NTTドコモと株式会社Space Compassは、エアバス・ディフェンス&スペース(エアバス)、AALTO HAPS Limited(AALTO)と、高高度プラットフォーム「HAPS」の早期商用化を目的とした資本業務提携に合意したことを発表した。2026年に商用化を予定している。
なお、Space Compassは2023年7月に設立した NTTとスカパーJSATの合弁会社。
「HAPS」とは空飛ぶ通信基地局
「HAPS」は、High Altitude Platform Stationの略称で、成層圏をグライダー形状の無人航空機(飛行体)で、長期間飛行しながら無線通信基地局となるプラットフォーム。エアバスはHAPSの開発に2013年から携わっており、エアバス子会社のAALTO社が研究開発をしているHAPS「Zephyr」を採用する予定。
NTTドコモとSpace Compassが主導し、みずほ銀行および日本政策投資銀行が参画するコンソーシアム、株式会社HAPS JAPANを通じて、AALTOに対し最大1億ドルを出資する。この出資によって、AALTOの商用ロードマップ実現を支援し、日本における2026年のHAPSサービスの提供開始とグローバル展開をめざす。
宇宙ビジネス分野におけるブランド「NTT C89」
NTTは6月3日、宇宙ビジネス分野におけるブランド「NTT C89」を立ち上げることを発表。島田社長が登壇し、宇宙ビジネスを加速する衛星やHAPS通信などを本格展開していくことを発表している。今回のNTTドコモとSpace CompassによるHAPSビジネスの展開もその一環だ。
HAPSと衛星通信の違い
NTTドコモなどは、「Starlink」など衛星通信技術を活用したサービスを既に商用化している。衛星通信には地上から距離の遠い(高度36,000kmの静止軌道)「GEO」、1,000km内の低軌道衛星「LEO」がある。一方「HAPS」は地上約20km上空の成層圏を数か月に渡って無着陸で飛行し、地上への通信・観測サービスの提供を行う無人飛行体(グライダー形状の航空機)。
GEOやLEOなどの衛星通信は、地上からの距離が遠いため、通信のやりとりに時間がかかり低速通信で遅延も大きい。HAPSは遅延が少なく、スマートフォン等と直接通信が可能というメリットがある。ただし、高度の高いGEOやLEOはカバー範囲で優れている。すなわち、一長一短があり、共存していく技術と考えられている。
海上や山間部など、通信困難な地域をHAPSでカバー
「HAPS」を利用することで、通信環境が整っていない(通信基地局が設置されていない)空、山間部、海上等でも、端末との高速大容量・低遅延の直接通信が可能となる。今回の発表では小型の無人航空機にリピーター(中継機器)を搭載し、上空から100km圏内の基地局と繋ぎ、スマートフォンなどの通信機器とHAPSを直接経由して通信することが想定されている(専用の通信端末が不要)。ドコモは、最終的には地上の基地局と、成層圏基地局(HAPS)とのモバイル通信をシームレスに行えるようにしたい考えも示唆している。
これにより、海上の船舶や離島、山岳部や山頂など、通信機器が圏外の地域でもHAPSによる通信が可能になるほか、災害時に停電となっている被災地との通信も即時に行うことが期待できる。
また、災害時の被災状況のリアルタイム観測や送電線監視保守業務などにおける長期間の定点観測も、高精細映像で提供することが可能になる。
HAPS「Zephyr」とは
AALTOが製造および運用するHAPS「Zephyr」は、2022年に無人航空機として世界最長となる64日間の滞空飛行を実現するなど、高度な航空技術を実証済みだ。NTTドコモとはこの実証実験と同程度の緯度に位置する日本の南側を早期サービス対象として研究を進める。その後、日本の北側の地域をサービス対象に広げていく考えだ。
機体は幅25m、重量75kgと、HAPSとしては比較的小型だ(ソフトバンクが開発しているHAPS「Sunglider」の約1/3のサイズ)。その分、ペイロードも小さく、搭載できる通信機器はリピーター(中継機器)や小型の地球観測機器に限られる。とはいえ、既に連続64日間の飛行実績を2022年に達成し、信頼性も高い。
また、この技術に加えて、NTTドコモの地上ネットワークの専門知識と、エアバスの高度な観測ソリューションを組み合わせ、HAPSベースの非地上ネットワークにおいて日本が主導的な地位を握ることが可能としている。
この出資では、AALTOとNTTドコモ、Space Compassの長年にわたる協力関係をさらに深めるもの。この出資に合わせて、今後数年間にわたる日本、アジアでの商用パートナーシップ契約を締結し、引き続き、各社共同でHAPS事業を推進していくとしている。
ソフトバンク、成層圏を飛ぶ通信プラットフォーム「HAPS」の通信容量を最大化する「エリア最適化技術」の実証実験に成功
ソフトバンク、成層圏を飛ぶ通信プラットフォーム「HAPS」の通信容量を最大化する「エリア最適化技術」の実証実験に成功
ドコモとエアバス、成層圏のHAPSと地上でスマホ向け電波伝搬実験に成功 最大約140kmの長距離通信も
ドコモが5G高度化/6Gへの取り組みを報道向けに公開 「MWC 2021」の展示技術を「docomo Special Showcase in Tokyo」で
「NTT C89」ウェブサイト
ABOUT THE AUTHOR /
神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。