
日本電信電話株式会社(NTT)は、ロボットとの会話などを通じたインタラクションの経験が5歳児の「利他的行動」や「心の感じ方」に与える影響を、実験心理学的手法で実証したと発表した。
研究では、発話や身振りを交えたやり取りができる「社会的ロボット」との会話やふれあい(インタラクション)を経験すると、戦略的な社会性が発達する5歳児はそのロボットの前では「利他的行動」が促進されることを発見した。
大阪の「NTT コミュニケーション科学基礎研究所 オープンハウス2025」(5月20日(火)~22日(木):事前登録制)でも公開され、担当者による講演セッションも用意されている(ロボットに心を感じる子どもたち ~未来の幼児教育を支える学習コンパニオンロボット~ 協創情報研究部 奥村 優子氏)。
◆5歳児は、発話や身振りを交えたやり取りができるロボットとのインタラクションを経験すると、そのロボットの前では利他的にふるまうことを実証した。
◆ロボットとのインタラクションを経験することで、子どもはロボットを幸せや悲しみを感じる「心ある存在」と捉えるようになる可能性を示唆した。
◆本成果は、ロボットを子どもの学びを支える学習コンパニオンとして活用するための指針となり、AIを活用した新たな幼児教育への貢献が期待される。
社会的ロボットが5歳児の利他的行動に影響
ここで言う「利他的行動」とは、自分の利益を犠牲にして、他者の利益のために行動を選択すること。人前で”良く見えるように行動”すること。例えば、複数枚のシールを持っている子どもが友達に「シール」(または飴玉など)を分け与える場合、「社会的ロボット」の前では、シールを多めに渡す行動をとる等があげられる。
子どもは親や先生が見ている前では、そのような利他的行動をとることが理解できるが、「社会的ロボット」の前でも同様の行動をとり、自分への評価を意識した行動に繋がる傾向にある、としている。
「インタラクション可能な社会的ロボット」とは
ここでいう「インタラクション可能な社会的ロボット」とは、会話機能や反応などのインタクティブ性を持ったロボットのこと。インタラクション機能を持たない(例えば、動かないロボットや単純な動きしかしない)ロボットの前では、「利他的行動」が見られない傾向にあるという。
これにより「インタラクション可能な社会的ロボット」を、心がある存在として認識することも明らかになったとしている。
この成果は、ロボットを子どもの学びを支える学習コンパニオンとして活用するための指針に利用でき、今後の幼児教育のあり方を考える上で貴重な知見を提供する、としている。
この成果は、5月20日より開催される、コミュニケーション科学基礎研究所オープンハウス2025に出展される。また、既に東京会場では、報道関係者向けにブースで先行展示されていた。
子どもがロボットをどのように認識し、受け入れるのか
近年、学習のあり方が多様化している。AIやロボットを活用した教育にも注目が集まっている。子どもがロボットから知識やスキルを学ぶ機会は今後さらに増えて、近い将来、ロボットは子どもの学びを支える学習コンパニオンとして、私たちの生活に関わっていくと考えられる。
同社は、技術の進展により、ロボットが生活に関わる機会が増える中、子どもがロボットをどのように認識し、受け入れているのかを明らかにすることは、幼児教育への応用の観点から重要であり、こうした知見は、ロボットを活用した教育の設計指針に活かすことができ、幼児教育の向上にもつながるとしている。
この研究では、子どもがロボットをどのような存在としてとらえているのかに注目して、検討を進めた。
子どもは成長の過程で、他者への共感から始まり、段階的に様々な社会性を身につけていくことが知られている。この研究では、5歳頃から発達がみられる戦略的な社会性に注目し、ロボットがどのような影響を与えるかを実験心理学的手法により検証した。
この研究の成果
1.ロボットとのインタラクションが子どもの利他的行動に与える影響
子どもは5歳頃になると、誰かに見られていることに敏感になり、観察されているときには自分を良く見せようとする。例えば、観察者の前では、自分が持っているものを他者に多く分け与える「利他的行動」をとったり、「不正行動」を控えたりする傾向がある。
しかし、観察者がロボットの場合、子どもがどのように行動を変化させるかについては、これまで明らかにされていなかった。そこで、この研究では、5歳児がロボットに見られているときに良い行動を示すのか、また、ロボットとのインタラクションの経験が子どもの行動にどのような影響を与えるのかを検証した(前出の図1)。
実験では、まず子どもがロボットと対面する場面を設けました(図2のA)。社会的ロボット条件では、子どもは、発話や身振りを交えたやり取りが可能なロボットとのインタラクションを経験した。
一方、非社会的ロボット条件では、プログラムされた発話や動作を定期的に再生するだけでインタラクションが成立しにくいロボットと接した。さらに、静止ロボット条件では、動かないロボットと接した。また、観察者がいないロボットなし条件も設定した。
次に、子どもの「利他的行動」を測定するために、シール分配課題を実施しました。この課題では、子どもに10枚のシールを渡し、ロボットの前で自分と他者との間で分けるよう求めた。
実験の結果、5歳児は、社会的ロボットとのインタラクションを経験すると、そのロボットの前では他者に与えるシールの枚数が増えるという利他的行動を示した(図2のB)。一方、非社会的ロボットや静止ロボットの前では、観察者がいない場合と行動は変わらず、他者にはあまりシールを分けない傾向が確認された。これらの結果は、ロボットとの社会的インタラクションの経験が、5歳児の利他的行動を促進することを示唆している、としている。
ロボットが子どもに与える印象
子どもの行動に影響を与えるロボットの特性を明らかにするため、ロボットが子どもにどのような印象を与えるのかを調べた。
5歳児に対して、社会的ロボット、非社会的ロボット、静止ロボットと接した後、「ロボットは物を見ることができるか(知覚)」、「ロボットは賢いか(有能性)」、「ロボットは幸せや悲しみを感じるか(心)」という特性について尋ねた。各質問では、「とてもそう思う」から「全くそう思わない」までの7段階で評価してもらった。
その結果、5歳児は、知覚と有能性については、社会的ロボットと非社会的ロボットのいずれにも高い評価をした。両者の間に有意な差はなかった。
一方、心に関しては、5歳児は社会的ロボットに対して、非社会的ロボットや静止ロボットよりも、「心」を強く感じていることが明らかになった(図3)。これは、ロボットとのインタラクションを経験することで、子どもがロボットを幸せや悲しみを感じる「心ある存在」と捉えるようになる可能性を示唆しているという。
この成果は発達心理学分野で権威ある国際論文誌 Child Developmentに発表された。
今後の展開
NTTは、この成果が、社会的ロボットが子どもの自律的な学びに寄り添う学習コンパニオンとして有用である可能性を示していると結び、AIを活用した幼児教育の設計指針の基盤として利用することが期待できるとしている。
NTTコミュニケーション科学基礎研究所では、子どもの学習メカニズムを科学的に解明する基礎研究と、その知見を活かしてロボットを用いた幼児教育支援技術の応用研究の両面に取り組んでいる。
現在は、社会的ロボットを活用して、子どもの好みや発達段階に応じて個別最適化した絵本を推薦するAIシステム「ぴたりえタッチ」の研究を進めています(図4)。さらに、社会的ロボットと絵本の感想を音声対話するシステム開発も進め、子どもの絵本読み活動をより活性化させる効果的な支援技術の創出をめざしている(そのシステムがイベントでは体験できる)。
同研究所は「今後も、子どもとロボットの関わりの検証を通じて子どもの学習メカニズムへの理解を深めながら、子どもが学びやすい支援方法を考案し、幼児教育を支える学習コンパニオンロボットの実現をめざしていきます。」とコメントしている。
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