ソフトバンク株式会社は、米国バージニア州に本社を置く AeroVironment社と米国国防総省が2024年8月上旬に米国ニューメキシコ州で行った実証実験において、ソフトバンクの成層圏通信プラットフォーム「HAPS」向け大型無人航空機「Sunglider」(サングライダー)が成層圏飛行に成功したことを発表した。
「HAPS」(ハップス)は、High Altitude Platform Stationの略称で、成層圏を飛ぶ基地局を使って広域な無線通信サービスを提供するもの。ソフトバンクやNTTグループらが将来の商用サービス化に向けてそれぞれ開発をおこなっている。
なお、ソフトバンクはNEDOの「経済安全保障重要技術育成プログラム/高高度無人機による海洋状況把握技術の開発・実証」に採択され、「HAPS用高エネルギー密度電池パック」と「高効率発電が可能な太陽電池」の研究開発をおこなっていることも2024年9月に発表している。
HAPS向け大型無人航空機「Sunglider」が成層圏を飛行
今回、飛行に成功したHAPS向け大型無人航空機「Sunglider」の最大の特長は、翼幅78mと、他のHAPS向け無人航空機と比較しても大型であること。75kgまでの通信ペイロードを搭載することができ、高速かつ大容量のモバイル通信を安定的に提供できることが特長。この実証実験で使用した機体は、構造面や機能面において、前の機体からさまざまな性能を向上させた改良版となっている。
■2024年の「Sunglider」成層圏飛行(Sunglider’s 2024 Flight in the Stratosphere)|HAPS
今回は、ソフトバンクの機体開発パートナーであるAeroVironmentが、ソフトバンクと共同開発した「Sunglider」をこの実証実験で使用した。「Sunglider」のパフォーマンスは米国国防総省の実証実験の要件を満たし、ソフトバンクは今後の機体開発に向けてさまざまな知見を得たとしている。
この実証実験を通して、最新機の性能向上を確認できたことから、ソフトバンクは今後、これらの実証データなどを機体開発に活用し、さらなる改良を図っていく考えだ。
ちなみに参考情報としては、NTTグループはエアバスグループと連携し、2026年の実用化を目指している。機体の「Zephyr」は幅25m、重量75kg、ソフトバンクの「Sunglider」と比べて幅は約1/3で、HAPSとしては比較的小型となっている。(関連記事:「実用化はNTTが2026年、ソフトバンク2027年以降、6G空飛ぶ基地局「HAPS」両社の特徴と実証実績を比較 衛星通信との違いを解説」)
HAPS用高エネルギー密度電池パック等の開発も
ソフトバンクは、2024年9月にNEDOの「経済安全保障重要技術育成プログラム/高高度無人機による海洋状況把握技術の開発・実証」に採択されたことを発表している。
HAPSでは、日中は機体表面に搭載した太陽電池により発電した電力を、夜間は日中に電池パックに蓄えた電力を動力源として成層圏を飛行する。現在は、低緯度地域での長期航行を中心に実証が進められているが、ヨーロッパや日本のような高緯度地域になるほど、冬季の日照時間が短くなるため、通年での長期航行に課題が生じるという。これらの課題解決には、電力消費量に関わる機体重量を低減するために、機体重量の大部分を占める電池パックや太陽電池の軽量化に加え、太陽電池の発電効率を高めることが求められる。
電池パックの軽量化には、リチウムイオン二次電池よりも重量や体積を削減できる「リチウム金属電池」のような「重量エネルギー密度(Wh/kg)が高い次世代電池セル」の性能を把握し、電池パック化する技術が必要となる。また、太陽電池の軽量化と高効率化には、新型超高効率低コスト太陽電池の開発と活用、地上と太陽光スペクトルが異なる成層圏の環境や極低温下での太陽電池のチューニング、使用部材の薄型化および軽量化が重要となってくる。
ソフトバンクは、日本のような高緯度地域におけるHAPSの長期航行の実現に向けて、必要不可欠な動力要素技術である電池パックおよび太陽電池の研究開発を視野に入れ、開発要素、達成目標の抽出を行う「フィジビリティスタディ」を実施し、HAPSの早期実用化を目指す考えだ。
ソフトバンクCEO宮川氏のコメント
ソフトバンクの代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの宮川潤一氏は、今回の成層圏飛行の成功に伴い、次のようにコメントしている。
宮川潤一氏
「ソフトバンクは、世界に先駆けて2017年からHAPSの取り組みを開始し、研究開発や実証実験、標準化活動などにおいて業界をリードしています。機体開発については、パートナーであるAeroVironmentと協力し、世界最大規模のHAPS向けの機体となる『Sunglider』の開発に取り組んできました。われわれが目指すHAPSは、大型機体だからこそ実現できる高速・大容量、高品質かつ安定的な通信サービスです。本実証実験を通して『Sunglider』の大幅な性能向上を検証でき、この機体が持つ高いポテンシャルの確認ができたことを、非常にうれしく思います。今後は、さらなる性能向上はもちろんのこと、長期間の滞空や光無線通信の実現に向けても挑戦を進めるなど、今回の成果を踏まえて、商用化に向けた取り組みを加速していきます」