
JCOM 株式会社は、コールセンターに生成AIを活用したシステム「JAICO」を開発し、昨年7月から導入。1,000人以上のオペレーターが利用、月に1,500時間の業務削減効果を上げていることを発表した。月に20万件の要約データを生成している。
使用している生成AIは主に、Googleの大規模言語モデル(LLM)「Gemini」とその周辺技術など、Google Cloudプラットフォームのエコシステムを展開している。システム開発やチューニング、技術的な運用支援はアクセンチュアが行っている。
1,000人以上のオペレーターが利用、月に1,500時間の業務削減効果
「JAICO」の開発にあたり、JCOMのコールセンター業務では、「コール後の処理作業の効率化」「案内ミスや漏れを防止するための、オペレーターのスキルに依存しない履歴内容の均一化」「コール削減に繋げるための、コールリーズン分析の向上」等の課題があった。これらの課題に対してDXやAIでの解決に着手した。
「JAICO」の主な機能と、AI活用の領域は次の通り。
ユーザー情報の表示
着信があったユーザーの情報をオペレーターの画面に表示。直近の利用状況やコール履歴、滞納情報などをサマライズして提示。
ナレッジレコメンド
問合わせ/質問の内容をオペレーターが入力、Gemini(AI)がその意図を識別/理解して最適と思われる回答を生成、資料を提示して支援。
通話履歴要約
ユーザーからの問合わせ内容やオペレーターの回答を要約し、分析を前提とした履歴データを生成、ナレッジとして蓄積。
応対品質評価
通話終了後、通話の満足度や品質をAIが評価。通話状況からユーザーの感情を分析。大量の問い合わせ発生時もリアルタイムで分析、高レベルで迅速な対応が可能になっているという。
月に20万件の要約データを生成
「JAICO」は月に20万件の要約データを生成しているという。要約データの具体的な内容は、対応の概要、要望の解決状況、要望の背景、オペレーターの対応、感情分析等がある。
感情分析を応対品質や顧客満足度の向上に活用
「JAICO」の特徴的な取り組みとして「感情分析」がある。通話の冒頭と終了時にAIがユーザーの感情を分析して「ネガティブ」「ニュートラル」「ポジティブ」の3段階で評価。冒頭と終了時の感情の変化を分析することで、顧客満足度の解析と理解、応対品質の向上へのノウハウを蓄積している。
アクセンチュアが立案から実装までを支援
開発と運用支援にはアクセンチュアが連携。「JAICO」の立案から開発、チューニング、実装等を担当した。
特にプロンプトの調整やデータ構造設計に時間をかけるとともに、RAG等のチューニングに半年を、ハルシネーション防止や回答精度の向上に注力した。LLMの活用と実装のプロセスでは、これらの作業の精度がとても重要になる。
アクセンチュアは本来、Google Cloudに限らず、他社のクラウドプラットフォームやLLMとの連携にも強い。
今回、Google Cloudを選択した理由は、複数の生成AIを検討し、プロジェクト立ち上げ当時のGeminiの技術の進展が著しかったこと、コールセンター業務内容に、Googleが持つ検索の知見との親和性が高かったことなどを総合的に判断して、JCOMにGoogle Cloudを提案した。
アクセンチュアはグローバルでGoogleとのアライアンスを持っており、Googleの最新ソリューションをいち早く導入可能にし、トラブル発生時も迅速に対応できる体制を提供している。
アクセンチュアは「Gemini Pro」長文のデータ処理や複雑な推論が可能な点に着目。Googleの検索能力を活かせる「Vertex AI Search」と「BigQuery」を組み合わせた。
Google Cloudがデータ基盤とエコシステムを提供
JCOMが蓄積している膨大なデータを効率的に処理できるプラットフォーム(基盤)環境はこのプロジェクトを支える要となる。Google Cloudがそれを担った。
Googleは現在、営業・カスタマーサービス・マーケティング支援など「社内従業員向け」と、ユーザーや連携パートナー向け「社外ステークホルダー向け」という2つの観点で、AIエージェントの導入を支援している。JCOMの「JAICO」もその好例だ。コールログという膨大な非構造化データを起点に、Google Cloudの技術(BigQuery、Vertex AI Search、Geminiなど)を組み合わせて構築されている。
Google Cloudは世界最強レベルのLLM「Gemini」を提供。高度な言語理解能力によって、要約をはじめとしたコールセンターのテキスト関連業務をささえる。更に、アクセンチュアとともに、Geminiが理解しやすいようにデータ構造を工夫し、正確な回答を導けるように支援した。
■AIレディなデータプラットフォーム
・エージェントの価値を最大化するにはデータが鍵。
・BigQueryを中心に、非構造化/構造化データを統合。
・ビジネス文脈の理解(固有用語対応)、マルチモーダル対応、リアルタイム処理、データガバナンスを重視。
■データエージェントの活用
・データエンジニア、データサイエンティスト、ビジネスユーザー、開発者向けにそれぞれ最適化したエージェントを提供。
・専門家の作業を効率化するとともに「データ活用の民主化」を進め、専門知識がなくても高度なデータ活用が可能。
・新しく「BigQuery AI SDKツールキット」や「Agent Space」を提供し、多数のエージェントの開発・管理・利用を容易にしている。
Google Cloudは 生成AIとデータクラウドをシームレスに統合し、実用化するJCOMや、開発を担当するアクセンチュアが効率的かつ高品質なAIエージェントを開発・活用できるよう支援した。
ロボスタでAIエージェント関連のオンラインセミナーを開催(アクセンチュアが登壇)
ロボスタでは11月のオンラインセミナーで、AIエージェントに関連するセミナーを開催します。既に社員に導入を実践しているアクセンチュアから、執行役員の保科氏をゲストに迎えて、AIエージェントの現状とビジョン、未来展望をお話しして頂きます。ふるってご参加下さい。
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神崎 洋治
神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。