のビーム多重に対応可能とする技術を開発。マルチビーム多重(偏波多重を除く)に対応した5G向けミリ波チップは世界で初めて(2023年8月28日現在・富士通調べ)となる。
従来のミリ波チップは、一つの入力信号に対して振幅と位相制御を行い、増幅器で増幅する構成となっており、一つのミリ波チップで1ビームを生成していた。一方で、ビーム多重を実現するには、ミリ波チップを複数使用する必要があり、実装面積が大きくなってしまうため、RUが大型化して消費電力も増えるという課題があった。
今回開発した技術では、四つの入力信号を中間周波数(IF)帯回路によって高密度集積し、四つのIF帯入力信号に対してそれぞれ独立した振幅と位相制御を行う。これら四つのIF帯信号を周波数変換回路によってミリ波帯へ変換すると同時に合成し、一本化された合成信号を一つのミリ波帯高出力増幅器で増幅することで、最大4ビーム多重を一つのミリ波チップで実現できる。
今回開発したミリ波チップを使用することで、実装面積を増やすことなく4ビーム多重に対応できるため、高速かつ大容量に対応した、小型で低消費電力のミリ波RUを実現できるとしている。
2分の1以下の装置サイズで消費電力を30%削減
今回開発したミリ波チップを富士通製のRUに適用したところ、従来型のRUを用いて4ビーム多重での電波発射を実施した場合と比較すると、2分の1以下の装置サイズで10Gbps以上の高速かつ大容量通信を実現でき、ミリ波チップ数を削減したことでRU一つあたりの消費電力を従来比で30%削減できることを確認したとしている。
今後の予定
富士通は、2023年8月から今回開発した技術を搭載した基地局装置の開発に取り組み、2024年度中に本事業で開発したビーム多重技術を適用したRUの商用展開をグローバルで開始。その後、基地局の親局(CU/DU)製品にもビーム多重技術を適応し、2025年度よりグローバル提供を開始する。また、通信事業者などユーザーの脱炭素化に加え、ネットワークの高度化に向けて継続して技術開発を行い、次世代通信基盤の早期展開に貢献するとのことだ。