ドコモとエアバス、成層圏のHAPSと地上でスマホ向け電波伝搬実験に成功 最大約140kmの長距離通信も

株式会社NTTドコモ(以下、ドコモ)とエアバスは、高度約20キロメートルの成層圏を飛ぶ高高度無人機(HAPS)「ゼファー(Zephyr) S」を用いて、成層圏から地上の受信アンテナへのUHF帯(450MHz および 2GHz 帯)の電波伝搬測定実験を2021年8月25日(水)から2021年9月13日(月)まで実施したことを発表した。

実証実験期間のうち、成層圏での滞空日数は18日間。HAPSから送信した電波の伝搬状況を測定・分析することにより、成層圏から地上にあるスマートフォンなどのデバイスへの通信サービスの提供の実現可能性を実証した。同実証実験で得られた結果をもとに、ドコモとエアバスは今後通信エリア化が難しい山間部や離島、海上などへの通信サービスの提供を可能にすることを目指す。なお、今回の伝搬試験は2021年11月16日から4日間一般公開(オンライン)する「NTT R&D FORUM Road to IOWN 2021」でも紹介予定。


成層圏からスマートフォンに通信サービスを提供可能に

5Gのさらなる高度化、および6Gに向けた取り組みとして、空・海などを含むあらゆる場所に通信網を拡大する「カバレッジ拡張」の検討が世界的に進められており、基地局設備などを搭載して成層圏を飛行する HAPS を用いてネットワークを構築する非地上ネットワーク(Non Terrestrial Network)技術が期待されている。成層圏を飛行するHAPSによるネットワーク構築は空・海へのカバレッジのほかにも、災害対策やイベント会場など人が密集する場所での通信容量確保、建設現場での重機の遠隔操作などに有効であると考えられている。

そこで、ドコモとエアバスはエアバスのHAPS「ゼファー(Zephyr) S」を飛行させ、スマートフォン向けの通信に利用されている2GHz帯の周波数を用いて、成層圏と地上間での電波の伝搬特性を測定した。成層圏を飛行するHAPSに搭載された無線機と地上のアンテナとの直接接続を行い、通信距離や気象条件などさまざまな条件下で、電波の減衰特性の分析を行った。加えて、低速ながら長距離の通信が可能となる低い周波数(450MHz)を使用した、約140kmに及ぶ長距離接続の伝搬測定にも成功した。

以上の試験内容により、UHF帯電波を用いるHAPSとスマートフォンの直接通信が最大約140kmの距離にわたり、十分な通信品質を実現可能であることを確認した。

エアバス社HAPS「ゼファー(Zephyr) S」離陸時の様子

さらに、今回の伝搬試験ではHAPSが最高到達高度76,100ft(約23.195km)を達成。これは国際航空連盟(FAI)公式の世界記録となる。18日に及ぶフライト実績も合わせ、成層圏の極低温な環境下でもHAPSによる持続的なネットワーク提供が可能であることを実証した。


実証実験についてのコメント

ドコモ 6G-IOWN 推進部長である中村 武宏氏は、今回の実証試験について次のようにコメントした。

ドコモでは、5G evolution & 6G におけるカバレッジ拡張に向け、HAPS は有望なソリューションになると考えています。今回の測定実験では長期間にわたる HAPS を用いた伝搬測定により、特にスマートフォンなどへの直接通信に対する HAPSの有効性を示すことができました。この結果を基に、5G evolution & 6G における HAPS の実用化に向けた検討をエアバス様とさらに推し進めたいと思います

エアバスのノースアジア地域代表およびエアバス・ジャパン株式会社代表取締役社長であるステファン・ジヌー氏は次のようにコメントした。

「世界では何十億もの人々が、ネットワークへの接続が不安定な環境にいたり、あるいは接続できない状況による問題を抱えています。今回の実証実験によって、成層圏を活用したゼファーがこの格差を解消し、基地局やインフラ整備の必要なく、デバイスに直接接続できることが証明されました」


実証実験の詳細

今回の実証試験はアメリカのアリゾナ州ユマにて、2021年8月25日(水)〜2021年9月13日(月)の20日間実施した。成層圏を飛行するHAPSから地上のアンテナに向けてUHF帯の電波を送信し、HAPSと地上アンテナまでの距離や天候(晴天、曇り、雨)、さまざまなHAPSの飛行パターン、送信電波の帯域幅などの条件より、電波の受信状況にどのような影響が表れるかを評価した。

また、HAPSを介した通信では、ユースケースに応じて HAPS1台あたりに接続しているユーザー数が変化し、利用ユーザー数が多いほど1人あたりの帯域幅が狭くなり、享受できるスループットも低くなる。そこで今回の測定では、地上のユーザーがHAPSを介した通信で利用できるスループットを低・中・高の3段階に設定し、HAPSによる通信サービスの提供におけるさまざまなユースケースへの汎用性を検証した。加えて、低速ながら長距離の通信が可能となる低い周波数(450MHz)を使用した約140kmに及ぶ長距離接続の伝搬測定にも成功した。

以上の試験内容により、UHF帯電波を用いる HAPS とスマートフォンの直接通信が最大約140kmの距離にわたり、十分な通信品質を実現可能であることを確認した。


【各社の役割】

ドコモ ・伝搬測定試験に向けたオペレーション
・測定結果の分析、およびそれを基にしたユースケースの検討
エアバス ・HAPSによる成層圏での伝搬測定試験実施
・測定データの抽出および分析
関連サイト
NTTドコモ

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山田 航也

横浜出身の1998年生まれ。現在はロボットスタートでアルバイトをしながらプログラムを学んでいる。好きなロボットは、AnkiやCOZMO、Sotaなどのコミュニケーションロボット。

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