介護人材不足の解消に向けロボホンと対話AIシステム「MICSUS」で介護実証を実施 KDDI、シャープ、日本総研、やさしい手

KDDI、シャープ、日本総研、やさしい手の4社は、2023年11月17日から2023年12月18日まで、対話AIシステム「MICSUS」(Multimodal Interactive Care SUpport System)を「RoBoHoN」に搭載し、介護サービスの実証を実施すると発表した。

4社は今回の実証を通じて、本ロボットによるケアマネジャーなどの業務負荷軽減や高齢者とご家族とのコミュニケーションの活性化への効果を検証し、少子高齢化に伴う介護人材不足の解決に貢献するとしている。

背景・課題

「介護の2025年問題」に向けて、質の高い公共サービスを維持するため、政府も介護DXを推進している。加えて、一人暮らしの高齢者の増加による高齢者の社会からの孤立や、コミュニケーションの不足による健康状態悪化のリスクも課題となっており、高齢者のケア・介護領域におけるきめ細やかな対応の需要が増加するなかで、介護業務を効率化しつつ質を高める具体策が求められている。

KDDIは2022年6月28日から2023年1月28日まで、「MICSUS」を搭載したぬいぐるみ型の専用端末による実証実験を実施し、高齢者の健康状態や生活状況の変化の情報を収集するための面談とその記録業務に要する時間を約7割削減することに成功。一方で、端末に対する関心度の低下、雑談内容の充実度、会話内容を家族に共有できないことなどが課題だった。


対話履歴と対話要約

本実証では、楽しい対話と愛らしい動きで日常に明るく寄り添う「RoBoHoN」に「MICSUS」を搭載することで、「MICSUS」による言語コミュニケーションだけでなく、「RoBoHoN」による身ぶり手ぶりなどの非言語コミュニケーションを組み合わせて効果を検証。高齢者の日常生活に溶け込む身近な存在になることで、ロボットへの関心維持および高齢者のコミュニケーション不足解消を図る。

また、従来の「MICSUS」に「雑談機能」「対話履歴と対話要約の共有機能」「注意すべき回答があった際の警告機能」を追加。介護業務に必要な情報だけでなく、雑談を通じた高齢者の日常の関心など、情報収集量の増加を図る。また、健康状態や日常の関心などをご家族へ共有することで、離れた場所で暮らしている家族と高齢者とのコミュニケーションを活性化する。さらに、健康に関する注意すべき回答があった際は専用サイトで警告画面が出るため、不測の事態があった際の迅速な対応が可能となる。

本実証について

内容

警告画面

高齢者の普段の生活リズムに合わせ本ロボットの発話時刻をケアマネジャーなどが事前に設定し、指定時刻になると本ロボットから高齢者へ話しかけ、健康状態のヒアリングやイベントの案内などを実施する。

発話時刻以外でも高齢者から本ロボットに呼びかけることで雑談が可能。健康状態だけでなく、雑談の会話内容もケアマネジャーと家族に共有し、家族の方が健康状態だけでなく高齢者の興味・関心なども把握できるため、家族と高齢者とのコミュニケーションの活性化を図る。

実施日

2023年11月17日~12月18日

実施場所/対象

やさしい手が運営している東京都内のサービス付き高齢者向け住宅、棟外利用者 計10名

各社の役割

KDDI 全体とりまとめ、MICSUSの運用保守
シャープ RoBoHoNの提供・運用保守、RoBoHoN用MICSUSアプリ開発
日本総研 実証の設計、監修
やさしい手 実証環境の提供


「MICSUS」について

「MICSUS」は内閣府総合科学技術・イノベーション会議の「SIP第2期/ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間基盤技術」(管理法人:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の1テーマである「高度マルチモーダル対話処理技術」としてKDDI、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)、NECソリューションイノベータが採択され、日本総研の協力を得て開発した、介護モニタリングの一部を代替するマルチモーダル音声対話システム。

高齢者の健康状態や生活状況の変化に関して、ケアマネジャーに代わって「MICSUS」が聞き取ります。聞き取る内容は、厚生労働省の補助事業の一環で日本総研が調査研究事業を実施している「適切なケアマネジメント手法」に準拠している。

大量のWeb文書 (350GB) と本プロジェクトで構築した300万件の高品質な言語資源データで大規模言語モデルを学習させ、ユーザー発話の意味解釈を高度化し、遠まわしなユーザー発話にも対応可能な自然言語処理を実現している。また、自然言語処理の軽量化にも成功し、深層学習用プロセッサ (GPU・NVIDIA V100) 1枚で5,000名のユーザーとの同時対話に対応可能となっており、画像や音声のマルチモーダルなセンシング情報 (表情・音韻的特徴・うなずき) を総合的に考慮し、感情の表出が認められてから0.1秒以内にユーザーの感情を推定する。

MICSUSが聞き取った内容は、ツールを用いて時間場所を問わず簡易に確認・修正可能なうえ、ケアマネジャーが把握したい情報が盛り込まれており、モニタリング業務の作業効率向上が見込める。

モニタリングのための質問とWeb情報やニュース記事を基にした雑学対話とをシームレスに切り替えることができ、雑学対話では、高齢者の応答内容に関して新規情報を含んだ応答を返すことで高齢者の関心を引きつけ、飽きずに継続利用することでコミュニケーション不足の解消に寄与することが期待できる。

基本ケア (疾患や状態によらず、共通して重視すべき事項) に基づいた対話が可能なため、ケアマネジャーのモニタリング用途だけでなく、高齢者の見守りなど広い用途にも応用可能となっており、家族はスマートフォンなどから高齢者と本ロボットの日々の対話履歴をチャット形式で確認することができる。また、対話の要約を確認できることでより気になる項目を気軽に確認することができるようになっている。

介護事業者のケアマネジャーなどには対話履歴に加えて、高齢者と本ロボットの対話の中で健康に関する注意すべき回答があった際に画面上でアラートを発出する機能を追加。これにより、毎日対話の履歴すべてを確認する時間が無くとも注意すべき項目をすぐに確認することが可能となっている。

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ロボスタ編集部

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