ソフトバンクとHonda 数秒先の事故を予測してクルマに通知する実証実験に成功 コネクテッドカーとV2X、デジタルツイン活用

全世界の交通事故死者数は119万人/年にのぼる。ソフトバンク株式会社は、本田技研工業と本田技術研究所(Honda)と共同で、コネクテッドカーとセルラーV2X、デジタルツインを活用し、車両や路側センサーなどの交通インフラと情報連携して、数秒先の交通事故を予測し、走行中のクルマにリスクを通知することで、事故を未然に防ぐ実証実験を行なった。その結果、事故の回避に繋がることが期待できる成果を得ることができた。


この実証実験は、安全で安心して移動できる社会の実現を目指し、セルラーV2Xを活用して、車両と交通インフラが情報連携し、事故リスクの予測と通知を行うユースケースの検証をおこなったもので、2024年6月に完了。

検証は、中日本高速道路株式会社(NEXCO中日本)が新東名高速道路の建設中区間で行っている「高速道路の自動運転時代に向けた路車協調実証実験」の一環で実施したもの。

■セルラーV2Xを活用した車両や交通インフラの情報連携による事故リスクの予測と通知に成功


数秒先の事故を予測してクルマに通知


二輪車とクルマの接触事故を想定した検証

今回は、高速道路を二輪車が走行している環境で、運転手の不注意などにより、急な車線変更を行ってしまい、周囲の車両にリスクが及ぶシーンを想定して検証を行った。


具体的には、二輪車(コネクテッドカー)とその前方を走行する車両(非コネクテッドカー)との車間距離が小さくなっていく場合に、二輪車は前方に近付く車両を避けるために車線変更をしようとする。


しかし、隣の車線には斜め後方に別の車両(コネクテッドカー)が迫っていて、それを見落としたまま車線変更を行うと、二輪車と隣接車線後方の車両との衝突事故に繋がったり、隣の車線の後方車両の急ブレーキなどをおこなうリスクが発生するケースが想定される。


これらの状況に対して、LTEや5G(第5世代移動通信システム)のセルラーV2Xを活用することで、数秒先の運転手の行動を予測・・。


リスクの高い行動を起こす前にコネクテッドカーに対して適切な情報通知を行なう。


情報を受けて、斜め後方のクルマは二輪車に注意し、減速して事故を回避。




セルラーV2Xとデジタルツインを活用

今回の検証では、ソフトバンクはセルラーV2X環境の提供に加えて、道路全体の交通状況を集約するための情報連携プラットフォームを構築。この情報連携プラットフォームは、コネクテッドカーの位置・速度情報、車両情報に加えて、路側センサーから観測された非コネクテッドカーの位置・速度情報も集約している。


一方で、この情報連携プラットフォームには、さまざまな情報元からのデータが集約されるため、粒度や精度、形式などが統一されていないという課題があった。この課題を解決するため、情報連携プラットフォーム上でソフトバンク独自の補正・ひも付けロジックを適用することで、各交通参加者の位置を一意に特定可能なデジタルツインをリアルタイムに生成した。これにより、コネクテッドカーと路側センサーで二重に観測されたデータを適切に統合し、現実と同様に物体を認識することを実現した。


Honda「リスクアルゴリズム」と連携、事故リスクを通知

また、この情報連携プラットフォームからリアルタイムに配信される特定できる交通参加者情報を基に、Hondaが研究を行っている「リスクアルゴリズム」が数秒先の行動について予測した。この「リスクアルゴリズム」でリスクがあると判定された場合に、コネクテッドカーに対して適切なタイミングで情報通知が行われることで、運転手がリスクの予兆を認識して事故を未然に回避することが可能なことが確認できた。

この検証によって、セルラーV2Xを活用して、コネクテッドカーや高速道路に設置されている路側センサーから得た周辺の車両情報を集約し、デジタルツインで再現することで、数秒先の行動を予測して事故リスクを検知、その情報をコネクテッドカーへ通知することに成功した。
事故リスクを適切なタイミングで走行中のクメマに通知することで、コネクテッドカーや二輪車、非コネクテッドカーなどの多様な車両が走行する環境でも、運転手が事故を未然に回避して安全に運転できることに繋がる。



事故を未然に防ぐための技術を模索

次世代モビリティーの実用化に向けた取り組みが加速する中、セルラーV2Xなどの通信技術を活用して、人や自動車などの交通参加者と道路などの交通インフラがリアルタイムかつ相互に情報のやりとりを行うことへの期待が高まっている。
特に交通事故における死亡者は、二輪車を含めた交通弱者が7割を占めており、ソフトバンクとHondaは、交通弱者に関わる事故を未然に防ぐための技術要件の抽出や課題の発掘を行う技術検証に取り組んでいる。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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