NTT東日本が取組む「スマートホーム・マンション物件ソリューション」最前線 Matter、Wi-Fi HaLow、ECHONET Lite

NTT東日本はこれまで、「フレッツ光 マンション全戸加入プラン」をはじめとする通信インフラの提供等を通じて、マンション管理会社や不動産会社と協力しながら、入居者の利便性向上に取り組んできている。
そして直近では、データの大容量化に対応する10Gbps光回線「フレッツ光クロス」の提供エリア拡大や、VDSL・LAN配線方式から光配線方式へのサービス移行に取り組んでいる。

NTT東日本は2025年1月21日(火)に「地域ミライ共創フォーラム2025」を開催。その中でマンション向けに提供しているスマートホーム・ソリューション、「Matter」や「Wi-Fi HaLow」等を中心としたコンセプト展示を公開した。



スマートホームの世界共通規格「Matter」への期待

スマートホーム市場は年平均約10%以上の成長率が見込まれ、世帯普及率は2025年に77.6%、2029年には92.5%に達すると予想されている、という。しかし、家電のメーカーや器具ごとに通信規格が異なり、相互接続や一括での統合制御が難しいという課題があり、一般家庭への普及は停滞しているのが実状だった。そこで、スマートホーム機器の世界共通規格「Matter」(マター)に注目が注がれている。


「Matter」とは

「Matter」は米「Connectivity Standards Alliance」(CSA)によって策定されているスマートホームの通信規格だ。アップルやグーグル、アマゾンなどが参画し、Amazon Echoなども対応している。

異なるメーカーの機器間でもシームレスに連携・制御が可能となるのが最大の特徴だ。NTT東日本は、2023年9月に日本の通信事業者としては初めて「Matter」の標準化団体「CSA」に「Participant」会員として加盟をした。



次世代通信技術「広域 Wi-Fi“IEEE802.11ah”(Wi-Fi HaLow)」の可能性

「Wi-Fi HaLow」(ヘイロー)は、「IEEE802.11ah」(Wi-Fi HaLow「11ah」)、「920MHz」帯を使用する次世代Wi-Fi規格だ。一般に「Wi-Fi」というと、「2.4GHz」か「5GHz」帯が使われているが、両規格より低い周波数を使用する、いわゆる「プラチナバンド」と呼ばれる周波数帯域だ。そのため、電波の回り込みに優れ、通信距離が大幅に伸びるという特徴もある。NTT東日本によれば、屋内外で数百メートルから最大1km程度までカバーすることができるという。



「Wi-Fi HaLow」で、マンション一棟の通信をまるごとカバー

「Wi-Fi HaLow」を導入することにより、通信インフラのコストを抑えつつ、屋内外の広範囲でカメラを含めたIoT機器の利用が可能となる。
広範囲・複数階にわたるマンション設備全体をカメラで監視する場合、従来規格のWi-Fiでは、複数のAP(アクセスポイント)を設置する必要があり、費用対効果の観点から実用は非現実的だったが、11ahは1つのAPで広範囲をカバーできるため費用対効果の問題を解決し、効率的なマンション設備の監視を実現する可能性を有している、としている。



物件管理業務の効率化へチャレンジ

NTT東日本は、パートナーであるマンション管理会社や不動産会社の従業員の働き方改革への対応が喫緊の課題かつニーズが大きいと判断し課題解決に注力している。

例えば、ゴミ置き場の散乱や設備の稼働不良等の現地対応を要する管理業務に対し、無線通信ソリューションとIoT機器を活用することで、遠隔からこれらのトラブル対応を完結できる環境を整備する。これにより従業員の業務負担軽減に加え、入居者要望への対応スピード向上やトラブルの早期解決の実現も期待ができる。

将来的には管理業務用途のデバイス活用に留まらず、入居者向けサービスにまで発展させることで不動産の物件価値向上にも繋げることもめざす、としている。


「11ah」×「Matter」により遠隔からトラブル対応が可能に

11ah の広域通信で、屋外設備や上層階まですべてのセンサー・IoT 機器をネット接続し、Matterで統合管理することで「建物の状態を遠隔で一括把握」できるようになる。これにより、下記のようなトラブル対応の稼働削減が期待される。


不法駐車・駐輪、ごみ置き場の散乱対応(IPカメラ)

現在:従業員が入居者や近隣住民の連絡を受けて、現地に駆け付け目視で状況確認後に関連業者に対応依頼

将来:従業員が入居者や近隣住民の連絡を受けて、IP カメラで状況確認後に関連業者に対応依頼
トラブル発生の抑止およびライブ映像の定期監視により、連絡前に事前対応することも可能

入居者メリット:トラブル対応時間が短縮化されるとともに、建物監視による安心・安全に繋がる

物件の内覧立ち合いの稼働削減や鍵紛失リスクの解消(スマートロック)

現在:内覧時に物理鍵を持参し従業員が立ち会い、退去時や鍵の紛失時には入居者から問い合わせを受け業者を手配

将来:スマートロックを活用した遠隔内覧により立ち会いが不要に
退去時や鍵紛失時の入居者対応もアプリにより簡易に実施

入居者メリット:不動産会社の窓口で内覧申込することなく、アプリから申込・内覧の実施が可能
スマートロックであれば退去時の物理鍵返却の手間も削減、鍵紛失リスクも解消

武蔵コーポレーションと不動産業界初の11ahを活用した実証を開始

不動産管理業務の効率化および物件付加価値の向上を目的として、埼玉県を中心に約3万2000 室を管理する武蔵コーポレーション保有の賃貸管理物件10棟において、11ahとIPカメラを活用した実証実験を2024年11月から開始した。11ahを活用した不動産管理業務のDXの取組みは、不動産業界初となる。


スマートホームラボを開設し、パートナーとのソリューション開発や啓蒙活動を実施

2024年1月にスマートホームラボを開設し、Matter を活用したスマートホームの体験や、Matter に関連する共同実証・開発を実施し、日々、展示物を拡張している。「スマートルーム」、「スマート管理人」、「ホームヘルスケア」の3エリアを設け、さまざまなIoT メーカーの機器を展示している。

Matter対応ゲートウェイをJIG-SAW社と共同開発

機器同士やユーザーインターフェースの円滑な連携を実現するために鍵となるのがMatter対応ゲートウェイだ。Amazon AlexaやGoogle Homeで、対応機器を統合して制御できる。

Matter対応ゲートウェイ

NTT東日本はJIG-SAW社と連携し、Matterを活用してスマートホームに取り組みたい事業者ごとのニーズに応じて、柔軟に活用いただけるMatter対応ゲートウェイを開発した。他社ゲートウェイと比較してメリットは下記の通り。

・ホワイトブランドとして卸提供することで、 事業者は自社サービスとして入居者へ提供可能

・アプリ・UIを個社ニーズに合わせてカスタマイズ可能

・利用端末から取得するデータを事業者が活用可能

ユビキタスAI社開発の「Matter×ECHONET Liteブリッジ」プロトタイプを展示開始


ユビキタスAI社が開発した「Matter×ECHONET Liteブリッジ」プロトタイプを2025年1月21日よりスマートホームラボで展示開始する。

「ECHONET Lite」は、2011年12月に経済産業省が認定した「HEMS」の標準プロトコルで、国内IoT家電で多く採用されている。「HEMS」は「Home Energy Management System(ホーム エネルギー マネジメント システム)」の略称で、家庭で消費するエネルギー量を節約できる管理システムのようなもの。同機能を搭載した機器の累計出荷台数は、2022年度末には1億3,879万台に達している。

ただ、既に国内市場で普及が進んでいる「ECHONET Lite」と「Matter」に相互互換性が無いため、両規格に対応したスマートホームのユースケースが実現できていない。それら、ユーザーの利便性を妨げている課題を解決するためのソリューションとして提供する取り組みだ。


「Matter × ECHONET Liteブリッジ」により、両規格を対応機器であれば、メーカーを問わず、HOMEアプリ1つで操作可能になる。本展示をきっかけとして、パートナー企業との連携を通じ、NTT東日本は宅内における入居者の利便性向上に向けたスマートホームソリューションの提供を引き続き検討していくとのことだ。

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