NEC モバイル通信向け「高精度QoE予測技術」を開発 大規模言語モデル(LLM:生成AI)と映像認識AIも活用 自動運転やドローン飛行などに

NECは、コネクティッドカーやドローンなど、移動体に安定したモバイル通信の接続先を予測する「高精度QoE予測技術」を開発した。QoEとはサービスに対するユーザの満足度を示す指標で、Quality of Experienceの略。
スマホやタブレット、携帯電話などのモバイル通信では、移動中に接続中の基地局が圏外になる前に、最適な基地局に切り換えて接続する「ハンドオーバー」が自動で行われている。現在は、端末周辺の電波強度の測定結果などに基づき基地局が接続先を判断している。様々な発生契機があり、移動中だけではなく、立ち止まって通信している状態でもハンドオーバーが発生する場合もある。

今回NECが発表した技術は、不必要なハンドオーバーを最小限に抑えて、ハンドオーバー時の通信品質劣化を低減することができる。また、基地局などの通信機器の消費電力も抑制するため、環境負荷低減にもなる。
更に特徴のひとつに、映像認識AIと大規模言語モデル(LLM)を組み合わせ、移動体がおかれた環境を映像認識AIで分析し、渋滞や建物の密集状況などを文章化し、LLMで総合的に文脈理解することで、これから先に起こるであろうことを判断して移動体に最適な基地局を提案する機能がある。
同社は、この技術を安心・安全・効率的なモビリティ社会を実現する技術として活用していく考えだ。


不必要なハンドオーバーを抑えて、高品質なモバイル通信を

モビリティ市場では、コネクテッド化、安全運転支援システムの高度化、自動運転の実用化が進められていて、これらを実現するためには、安心や安全を確保するためにアプリケーションの高精度な品質とともに、高信頼に保つモバイル通信ネットワークが重要とされている。
同社は現在発生する、移動体に対するモバイルネットワークの通信品質低下が、移動体が通信する基地局の切り替え(ハンドオーバー)が不適切に行われることに起因することに注目した。これを抑えるため、不必要なハンドオーバーを抑制し、高精度なQoE予測技術の開発に取り組んできた。


この技術の特長

高精度QoE予測技術はマルチモーダルAI技術により、モバイルネットワークの通信情報と移動体の映像情報から得られる通信ログや動画などのデータから、移動体のアプリケーション品質を高品質に維持できるネットワークまたは基地局を高精度に予測する技術。これにより、効率的なネットワーク選択、基地局のセル選択、そして高精度な運転支援等が可能になる。

この技術の活用イメージ


1.移動体に最適な新しい評価基準

移動体の映像品質やモバイルネットワークの通信品質は移動に伴って変動するため、国際標準化団体である国際電気通信連合(ITU)で検討されている車両の遠隔監視・遠隔制御を行うシナリオのQoE(Tele-operated Driving QoE、以下 ToD QoE)で算出したスコアは実際のQoEよりも高く評価されることがあり、実態に即していないという課題があった。
そこでこの技術では映像・通信品質の時間変動量がQoEに与える影響をスコア化してToD QoEを再計算することで移動体に最適な評価基準を設定し、高精度で現実に則したQoE予測を実現する。


2.最新のAI技術を用いた高精度な環境分析

移動体の走行環境や天候などの周囲の環境状況によってモバイルネットワークの無線通信品質は変化するため、移動体に対して高い通信品質を維持することが難しいという課題があった。そこで、映像認識AIと大規模言語モデル(LLM)を組み合わせ、ドライブレコーダーなどの映像から走行環境や移動状況および運転特性を理解する技術(以下 本AI技術)を取り入れる。映像やセンサー・データなどから走行環境や運転操作を分析し、燃費向上や走行中のCO2排出量の削減、事故率の軽減に向けた運転習慣の改善ポイントをLLMを用いて言語化し、運転者にフィードバックすることで運転習慣の変容を促す。また、QoE予測結果に基づいて通信品質がより安定する走行経路を提案する。
こうしたAI技術によって、移動体がおかれた環境を映像認識AIで分析し、渋滞や建物の密集状況などを文章化し、LLMで総合的に文脈理解することで、これから先に起こるであろうことを判断して移動体に最適な基地局を提案することが可能となるという。結果、移動体ごとに異なる複雑な環境状況にも対応したQoE予測を高い精度で実現するしくみ。
この技術の関連記事「【世界初】NECが映像認識AI×LLMで動画から説明文章を自動生成する技術を開発 ドライブレコーダー動画等に活用


3.アプリケーションごとに最適化されたハンドオーバー制御

モバイルネットワークでは、一般的には無線通信品質に基づいて基地局をハンドオーバーしているが、モビリティの遠隔監視や遠隔制御のようにアプリケーションごとにデータサイズや通信時間が異なる場合、データ通信中のハンドオーバーによって通信応答性能が低下しアプリケーションの品質を維持できなくなる課題があった。そこでこの技術では、通信データ特性とQoEの予測結果からアプリケーションに必要なQoEを満たせないセルを特定し、RAN側に情報を提供することによって、通信途中に不必要なハンドオーバーが発生する状況を回避し、高品質なモバイル通信を実現する。


今後の展開

NECは2024年度内に、この技術を用いた実証実験を行う予定。その後も開発を進め、QoE分析・制御装置として、2025年度内に実用化することを目指す。さらに、映像認識AIとLLMを組み合わせた本AI技術の応用ソリューションとして、運転操作の滑らかさを基準とした運転支援ソリューションを提供予定。

なお、NECは本技術をインターネットテクノロジーのイベント「Interop Tokyo 2024」(会期:2024年6月12日(水)~6月14日(金)、会場:幕張メッセ)で展示する。

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ロボスタ編集部

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