JALが全国56空港にアクセンチュアの「AIエージェント」を導入 「生成AI」の特性が活かせる3つの業務領域とは

アクセンチュア株式会社は、2025年9月9日、「AIエージェントによる全社変革の最新動向と当社オファリング」の記者勉強会を開催。報道関係者に向けて、AIエージェントや生成AIの活用について詳細に解説した。

AIエージェント記者勉強会に登壇した、アクセンチュア株式会社 執行役員 ビジネス コンサルティング本部 データ & AIグループ日本統括 AIセンター長 アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京共同統括 博士(理学) 保科 学世氏

アクセンチュアは本題に入る前に、「AIエージェント」や「生成AI」を現場ではどのように活用しているのか、具体的なユースケースとして日本航空株式会社(JAL)での導入事例を紹介した。


JALが全国の空港で抱える課題

日本航空株式会社(以下、JAL)の空港現場では、労働人口の減少に伴い、人財不足が深刻化しているため、業務の標準化と効率化が急務だという。それぞれスタッフが個別に持つ経験に依存した、これまでの運用方法では、高品質なサービスを維持するのが困難という意見もあり、空港全体のサービス品質や安定性を高いレベルに保つための変革が必要だった。
結果として、全国56の空港にアクセンチュアが開発した生成AI「AIエージェント」を導入し、業務の効率化と顧客サービスの向上において成果を出した。



JALが全国56の空港にAIエージェントを導入


3つの業務の効率化に着手

変革が急務だったのは「危険物検索」「ラウンジ入場条件検索」「イレギュラーアナウンス文作成」の3つの業務領域。現場での問い合わせや作業に時間がかかり、日常業務の負担となることもあった。

・危険物検索
・ラウンジ入場条件検索
・イレギュラーアナウンス文作成


「危険物検索」では、例えば窓口では航空機の利用客に対して、危険物などの機内持ち込みが禁止されているものがないかを口頭確認するが、その際に「このスプレー缶は機内に持ち込みが可能か」との質問があった場合、スプレー缶の中身や容量など、膨大なマニュアルから必要な情報を探し出して照合するために多くの時間を要し、場合によっては内線での問い合わせが必要になることもあった。

また、「ラウンジ入場条件検索」は、独自契約や空港ごとのルールが複雑で、スキルの習得が求められる。「イレギュラーアナウンス文作成」では、複雑な状況説明や多言語翻訳が迅速に求められ、現場に大きな負担がかかっていた。


ナレッジ支援システム『空港JAL-AI』を構築

そこで、このプロジェクトでは、現場の実態とニーズに基づき、グランドスタッフの知識や業務を標準化・効率化するナレッジ支援システム『空港JAL-AI』の構築に着手した。

まずは特に時間や労力がかかる業務を特定。「危険物検索」「ラウンジ入場条件検索」「イレギュラーアナウンス文作成」の3つの業務に焦点を当てることにした。経験豊富なスタッフや本部へのヒアリングを通じて、各業務の課題を明確化した。



機内持ち込みの可否をAIエージェントが迅速に回答

「危険物検索」では、スタッフがスプレー缶などの内容や容量をAIエージェントに問い合わせる。AIが瞬時にマニュアルと照合して回答、短時間で利用客に返答することができるようになった。また、AIはマニュアルのどの部分を参照して回答を出したかをワンタッチで明示する機能もつけ、スタッフ自身でもAIの回答の信用度を確認できるようにした。



アナウンス放送の文章を多言語で迅速に生成

「イレギュラーアナウンス文作成」とは、航空機の搭乗口の変更、遅延、トラブルなど、イレギュラーが発生した際に、スタッフによる構内放送のアナウンスを行う。その際の文言を多言語で作成する必要が生じるが、必要な情報を入力することでAIエージェントがアナウンス文章を迅速に生成する。


多言語は日本語、英語、中国語、韓国語、ベトナム語での案内文を作成。音声出力もAI がサポートしてくれる。


AIエージェントの導入効果は現場でも明確に

その後、プロトタイプを開発し、成田と羽田の主要空港で2~3週間の実証導入を実施した。スタッフに対しておこなった初回のアンケートでは、iPadの操作性や回答スピード、回答の信頼度、知識の追加に関するフィードバックが多く寄せられた。

導入初期の頃は「操作が煩雑」「AIは現場向きでない」といった現場ならではの抵抗感があったが、本番導入に向けて選択式UI/UXを導入するなど、現場目線での改善を重ねたことで、広く受け入れられはじめたという。

これを受けて、チャットでのプロンプト入力だけでなく、選択式UI/UXの追加や根拠ドキュメントの引用表示、担当者が知識を簡単に追加できる仕組みなど、実運用に即した改善を進めた。

開発は当初、アクセンチュアが単独で進め、その後JAL向けの生成AIアプリを導入していたアバナードと連携。全国展開に際しては、各空港にAI普及のキーパーソンを選任し、教育や導入支援を強化した。

そして、2025年4月には、全国56空港への一斉展開を実現。現場の声を反映した改修・拡張を継続的に行なっている。『空港JAL-AI』の導入により、グランドスタッフの業務負担軽減と業務品質向上が着実に進んだという。


AIエージェント導入のメリット

アンケートでは「危険物検索」や「イレギュラーアナウンス文作成」については、グランドスタッフの90%以上が「お客さまへの回答速度が向上した」「アナウンス文作成速度が向上した」などと回答があった。

「ラウンジ入場条件検索」についても、ラウンジスタッフの70%以上が回答速度の向上を実感。特に、「膨大なマニュアルを探す手間がなくなり、AIエージェントが瞬時に答えを出してくれる」「お客さまへの案内も詳細を説明しながら丁寧に対応できる」「イレギュラー時でも短時間で高品質なアナウンス文を出せる」「新人や外国籍スタッフでも自信を持って対応できる」といった声があがっているという。

こうしたAIの活用により、誰でも同じ基準や根拠に基づいた案内ができるようになり、スタッフごとの知識差や経験による属人的な対応、誤案内のリスク回避につながった。
今後も現場ニーズを吸い上げながら、継続的な機能拡張と品質向上を目指していくと語った。

こうして実績を上げはじめた「AIエージェント」と「生成AI」。アクセンチュアでは他にどのような分野で展開を予定しているのか。自社ではどのように活用しているのだろうか。
更にアクセンチュア「AIエージェント」の構成や今後の展開など、記者勉強会についての詳しい情報は、引き続き他の記事で紹介していくのでお楽しみに。


アクセンチュアのオンラインセミナーを11月に開催

ロボスタでは、アクセンチュアの保科氏が登壇するオンラインセミナー「アクセンチュア「AIバディ」が社会を変える!人と共に進化し協働する AIエージェント の全貌と実装戦略」を2025年11月12日(水)に開催します。
アクセンチュアの第一線で活躍する保科学世氏が、AIエージェントの定義から社内での先進事例、企業導入の実際、そして未来像までを徹底解説。働き方のパラダイムシフトを大胆に解説します。

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神崎 洋治
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神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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