NEDOの事業においてソフトバンクが遅延制約下でスループットを最大化するシステムを開発 自動運転などへの応用に期待

ソフトバンクは、NEDOの委託事業「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」において、産総研と共同でポスト5G時代に求められるMEC/クラウド環境を用いた分散処理システムで、遅延制約を満たすと同時に、スループットを最大化するためのアプリケーションを構成するコンポーネントの最適配置を動的に行うシステムを開発。本事業のユースケースをV2Xとし、その想定要件である遅延制約の目標を25ms(1ms:1000分の1秒)以下で検証を行った結果、14.8msでの処理を達成し、エッジのみで処理した場合に比べ、2倍の実効スループットを達成した。

今回本事業で開発したシステムのプラットフォームは、オープンなインターフェースとして、5Gデジタルサービスの開発・運用を可能にする環境の提供を想定しており、今後、5GデバイスやMECを用いた実証実験を通して、自動運転や工場のスマート化などのユースケースに関わる実用化検証を行う予定だ。

背景

ポスト5G時代においては、超低遅延、多数同時接続といった5Gの機能の強化や、近年の急速な人工知能の発展により、さまざまな場所や環境で情報を収集して、リアルタイムにデータを処理する需要が拡大し、IoTデバイスが計算資源へ行うリクエスト数が増大することが見込まれている。そのため、低遅延を維持しつつ、大量のリクエストを処理するための基盤技術が必要とされている。

しかし、従来のクラウドとデバイスを用いた処理システムでは、5Gネットワークを用いてもIoTデバイスからクラウドまでは通信遅延が大きく、データを応答性の高い速度(低遅延)で処理することは困難である。それに対して、近年ではMECなどのデバイス近傍の拠点を生かしたエッジコンピューティング技術を用いて低遅延でデータの処理を行うための技術開発が進められてはいるが、MECの限られた計算資源だけでは大量のIoTデバイスからのリクエストを処理することが困難になることが予測されている。

したがって、クラウド資源も利用しトータルでアプリケーションを構成する一つの機能であるコンポーネントを最適配置することにより、低遅延かつ、スループットを最大化する技術が求められる

こうした背景を踏まえ、NEDOの「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」において、2020年10月から2023年10月まで、ソフトバンクは、産総研と共同でポスト5Gに対応しクラウドやMECなどのネットワーク資源が協調してデータ処理を行うことで、処理能力のスケーラブルな拡張を可能にし、低遅延性を確保しながら大規模なデータ処理を実現するシステムの開発に取り組んだ。

従来のIoTデバイスとクラウドのみを想定した分散システムには存在しない、MECも含めたネットワーク環境における分散処理において、今回開発した独自配置アルゴリズムを通じて計算資源の管理手法を明らかにし、MECの有用性を定量的に検証し、MECを適切に利用することで、従来よりも1桁小さい遅延処理を目指した。

今回の成果

1:1アプリケーションのコンポーネントの自動最適配置を行うシステム開発


今回、自動的に遅延制約を満たしつつ大規模な処理に対応するアプリケーションのコンポーネントを最適に配置するためのシステム(以下「本システム」)を開発。本システムは、5Gシステムからのネットワークの情報とMECやクラウドの計算資源に関する情報をリアルタイムに監視・取得し、その状況に応じた、アプリケーションを構成する複数のコンポーネントの最適配置解を計算し、その結果に基づき、コンポーネントを動的に配置する。最適配置解の計算については、独自のアルゴリズムを開発。今回開発したアルゴリズムは、アプリケーションおよび計算機の特性や性能を厳密に計算し、アプリケーションからの遅延要求を満たす中で、最大のスループットを達成するコンポーネントの配置解を導出する。このアルゴリズムを用いたシステムにおいて、ネットワークの状態変化や計算資源の状況に応じて満たすべき遅延制約やスループットを確保しながら、動的にコンポーネントの配置解を導き出すことを確認した。

2:最適配置の有効性確認


今回開発したシステムの特長を生かすため、低遅延・多数同時接続・広域性を必要とするユースケースに鑑み、車両とさまざまなものとの間の通信や連携を行う技術であるV2Xによる自動車の衝突回避支援を想定したシミュレーションを実施。

シミュレーションにおいては疑似的なV2Xアプリケーションを開発し、ネットワークの状態や計算資源で疑似的なポスト5G環境を構築した上で、最適配置の有効性について確認を行った。V2Xに求められる遅延制約を25msと設定し検証した結果、クラウド(1番デバイスから遠い計算資源)にのみ配置した時では満たせない25ms以下である14.8msを達成し、ファーエッジ(1番デバイス近傍の計算資源)のみにコンポーネントを配置した場合に比べ、実効スループットが2倍になることを確認した。

今後の予定

ソフトバンクは、各領域の産業活性化やデジタルライフラインの実現に向けて一翼を担う技術として本システムを推進していく。そのため、本システムのプラットフォームは、オープンなインターフェースとして、5Gデジタルサービスの開発・運用が可能な環境の提供を想定している。

今後は、学会発表での発信や、ソフトバンク5Gコンソーシアムに参画するパートナー企業との連携も含めた5GデバイスやMECを用いた実証実験を通して、自動運転や工場のスマート化などのユースケースに関わる実用化検証を行う予定。
また、NEDOは、本事業をはじめ、ポスト5Gに対応した情報通信システムの中核となる技術の研究開発を今後も推進し、日本のポスト5G情報通信システムの構築・製造基盤強化に貢献するとしている。

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ロボスタ編集部

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