京セラが通信インフラ基地局事業に参入 AIを活用した5G仮想化基地局を開発・商用化 「O-RU Alliance」の設立も発表

京セラ株式会社は、AIを活用した5G仮想化基地局の開発を、商用化に向けて本格的に開始することを2025年2月18日に発表した。通信基地局にAIを導入して、通信やAIの効率運用をおこなう試みが世界的に注目されている。
また、京セラは同日に海外の通信ベンダー6社と「O-RU Alliance」を設立することも発表した。


説明会に登壇した(左から)京セラ株式会社 KWIC 戦略企画部 戦略推進部 責任者 中川 芳久氏、統括部長 福島 勝氏、副統括部長 堀 正明氏、無線ネットワーク第1開発部 部長 錦戸 正光氏

世界規模で業務DXが急速に拡がる中、それを支える通信インフラとして、5Gモバイルネットワークに改めて注目が集まっている。京セラは、国内外で培ってきた独自の通信技術と仮想化技術を用いて「NVIDIA GH200 Grace Hopper Superchip」を活用した汎用サーバー上に基地局機能を実現する。
また、新たにAIを活用して、基地局の高性能化、低消費電力化、保守・運用の効率化を推進する。京セラの5G仮想化基地局を最適なソリューションとして世界規模で提供することで、5G通信システムを更に普及させ、発展に貢献したい考えだ。

システムコンセプトイメージ


京セラの開発する 5G 仮想化基地局の特長


1.AI ベースの基地局機能

AIを活用することで、トラフィックの混雑分散や、最適な周波数割り当てを動的に行い、通信の高速化や通信品質の改善を実現する。
また、AIがトラフィックを監視し、基地局を構成する機器の使用電力を制御することで低消費電力化にも貢献。さらに、AI が運用や保守に必要な各種設定を自動的に制御・最適化することにより、効率的なネットワーク管理が可能となる。



2.デュアル・コネクティビティ機能

同社がこれまでに培ってきたアンテナ技術により、Sub6帯とミリ波帯の異なる二つの周波数帯に対応した「O-RAN規格」準拠の CU/DU/RU(O-CU/O-DU/O-RU)を開発。異なる周波数帯のトラフィックデータを汎用アクセラレーテッド・コンピューティング・サーバー上のソフトウエアで同時制御することで、トラフィックの急激な増加に対応する。
さらに、今後新たな次世代周波数帯が割り当てられた際も、ソフトウエアアップグレードで対応が可能となる。


3.基地局シェアリング機能

一つの基地局(CU/DU または O-RU)を複数の通信オペレータで共有化し、通信データを処理することが可能となる。基地局の設置数を減らすことで通信オペレータの設備投資や電気料金の削減につながり、5G 無線ネットワークのカバーエリアの効率的な拡大に貢献する。


4.カバーエリアの広域化と消費電力の低減

京セラがこれまで培ってきたソフトウエアの実装技術により、40キロ以上のフロントホールの長距離化を実現できるため、カバーエリアの広域化が可能となる。さらに、一つの
サーバーに「CU/DU」を高集約化することで、消費電力を低減する。

■ 無線ネットワーク比較イメージ




京セラが通信ベンダー6社と「O-RU Alliance」を設立

京セラは、3月3日(月)に、Alpha Networks Inc.(台湾)、HFR,Inc.(韓国)、Microelectronics Technology Inc.(台湾)、SOLiD Inc.(韓国)、VVDN Technologies Pvt. Ltd(インド)、WNC (Wistron NeWeb Corporation)(台湾)の6社と「O-RU Alliance」を設立する。


今後、京セラの「CU/DU」をオープンに開放し、このアライアンスに参画する通信ベンダー」と共に、互換性があり、柔軟な無線アクセスネットワーク(オープン RAN)環境の普及を目指す。今後、順次「O-RU Alliance」の参画メンバーを拡大する考えだ。

「O-RU」はOpen Radio Unitの略で、異なる通信ベンダーの機器やソフトウエアを組み合わせて利用できるようにすることを目指す「O-RAN規格」に準拠した「RU」のこと。「O-RAN規格」とは、無線アクセスネットワークのオープン化と相互運用性を促進するために「O-RANアライアンス」によって策定された共通仕様。各社がこの規格に準拠することで、異なるメーカーの機器間でも柔軟かつ効率的な連携が可能となる。


5G無線ネットワークを構成する「CU」「DU」「RU」

現在、通信インフラ市場において普及している「5Gの無線ネットワーク」は主に「CU」(Central Unitの略。無線アクセスネットワークにおいて、コアネットワークに近い部分でデータ処理や制御機能を集中管理するもの)、「DU」(Distributed Unitの略。無線アクセスネットワークにおいて、CUと連携して無線信号の処理やリアルタイム性が要求される処理を行うもの)、「RU」(Radio Unitの略。無線アクセスネットワークにおいて、無線信号の送受信を行い、基地局の一部としてアンテナと直接接続される物理的な無線通信のインターフェース)で構成されている。それぞれの機器は独立、あるいは一部一体化して設置されている。

各機器をつなぐインタフェースは一般に公開されていないため、既設の装置に接続できる機器は同通信ベンダーの機器や一部インタフェースが公開された通信ベンダーの機器しか接続できない状況だ。通信オペレータにとって、1社から CU/DU/RU を調達すると、システム安定性向上のメリットはあるものの、その機器の仕様や性能は通信ベンダー側に委ねられているため、システム構築の自由度が狭まるといったデメリットも抱えている。


このような状況から、近年、異なる通信ベンダーの機器を相互接続し、ネットワーク構築の自由度を広げる「5G RANのオープン化」が「O-RANアライアンス」などにより推進され、期待が高まっている。しかし、オープン化を進めるには CU、DU、そして RU に至る全ての設備を新しくすることが必要な上、既設通信ベンダーとの調整が大がかりなものとなり、通信オペレータにとって大きな負担となる。


「O-RU Alliance」とは

京セラが新たに設立する「O-RU Alliance」では、地域、国籍を超えた企業同士が互いに協力し、より自由度の高い無線アクセスネットワークを構築するためのエコシステムを共創する。O-RAN 規格に準拠した CU/DU/RU をシステムソリューションとして通信オペレータに提供することで、オープン RANの普及を促進するとしている。これにより、各通信ベンダーの5G基地局事業への参入をしやすくするとともに、通信インフラ市場の活性化を目指す。京セラは、「O-RU Alliance」の参画メンバーと共に、通信技術と関連産業の進歩発展を通じ、世界の人々の生活の利便性向上に寄与していく考え。


京セラと「O-RU Alliance」参画メンバーの具体的な取り組み

(1)相互運用テスト(Interoperability Testing :IOT)
京セラが提供する O-RAN 規格に準拠する CU および DU(以下 O-CU、O-DU)を参画メンバーに開放し、相互運用テストを共同で実施。
(2)ベースバンド部の提供
京セラが参画メンバーに O-RU の O-RAN インターフェース処理部のリファレンスデザインを希望する O-RU ベンダーに提供することで、参画メンバーはそれを利用することが可能となり、京セラの O-CU/O-DU との相互接続性が向上する。
(3)参画メンバーの紹介
京セラは参画メンバーを公表し、通信オペレーターに紹介することができるようになる。これにより、参画メンバーは、グローバルな通信オペレーターとのビジネスチャンスを構築でき、通信オペレーターはさまざまな通信ベンダーの O-RU を選定できるため、システム構築の自由度が広がる。




「MWC Barcelona 2025」に出展

京セラは、5G仮想化基地局を、2025年3月3日(月)~6日(木)にスペイン・バルセロナで開催される世界最大級の通信技術関連展示会「Mobile World Congress Barcelona 2025」に出展する。

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ロボスタ編集部

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